現在、様々なシーンで使用されているドローンですが、点検分野でも活躍の場を広げています。
外壁点検や太陽光パネル点検、プランと点検と、その点検対象物は多くの種類があります。
その中でも、2014年に「5年に1度の定期点検」が法定化され、技術者不足が課題となっている「橋梁点検」へのドローン導入に注目が集まっています。
そんな、ドローンを活用した橋梁点検市場へ参入したいと考える人もいるのではないでしょうか。
今回は、業界に精通され、ご自身もコンサルタントとして点検に携わる方から「ドローンを使用した橋梁点検」について、お話をお伺いすることが出来ました。
この記事を読めば
・橋梁点検におけるドローンの必要性
・ドローン導入のメリット
・導入の進め方
・ドローンを使用した橋梁点検の方法
・ドローン橋梁点検事業の今後予想
などがわかりますよ。
当メディアでは、操縦士の立場からドローンの橋梁点検に関わられている方へのインタビューも行っております。
現場に実際に関わられているからこそ分かる、ドローン橋梁点検の生々しい現在の課題や、実施の際の注意点・今後の展望等についてお伝えしていますので、ぜひ併せてご覧ください!
目次
ドローンを使用した橋梁点検の必要性
定期点検の法定化により、ドローンの必要性が高まる
──まずはじめに、ドローンが橋梁点検に導入されるようになった経緯をお伺いします。
「はい。2014年、定期点検を5年に1回の頻度で実施することが法定化され、点検作業量が増えたことが大きいですね。そこで自治体の人材・作業員不足の問題が浮き彫りになり、活躍が期待され始めたのがドローンです。
国もDX(デジタルトランスフォーメーション※デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること)の観点から、新技術導入に意欲的です」
橋梁点検へのドローン導入のメリット
──橋梁点検において、ドローンを導入することによるメリットはありますか?
「人の目での点検だと、見逃しなど起こることがありますが、そういったヒューマンエラーがなくなるのは大きなメリットだと思います。安全性も高まりますし、費用削減効果も期待できますね」
──ドローンの使用により、どれくらいの費用削減効果が見込めますか?
「従来の橋梁点検は人が近接目視で点検して、報告書を作成する流れです。
ドローン点検の場合、ドローンで撮影し、AIによる分析にかけると自動で報告書作成まで完了することができます。
点検時に特殊作業車などを使う大型の橋の場合、約3割程度の経費削減が見込めます。
作業自体にかかる費用を抑える以外にも、人件費を削減できるというメリットもあります」
お伺いしたお話をもとに、橋梁点検にドローンを導入するメリットをまとめました。
橋梁点検にドローンを使用するメリット |
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時間・人員の削減 |
【時間短縮】 ・特殊車両を使って足場を組む必要がなく、点検箇所が変わるたびの車 の移動もしなくていいので、点検作業にかかる時間の短縮が可能。 ・AI分析から自動で報告書が出来るシステムがあるので、従来の方法よ りも時間をかけずに書類作成が出来る。 【人員削減】 ・点検場所によっては特殊車両の路駐による交通整理を行う人員も必要 だが、ドローン使用の場合は操縦者1人で最低限の点検が可能。 |
点検の安全化 |
・高所の点検時も、地上からオート操縦でドローンを飛ばすことができ るので、事故のリスクを減らすことが出来る。 |
点検の精度が高まる |
・従来点検時の不可視部分の点検も可能。 ・赤外線搭載カメラを使うことにより、目視では確認できない異常を発 見することも出来る。 |
点検による交通規制の減縮 |
・ドローン点検の場合、橋梁点検車両を使用しなくてもいいので、路駐 による交通規制を減縮出来る。 |
上記の赤外線搭載カメラを搭載したドローンのように、ただ人の代わりに点検するだけでなく、ドローンだからこそ出来る点検箇所もあり、多くのメリットが存在します。
橋梁点検へのドローン導入の現状とその背景
──橋梁点検に、実際ドローンはどれくらい導入されているのでしょうか?
「実際のところ、1割程度しか導入が進んでいません」
──思った以上に少ないんですね。メリットも多くあるドローンですが、導入が進まない理由はなんだと思われますか?
「大きく2つの課題があげられると思います。
・ドローンでは点検不足になる箇所がある
・管理側の問題
詳しく説明します。
1つ目の、ドローンでは点検不足になる箇所があるという課題。
橋の種類には鉄やコンクリートなどがありますが、コンクリートの橋の場合、必要に応じて打音検査を行わなければいけません。打音検査とは、コンクリートを叩いて、その音の周波数を分析して橋の状態を確認する検査のこと。実際に叩く、ということができないドローンでは打音検査ができないんです」
──ということは、コンクリートの橋の点検には、ドローンは使われていないのでしょうか?
「全く使われていないということでもないです。実際山深い場所などにある、人の手による作業が難しい場所にあるコンクリート橋の点検にはドローンが活躍しています。
規則では、“必要に応じて”打音検査をしなさい、と定められているので、段差やひび割れ等、目で見て判断できれば必ずしも打音検査をやらなければいけない、ということでもないんです。
しかし、打音検査を必要としない案件や、全体は無理でも部分的な点検ならドローンで十分可能な橋にもドローン点検は導入されていないのが現状です」
──使用できる橋の点検時にもドローンが使われないのはなぜなのでしょうか?
「それは、橋の管理者である自治体が慎重な姿勢である為、導入に踏み切れていないからだと感じます。そし てこれが、課題の2つめに当たると考えます。
ドローン落下の危険性や、打音点検ができないといった理由から、管理側のドローン導入に対する積極性が薄い、という点が2つ目の課題となっています」
──管理側の慎重な姿勢を変えるのは今後も難しいと感じますか?
「管理者は橋梁のプロでない人も多いし、どうしても安全面などからも保守的な姿勢をすぐに解消、というの は難しいと感じます。しかし、国はドローン導入を推奨していて、導入できない理由の説明を新技術活用検討書などの形で管理側に提出をさせているので、改善はされていくと思いますよ」
ドローン橋梁点検事業の今後の予想
──上の章で出たような課題を踏まえ、今後の橋梁点検はどうなると予想されますか?
「私はドローンの使用が増えていくと思います。
その理由として、国が様々な分野の新技術導入に力を入れているので、この橋梁点検業界も例外ではなく、推進のための働きかけを活発にしていくと思われるからです。国土交通省が策定したガイドラインでも、ドローンが取り上げられています。また、点検という作業に焦点を当て作られた機体の登場や、搭載カメラ、AI分析が更に進化し、橋の状態がかなりの精度で確認できるようになると考えられるので、ドローン点検では不十分といった課題も解消されていくと思います」
──ドローンでは打音点検が難しいとのことでしたが、打音点検などと同じ効果を発揮できる技術をドローンが備えることも可能だとお考えでしょうか?
「微小なひび割れや、0.1mの段差をドローンで確認できるほどの性能があれば、打音点検の必要性が薄くなる と思います。しかし、現時点では難しいですね。更に、実際に叩いてみて問題なかった、という、根拠付けのために打音点検をするという側面もあるため、今後はより精度の高いドローン技術と、根拠・裏付けを得るための方法が必要となると感じます」
──なるほど。その段階にいくには、まだ時間がかかりそうですか?
「技術が追いつくのは、そう遠くない話であると思います。橋梁点検を行える技術者が年々減っているので、国も業界もドローンの技術向上や導入にとても力を入れています。今後5年ほどで、ドローンを使った橋梁点検市場はもっと広がりを見せると思います」
◆導入を進めるにあたっての課題と、橋梁点検のドローンの今後についてまとめます。
【課題】
■ドローンでは点検不足になる箇所がある
・現在のドローンだと、打音点検などできない作業がある。
■管理側の問題
・自治体が慎重な姿勢である為、ドローン導入に踏み切れていない部分がある。
【橋梁点検の今後について】
ドローンの使用が増えていくと考えられる。
【その理由】
■国が新技術導入に意欲的。
・2019年、道路橋定期点検要領が改定され、従来の人が近接目視により点検することが基本となっていた橋梁点 検が、改定後「近接目視と同等の健全性の診断ができると判断した」支援技術を用いることが可能となった。
その支援技術として国土交通省が策定した国土交通省が策定した「新技術利用の際のガイドライン(案)」や 「点検支援技術性能カタログ(案)」に橋梁点検用ドローンが掲載され、その導入は今後ますます進むと予想 されている。
・ドローンを現場で使用できない理由の説明を、新技術活用検討書などの形で管理側に提出をさせるなどの働き かけを行っている。
■ドローン技術の開発が進んでいる。
・従来確認出来なかった橋梁の箱桁の中などを点検できる専用のドローンが登場している
実際のドローン橋梁点検の流れと、点検方法
点検の流れ
──橋梁点検はどういった会社、または業界の方が実際に点検作業を行っているんですか?
「実際に作業をするのは、橋梁点検を専門に扱う会社です。
橋梁を管理している国土交通省や自治体から、建設コンサルティング業界に案件がおりてきて、コンサルタントから橋梁点検を専門に扱う会社へ実際の依頼が入ります。
元請けのコンサルタントがドローンで点検できる橋なのかの判断や、ドローンで点検できる部分などを検証し、下請け会社に説明、委託する、という流れになります」
──なるほど。ドローンが主に使われているのは、どのような橋の点検なのでしょうか?
「いろいろな橋梁に使われていますが、多いのがトラス橋の点検ですね。
このような三角形を基本構造として構成されている橋です。
部分的点検は人の手によって行われたりもしますが、橋全体や側面の画像撮影をドローンで行うことにより、今後の橋の維持・管理・損傷部分などが分かりやすい報告書モデルを作ることができます」
点検の方法
現在の橋梁点検の方法を解説します。
現在のドローン使用の橋梁点検のやり方の多くは、
1.広範囲をドローンで自動点検
2.作業員が必要箇所を点検
という二重点検です。
広範囲をドローンで自動点検 |
・上空から橋を各パーツを広範囲で撮影 ・高性能カメラやAI解析により、橋梁のひび割れを点検 ・赤外線搭載カメラにより、橋梁の浮きを点検 |
作業員が必要箇所を点検 |
・ドローンの点検により、異常が見られた箇所の確認 |
第一段階でドローンを使って広範囲の状況確認ができるので、作業員もピンポイントで点検必要箇所がわかります。さらにAI解析後のデータを自動で報告書作成に活用できるので、簡単に、より詳しい書類を作ることができます。
ドローン導入の進め方
メリットも多く、今後が期待できる橋梁点検のドローン市場ですが、導入したい場合の進め方をご説明します。
導入する手段として、下のようなやり方があげられます。
■サービス提供企業のツールを利用する
・ELIOSなどのサポートまでパックになったサービスを利用する。
【パッケージ内容の一例】
月額料金プラン |
サービス内容 ■ スターターパッケージ+アンテナ延長モジュール ■ 運用サポート相談 ■ メンテナンス ■ 保険(動産+対人・対物) |
※ELIOSサブスクプラン
■スクールへ行ったり、橋梁点検用ドローン操縦技能講習会(有料)などを受講する
・DSC産業用ドローンスクールなど、一般コース以外にも橋梁点検の専門コースがあるスクールに行く。
・建設コンサルタントや事業者を対象とした講習会を受講する。
【講習内容の一例】
1日目【座学】 |
・ドローンの飛行メカニズムや電波に関する高度な知識 ・カメラや画像,画像計測に関する高度な知識 ・マルコ®(橋梁点検用マルチコプタ)の飛行メカニズムや制御の詳細 |
2日目・3日目【実技】 |
・マルコ®の組み立て展開、分解収納 ・飛行マニュアルに基づく点検、異常時の対応方法 ・機体搭載カメラの撮影パラメータの設定 ・離陸前,着陸後シーケンスと通常の飛行技術 ・対物センサを利用しての制御飛行への対応 |
※橋梁点検用マルチコプタ「マルコ®」の研究開発に携わる大日本コンサルタント(株)と、ドローン運用ノウハウを持つ(株)FLIGHTSが共同して開催する、橋梁点検用マルチコプタ「マルコ®」の操縦技能講習会内容
■全て自社、自分で進める
全てを自社で行うのはあまりおすすめではありません。
橋梁点検という専門的な分野になるので、普通にドローンの操縦技術があれば点検ができるわけではないからです。座学も法律などをおさえなければならないので、本業と両立して学ぶというのは大変ですし、効率も悪いです。
導入を検討している人へのアドバイス
──それでは最後に、橋梁点検にドローンを導入したいと考えている方に、何かアドバイスやメッセージをお願いします。
「はい。私が6年前に自治体から橋梁点検にドローンが使えるか試したいという依頼を受けた時は、ドローンの衝突リスクが高く、橋にあまり近づくことが出来ず導入を断念しました。
しかし現在はドローンの性能も向上し、橋にしっかりと近づくこともでき、詳細な状態や損傷などの把握が可能となった為、ドローン導入がどんどん進んでいます。今後もより市場を広げる分野だと思いますよ」
──お話を伺って、前向きに導入を検討できる分野なのだと感じることができました。今回は貴重なお話をありがとうございました。
当メディアでは、操縦士の立場からドローンの橋梁点検に関わられている方へのインタビューも行っております。
現場に実際に関わられているからこそ分かる、ドローン橋梁点検の生々しい現在の課題や、実施の際の注意点・今後の展望等についてお伝えしていますので、ぜひ併せてご覧ください!
まとめ
この記事を簡単にまとめました。
◆ドローンが橋梁点検に導入されるようになった経緯
・2014年、定期点検を5年に1回の頻度で実施することが法定化され、点検作業量が増えた
・自治体の人材・作業員不足の問題が浮き彫りになり、活躍が期待され始めたのがドローン
・国もDXの観点から、新技術導入に意欲的
◆ドローン導入のメリット
・時間・人員の削減
・点検の安全化
・点検の精度が高まる
・点検による交通規制の減縮
ただ人の代わりに点検するだけでなく、ドローンだからこそ出来る点検箇所がある。
◆ドローン導入の進め方
■サービス提供企業のツールを利用する
・ELIOSなどのサポートまでパックになったサービスを利用する。
■スクールへ行ったり、橋梁点検用ドローン操縦技能講習会(有料)などを受講する
いかがでしたか。ドローン橋梁点検について、理解できたかと思います。
今後、さらなるドローンの活躍が期待できそうですね。