【取材記事】東京海上日動火災保険|「あらゆるリスクに向き合うのが保険会社としての使命」〜レベル4飛行を見据えたドローン保険特約とは?〜

自動車向けの保険商品があるように、ドローン向けにも保険商品がありますが、

「ドローンに保険なんて必要?」
「強制じゃないなら入らなくても……」

と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、レベル4飛行(有人地帯での補助者なし目視外飛行)が2022年12月5日から解禁となったことにより、ドローン保険の必要性は一層高まってきているといえます。

また、レベル4飛行だからこそ想定されるリスクを見据え、ドローン保険を取り扱う東京海上日動火災保険(以下、「東京海上日動」)では、2023年3月にドローン保険にオプションとして付帯できる「被害者支援費用担保特約」が開発されました。

今回取材させていただいたのは、東京海上日動の商品開発・企画ご担当者様です。

  • ドローン保険の必要性
  • 加入者の傾向

といったドローン保険全般に関する内容、

  • 被害者支援費用担保特約の開発コンセプト
  • 同特約が役立つ場面として想定されるケース

といった新たな特約に関する内容など、気になるあれこれについてお話を伺いました。

<今回お話を伺った皆様>
火災・企業新種業務部 企業新種保険グループ
  小池様(右上)、伊藤様(下段中央)
火災・企業新種業務部 責任保険グループ
  宮澤様(下段左)
マーケット戦略部 企業戦略室
  松橋様(下段右)

(※本文中敬称略)

ドローンも車もリスクが伴う点は同じ。ドローン保険の開発で補償ニーズに応える

—— 新たな保険商品である「被害者支援費用担保特約」について伺いたいと思いますが、まずその前に、そもそもドローン保険の取り扱いを開始した経緯をお聞かせください。

伊藤(商品開発担当) ドローン保険の取り扱いを開始したのは2015年の7月です。重量規制の緩和や航空法の改正があり、ドローンまわりのルールや制度などが整備されつつあった時期でした。

ドローンの活用機会が増えていく中でドローンに対する補償のニーズが高まっていたことと、ドローンが事故を引き起こす危険性の高さを踏まえ、ドローン保険の開発に至りました。

[画像提供]東京海上日動火災保険株式会社

—— ドローン保険の加入者は主にどういった方ですか?

小池(商品開発担当) ご加入者様は本当に様々ですが、あえて言うなら、個人の方よりは事業者様が多い印象でしょうか。

ドローンの用途が、農薬散布、インフラ点検、測量、物流等とかなり多様化してきており、幅広い業界の方々にご加入いただいております。

—— 自動車の保険とは異なり加入義務はない中、ドローンユーザーの何割くらいがドローン保険に加入しているものでしょうか?

伊藤 当社以外の保険会社でも同様の保険商品の取扱いがあるため、ドローンユーザー様全体の加入割合は断定できませんが、加入者数が増加してきているのは確かです。

弊社の契約に関していえば、契約件数は3年前と比べて2倍以上に伸びてきています。

—— かなりのペースでの伸びですね! とはいえ、圧倒的に認知度が高く身近な自動車保険に比べ、ドローン保険の必要性はイメージしづらいところがありそうです。

伊藤 遠隔操作で飛行させるドローンには故障や操作ミスなどが起こり得るため、その結果として第三者を怪我させてしまったり、物を壊してしまったりといったリスクが当然考えられます。

たしかに自賠責保険のような強制力は現時点ではありませんが、高速で飛行させるものですので、自動車の運転と同じようにリスクが伴うということは認識しておく必要があるかと思います。

小池 実際の修理金額や賠償金額の目安を知っていただくために、弊社でご用意しているパンフレットには、たとえば街灯にぶつけてしまった場合の修理費用の想定金額を載せており、こうした情報も踏まえて、ドローン保険の必要性をご検討いただいています。(下図参照)

チラシに記載されている、各種事故で必要となる目安費用 支払例として「街頭の修理代金518,400円」とあります。

[画像提供]東京海上日動火災保険株式会社

宮澤(商品開発担当) また、国土交通省もドローン保険の加入を推奨しているという点にもぜひ目を向けていただければと思います。

国土交通省の「無人航空機の安全な飛行のためのガイドライン」は、どのようにすれば安全にドローンを飛ばせるかを解説したものですが、その中でも賠償責任の観点から保険の加入が推奨されています。(下図参照)

[画像出典]無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン(国土交通省)

迅速な被害者救済が「被害者支援費用担保特約」の開発コンセプト

—— 2023年3月から提供が開始された「​​被害者支援費用担保特約」について教えてください。

伊藤 2022年12月の改正航空法施行に伴う、レベル4飛行時代の到来を見据えた特約です。
補償内容は、ドローン飛行中に第三者を怪我させてしまった場合、財物に損害を与えてしまった場合などに、損害賠償責任の所在がまだ明確になっていない段階でも被害者の損害を補償するものです。

レベル4飛行下においては、損害賠償責任の所在確定に時間を要するケースも少なくないと考えられるため、迅速な被害者救済にお役立ちできる補償です。

—— 誰が損害賠償責任を負うのかがすぐには明確にならないケースにはどういったものが考えられますか?

宮澤 レベル4飛行は操縦者が直接ドローンを操縦しない自動飛行であるため、事故が発生した際に、所有者のメンテナンスに問題があったのか、それともドローンメーカ-のプログラムに問題があったのかといった判断がつきづらいケースが考えられます。

また、たとえば強風が吹いて事故につながった場合、気象予報等で予測可能な強風であれば操縦者の責任というよりは、ドローン飛行をその時間帯に企画した人の責任ではないかという話もあるかもしれません。

逆に誰も予想し得なかった突風であり、誰が悪いわけでもない、いわゆる不可抗力といったケースでは、そもそも賠償責任が発生するのかどうか自体も、すぐには判断が難しいでしょう。

小池 あるいは、ハッカーの不正アクセスによりドローンの挙動がおかしくなって墜落し、その下に停まっていた車を損傷させてしまったというようなケースは、責任の所在が難しくなる事例の一つといえそうです。

—— そう考えてみると、損害賠償責任の所在がすぐには明確にならないケースというのは少なくなさそうですね。

小池 そうですね。これから自律飛行が一般的になっていくと、既存の賠償責任保険では補償しきれない場合が出てくると考えられます。

原因が操縦者、メーカーいずれにあるのか、悪意のある第三者によるものだとしたら果たして責任を追及できるのか。原因追究に時間がかかるケースが増えるでしょう。

そうした場合、損害賠償責任の所在が不明確である段階では、従来の損害賠償責任保険での事故対応を進めることができないため、場合によっては保険金のお支払いまで数ヶ月~数年お待たせしてしまうことも考えられます。

ドローンをご利用される方の中には、ご自分に責任があるかどうかにかかわらず、被害者の方に治療費などを早期にお支払いしたいお気持ちがある方もいると思います。

本特約をご使用いただくことで、責任の所在が明確になっていない段階であっても、被害者の方が必要とする費用をお支払いできます。これがこの特約の主目的のひとつです。

—— 少し気になっているのですが、同特約により被害者に保険金が支払われた後になって、被保険者である操縦者に責任はなかったことが判明した場合はどうなるのでしょうか?

伊藤 たとえば、被害に遭われた方の治療費に充当した保険金の返還を求められることを気にされているのかと思いますが、「操縦者(被保険者)に責任はないので保険金を返してください」ということはありません。

本特約の保険金をお支払いすると同時に、被害者の損害賠償請求権を弊社が取得するためです。したがって本来の賠償義務者が判明した場合は、被害者の方に代わり弊社から求償を行うことが可能です。

「被害者支援費用担保特約」は団体保険の特約

—— 同特約の契約者として想定されているのはどういった方ですか?

小池 契約者は主にドローンメーカーやドローンの業界団体を想定しています。団体保険の特約として提供しますので、契約者はドローンメーカーや業界団体であっても、被保険者は基本的に操縦者です。

※団体保険とは、保険契約者である企業や団体を窓口として保険加入した個人・法人が被保険者となる保険。

—— ​​なぜ団体保険なのですか?

伊藤 レベル4飛行は解禁後まもなく、まだ一般的とはいえない段階ですので、想定ユーザーを絞っている側面があります。

—— ​​自動車保険の分野では、自動運転中の事故を想定した特約がすでに個人客に直接案内されていますが、ドローン保険も今後そうなっていくでしょうか?

小池 現時点では、自動運転中のドローン事故時における責任のあり方について、十分に考えが成熟しているとは言い難いこともあり、本補償の内容をご理解いただいた上でご要望いただいた団体の方々に限定してご案内させていただいている状況です。

ただ、自律飛行するドローンがこの先、自動運転車と同じように普及し認知度が高くなっていけば、話がまた変わってくる可能性もあるかと思います。

まだこれからのドローン分野における保険商品の可能性は未知数

—— まだドローンがそこまで一般的でなく、未知の部分も多い状況で、関連する保険やその特約を提供しようとなるとご苦労も多かったかと思います。

松橋(マーケティング・企画担当) 会社として投資するわけですので、コンサルティング会社やマーケット調査会社などと協業してしっかりと市場調査を行った上で開発に踏み切っているのはもちろんです。

保険に限らない一般的なマーケティングの延長ですが、ドローンまわりの法整備をマーケットがどのように受け止めるか、実際に提供開始した場合どの程度の反響がありそうかといったところを見極めました。

マーケット戦略部 企業戦略室の松橋様

—— ​​被害者支援費用担保特約の提供開始後の反響はいかがですか?

伊藤 複数の事業者様からすでにお問合せをいただいています。

とはいっても、レベル4飛行も解禁されたばかりという段階ですので、今すぐ必要というよりは、今後のニーズを見据えて、といった感じではあります。

今後、ドローンの社会実装が進んでいくにつれ、ユーザーのニーズも変化してくるのかなと思います。

デジタルで安心安全を届けるドローン保険Web手続きシステム

—— 再度ドローン保険全般の話となりますが、ドローン保険の加入から保険金請求まで、ウェブサイト上で行えるそうですね。

松橋 はい、レベル4飛行の解禁とともに保険ニーズが高まってくるであろうと予想される中で、お客様がドローン保険に簡単に加入できるような導線があると望ましいという声が営業現場から上がってきていました。

そうした声に応え、個人のお客様が簡単に加入できる導線として、デジタルで完結する仕組みを開発しました。

自動車保険であれば自動車ディーラーでお車を購入された際に併せて保険販売もという導線、火災保険であれば建物を購入された際に火災保険もセットでという導線があります。ですから、どのようにして保険に加入すればよいかと悩むことは少ないかもしれません。

一方、個人のお客様がドローンを家電量販店などで買っても、資格の関係もあり店員さんが保険募集を行うわけではありませんので、どうやって保険に入ったらよいのかわからず困るお客様が出てくることが想定されます。 

そこで、メーカーさんや販売店さんのドローン購入サイト上の「保険加入はこちら」などのバナーをクリックすると申込みフォームに飛び、お客様がスマホ1つで簡単に加入できるというのがこのシステムです。

他の保険商品でもよく見られるかと思いますが、加入はもちろん、住所変更や契約内容変更、万一の事故の際の保険会社への連絡まで同一システム上で行えるので、ドローンまわりのご安心をデジタルでお届けすることができます。

—— どこのメーカーや販売店のサイトのリンクからでも飛ぶ先は同じなのですか?

松橋 いいえ、弊社がオーナーとなって団体様ごとに提供するシステムです。A社のシステムにはA社でドローンを購入するお客様が、B社のシステムにはB社のお客様がアクセスするという仕組みになっています。

ドローンを購入されるお客様に保険という新たな付加価値を提供できますので、事業者様にとっては営業の側面でも効果的な仕組みかと思います。

ドローンのあらゆるリスクに対し補償を提供し、保険会社の使命を果たす

左から伊藤様、小池様、宮澤様 (火災・企業新種業務部 企業新種保険グループ・責任保険グループ)

—— この記事をお読みのドローンユーザーの皆様に向けて、ドローン保険に関する御社の今後の展望をお聞かせください。

伊藤 レベル4飛行が解禁され、今後ドローンが活躍する分野がさらに増え、ドローン活用の裾野はますます広がっていくはずと考えています。

その一方で、ドローンの安全性にはまだまだ課題があるというのが現状です。事業者様の抱えるリスクがゼロになることはない以上、弊社としてはそれぞれに異なるリスクを詳細に分析することで、事業者様ごとのリスクに合った適切な補償を提供していきたいと考えています。

松橋 ドローンのマーケットの伸長は、デジタル化の急速な伸長と密接に結び付いています。

ドローン保険の普及が「お客様がお困りのときにお役に立てる」という保険会社の存在意義に結びつくと考え、デジタル化とドローン市場の伸長に追いつけるようスピード感をもって商品開発やシステム拡充を進めていく所存です。

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