2021年12月現在、国土交通省が認定する、ドローン関連の資格の管理団体は75団体あります。
「管理団体って何が違うの?」
「結局のところどの管理団体が良いの?」
と疑問に思ってしまうのではないでしょうか。
中でも、農業ドローンの分野において大きな存在感を持つ団体に、一般社団法人農林水産航空協会(農水協)があります。
今回の記事では、農林水産航空協会の概要や事業のほか、農林水産航空協会の認定する資格の種類や特徴、農林水産航空協会の資格が向いている人などの情報を紹介します。
こちらの記事を読めば、農林水産航空協会やその認定資格について理解できる内容になっています。ぜひ最後までお読みください。
一般社団法人農林水産航空協会とは
一般社団法人農林水産航空協会は、日本の農林水産分野における航空技術の活用全般を担っている、公益性の高い団体です。
略して「農水協」と呼ばれることもあります。
まずは、農林水産航空協会という団体について紹介します。
農林水産航空協会の団体概要
農林水産航空協会の設立は1962年です。
日本の農林水産分野における航空機を利用する事業の発展を目的として、当時の農林省(現在の農林水産省)の許可を得て設立されています。
現在活動しているドローン関連の団体の多くは2010年代半ば以降に設立されていますので、ドローン関連団体の中では最も古い歴史を持つ団体のひとつと言えます。
事業目的は広く、農林水産分野において様々な航空機や技術を活用することで、次の3つを達成することとしています。
- 日本の食料自給率の向上
- 食の安全
- 生活・自然環境の保全
農林水産航空協会の特徴
農林水産航空協会の歴史は古く、ドローン普及以前から日本の農林水産分野において活動していました。
そのため、他のドローン管理団体と比べると次のような特徴があります。
ドローン以外の航空機も事業対象である
農林水産航空協会では、農林水産業界で使用される全ての航空機を事業対象としています。
ドローンだけでなく、有人ヘリコプターや航空機なども取り扱っている点が、他のドローン関連団体と大きく異なる点です。
例えば農薬散布を例にとってみると、ドローンを使用した農薬散布だけでなく、従来より行われているヘリコプターを使用した農薬散布の知見やノウハウも持っている団体です。
農林水産省との結びつきが強い
農林水産省との結びつきが強い団体であるという点も特徴のひとつです。
例えば、ごく最近まで農林水産航空協会は国内唯一の「登録代行機関」として農林水産省から指定を受けていました。
その当時は、ドローンによる農薬散布などを行おうと思った場合には、機体・操縦者のいずれも農林水産航空協会の認証を受ける必要がありました。
現在では農業分野におけるドローン活用に関するガイドラインが変更され、この仕組みはなくなっています。
しかし、農林水産航空協会が日本の農業ドローン業界において大きな影響と農林水産省との繋がりを持った団体であるという点については変わりありません。
農林水産航空協会の事業
農林水産航空協会では、日本の農林水産分野における航空技術の活用と安全性の確立を目指して、次のような事業を行なっています。
- 農林水産航空事業にかかる技術の研究・開発事業
- 農林水産航空事業にかかる情報収集・提供及び組織の育成事業
- 農林水産航空事業の安全な実施にかかる教育研修並びに機材の検定事業
- 農林水産航空事業にかかる試験・調査事業
- 農林水産航空事業にかかる産業用無人ヘリコプター飛行技術競技大会並びに技術研修会事業
- 航空法に基づく許可・承認申請等の手続き
中でもドローンの活用に関連が大きい事業内容としては、次のようなものが挙げられます。
農業ドローンの機体の検定事業
農林水産航空協会では、農業用ドローン機体の検定を行なっています。
農業用ドローンは機体自体が一般のドローンに比べて大きいという特徴があります。また、農薬など危険物を運搬・散布することから、より厳密な安全性が求められる機体です。
農林水産航空協会では、農業用ドローンの安全性や性能についてしっかりと確認し、安全に活用できると考えられる機体を認証しています。
以前はこの検定で認証されなければ日本国内で農業用ドローンとして使用することはできませんでした。
現在はその限りではありませんが、認証機体として認められることで、対外的な信頼性の確保が可能となる他、認証機体でなければ申請できない助成金があるなどのメリットがあります。
ドローン操縦者の教育・検定事業
農業用ドローンの安全な活用には、操縦者の高いスキルと知識が不可欠です。
農林水産航空協会では、確かな技術と知識を有した操縦者を育成することを目的として、特定のカリキュラムでの操縦者育成コースを実施しています。
また、コース修了者には「産業用マルチローターオペレーター技能認定証」というライセンスを発行しています。
詳しくは後ほど紹介しますが、このライセンスは操縦者の操縦技術や知識を証明するだけでなく、認証機体を購入するために必要なライセンスです。
農業ドローンの安全に関する事業
すでに言及した通り、農業ドローンはその使用目的から、一般のドローンよりもより厳格な安全対策が期待されます。
農林水産航空協会では機体の認証や操縦者の育成の他にも、農林水産分野における航空技術の安全な活用を目指して様々な取り組みを行なっています。
ドローンの活用に関しては、オペレーター(操縦者)・ナビゲーター(指示者)両者を対象に、独自の安全対策マニュアルを作成・配布しています。
マニュアルはweb上に公開されており、公式サイトから閲覧することができます。
農林水産航空協会資格の意義ー認定ドローンを購入するには、認定コース修了が必須
前の章で紹介した通り、農林水産航空協会では農業ドローンの操縦に関するライセンスを発行しています。
しかし、現在の日本の法律ではこのライセンスがなければ農業でドローンを使用できない、というわけではありません。
現行の農業ドローンライセンスを取得する意義は次の2点にあると言えます。
- 認定機を購入するために、対応するライセンスが必要
- 安全運行・安全管理に関する社会的信頼性が担保できる
こちらの記事では、この2つの意義について簡単に説明します。
なお、農業ドローンの資格に関しては下記の記事でもより詳しく解説しています。関心のある方はぜひ合わせてご覧ください。
必要資格は機体選びで変わる!農業用ドローンの技能認定を徹底解説
認証機を購入するにはライセンスの取得が必須
農業ドローンライセンスの大きな意義として、農業用ドローンとして認証を受けた機体(ドローン)を購入するには、対応したライセンスの所持が必須である、というものがあります。
前の章でも説明した通り、農業用ドローンは農薬など危険物を積載することもあり、通常のドローンよりもずっと高い安全性能が求められます。
そのため、操縦者の技術や知識を証明するためにライセンスがあるように、農業ドローンには機体の性能を証明する仕組みがあります。
それが、機体認証です。
農業ドローンの機体は、農林水産航空協会のような管理団体がドローンの機体性能などを厳しく検証しています。
検定の結果安全性を認められた機体は「認証機」と呼ばれます。
認証機を購入するためには、その機体を認証した管理団体の発行するライセンスを取得している必要があります。
2022年1月現在、国内で農業用ドローンのライセンスを発行している団体は農林水産航空協会とUTCの2団体のみです。
それぞれの団体によって認証機が異なります。
また、農業ドローンのライセンスは機種ごとに異なります。
ひとつのライセンスを取得すればどの機体でも購入できるわけではないという点にも注意が必要です。
購入したいドローンに対応した団体で、対応したライセンスを取得しましょう。
農林水産航空協会認定機一覧
2021年12月現在、農林水産航空協会の認定を受けている機体は以下の19種類です。
※左側がメーカー、右側が型番
機種ごとの性能についてはこちらから確認できます。→マルチローター及び散布装置の性能一覧
非認証機であればライセンスは不要
以前は認証機でなければ農薬散布などの業務に使用することはできませんでしたが、現在はガイドラインが変更され、非認証機であっても自己責任の元で使用することができます。
そのため、非認証機を使用する場合は該当のライセンスを取得している必要はありません。
ただし、非認証機を使用する場合には全ての責任が自分にかかってくるということを理解しておく必要があります。
農業ドローンでは農薬などの危険物を運搬するため、万一の事故や整備不良が甚大な被害に繋がりかねません。
性能の保証がない非認証機を使用するということは、安全管理や万一の際の責任を全て自分で負うことになるのだということは覚えておく必要があります。
ライセンスがあれば、安全運行・安全管理に関する社会的信頼性が担保できる
もうひとつライセンスの重要な役割として、社会的な信頼性の担保という側面があります。
農業におけるドローンの方法のメインは農薬や肥料の散布です。
ドローンを利用することで、人の手で散布するよりもずっと早く手軽に、広範囲にわたって散布を行うことができます。
一方で、農薬は劇薬であり、毒性が強いなど取り扱いに注意を要するものも少なくありません。
そのような薬品をドローンを用いて運搬し、上空から散布するにあたっては、通常のドローン操縦技術だけでなく農薬の安全利用に関する深い知識が必要とされます。
農業ドローンの資格を取得するためには、ドローンの操作技術だけでなく、農薬など薬品の取り扱いや安全管理、関連法規などの知識もしっかりと学びます。
そのため、この資格を持っているということは、ドローンに関する確かな技術と、農薬などの安全に関する深い知識を有している証明となります。
ライセンスを持った操縦者は、ドローンや農薬などの薬品などについて十分な知識と安全管理技術を有していると団体が認めた人です。
また、認証機は農業用ドローンとして十分な安全性を有していると管理団体が認めた機体です。
農業の現場において認証機を使用しているということは、人・機体ともに高い信頼性を担保されているということができるのです。
農家さんや周辺住民の方の安心や信頼を得るために、ライセンスが有効に働く場面も少なくないでしょう。
農林水産航空協会のライセンス
農林水産航空協会が認定するライセンスは、「産業用マルチローターオペレーター技能認定」というものです。
また、この資格はさらに、対応する機種ごとに細かく分かれています。
産業用マルチローターオペレーター技能認定を受けるためには、農林水産航空協会の認定スクールに通い、所定のコースを修了する必要があります。
産業用マルチローターオペレーター技能認定の特徴・おすすめな人
これまでに紹介した通り、産業用マルチローターオペレーター技能認定がなければ、農林水産航空協会の認定ドローンを購入することはできません。
そのため、農林水産航空協会認定機を購入・使用したい人にとっては必須の資格です。
この資格がおすすめな人というのはつまり、認定機の使用がおすすめな人、ということになります。
例えば、次のような人にはおすすめです。
- 安全性についてしっかりと証明された機体を使用したい人
- 一般に信頼性の高い機体を使用したい人
- すでに農業分野(散布分野)での活用実績・事例が多くある機体を使用したい人
- 顧客や周辺住民などに安心してもらえる根拠材料として認証機を使用したい人
- 認証機でなければ受けられない助成金を受けたい人
産業用マルチローターオペレーター技能認定のカリキュラム
産業用マルチローターオペレーター技能認定を受けるためには、農林水航空協会の定めたカリキュラムを修了する必要があります。
農林水航空協会では、次のように定めています。
【学科】
- 農林水産航空事業に関すること
- 病害虫・雑草防除等マルチローター利用技術に関すること
- 農薬の安全使用に関すること
- マルチローターの運用管理に関すること
- 機体の取り扱い及び安全使用に関すること
- その他、必要な事項
【技能】
- マルチローター及び散布装置の操作に関すること
- マルチローター及び散布装置の取扱いに関すること
- その他、必要な事項
この内容を元に、各スクール独自にスケジュールや内容を作成し、コースを実施しています。
受講者のドローン操縦経験によって複数のコースを用意しているスクールもあります。
(例)
- 5日間コース:全くドローンに触れたことがない人向け
- 3日間コース:ドローンの一般的な操縦ライセンスを有している人向け
- 2日間コース:他社の農業ドローンライセンスを有している人向け
- 1日間コース:農林水航空協会の発行する、他機種のライセンスを有している人向け など
一例ですが、あるドローンスクールでは次のようなスケジュールで資格取得を目指すということです
産業用マルチローターオペレーター技能認定のコース費用相場
コースの受講費用は、購入したい機種や受講者のドローン操縦経験、あるいはどのスクールを選ぶかといった要素によって異なります。
一般的な相場としては下記を参考にしてください。
- 5日間コース(初心者向け):25万円前後
- 3日間コース(操縦経験者・一般ライセンス所持者向け):10〜20万円
- 1〜2日間コース(他社農業ドローンライセンス所持者向け)5〜15万円
- 1日間コース(他機種ライセンス所持者向け):5万円前後
詳しくは受講を希望するスクールや販売店へ問い合わせると良いでしょう。
農林水航空協会認定スクールへの申し込み方法
農林水産省航空協会認定スクールに通うためには、次のどちらかの方法で受講を申し込む必要があります。
- 農業ドローンを購入する予定の店舗を通じて申し込む
- インターネットなどでスクールを探し、希望のコースへ申し込む
ドローンの販売代理店を通じて申し込む
一般的なドローンスクールと同じように自分でスクールを探して申し込むことも可能ですが、農業ドローンの場合、購入予定の代理店を通じて申し込むパターンが一般的です。
代理店経由であれば、スクールの申し込みと機体の購入をまとめて申し込むことができ、受講から購入までの流れがスムーズです。
また代理店やスクールによっては、購入後の国土交通省への申請や実際の散布に当たってのサポートやアドバイスが受けられるなど、アフターフォローが充実していることもあります。
自分でスクールを探して申し込む
自分でスクールを探して申し込む場合には、対応する機体の確認を怠らないようにしましょう。
すでに紹介した通り、農業ドローンの資格は、資格と購入することができる機体が細かく対応しています。
異なる資格を取得してしまったら、希望する機体を購入することはできません。
万一受講後あるいは修了後にそれが判明すると、別のコースを受講しなおす必要が生じてしまうことも。
自分でスクールを選ぶ場合には、希望する機体に対応した資格のコースであるかをしっかりと確認した上で申し込むことが大変重要です。
まとめ
農林水航空協会は、日本の農業ドローン分野において最も強い影響力を持つ団体といっても過言ではないでしょう。
農業分野でのドローン活用を考えている人は、ぜひチェックしてみてください。
それでは最後に、この記事の内容をもう一度まとめます。
◎一般社団法人農林水産航空協会とは
- 農林水産航空協会の団体概要
- 農林水産航空協会の特徴
- 農林水産航空協会の事業
◎農林水産航空協会資格の意義ー認証機を購入するにはライセンスの取得が必須
- 認証機を購入するにはライセンスの取得が必須
- ライセンスがあれば、安全運行・安全管理に関する社会的信頼性が担保できる
◎農林水産航空協会のライセンス(産業用マルチローターオペレーター技能認定証)
- 産業用マルチローターオペレーター技能認証の特徴・おすすめな人
- 産業用マルチローターオペレーター技能認証のカリキュラム
- 産業用マルチローターオペレーター技能認証のコース費用相場
- 農林水航空協会認定スクールへの申し込み方法
現在、ドローン産業の成長に伴ってドローン関連の団体の数もどんどん増えています。資格の取得などを考えた場合、どの団体を選んで良いかわからなくなりますよね。
とはいえ、農業分野でのドローン活用を考えているのであれば、農林水航空協会はメリットの大きい選択でしょう。
今回の記事が農林水航空協会に対する理解を深め、自分に合った資格選びの参考になれば嬉しいです。
また、その他の団体についても同様にまとめた記事を公開しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
- 一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)
- 一般社団法人 ドローン操縦士協会(DPA)
- DJI CAMP(UTC:Unmanned Aerial System Training Center)
- 一般社団法人JDC日本ドローンコンソーシアム
- ドローン教習所(ドローン検定協会株式会社)
- 一般社団法人日本UAV利用促進協議会(JUAVAC)
- 一般社団法人ドローン撮影クリエイターズ協会(DPCA)