「マルチコプターってどんな航空機のこと?」
「マルチコプターとドローンって同じ意味?」
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。
マルチコプターとは、複数の回転翼(ローター)を機体に備えた航空機を指します。
回転翼で浮力を得て上昇し、遠隔操作によって安定した飛行を実現できます。
本記事では、「マルチコプター」について、種類や特徴、固定翼機やシングルローターヘリコプターとの違いなどを網羅的に解説します。
また、マルチコプターは、よく「ドローン」と混同して使用されますが、『厳密には違う』という点にも言及します。
マルチコプターは複数の回転翼を備えた航空機のことですが、ドローンには回転翼機以外の航空機も存在します。
ドローンとは広義の無人航空機を指す言葉で、そこには、マルチコプター以外の機体(固定翼機、ヘリコプターなど)も含まれるのです。
つまり、『マルチコプターはドローンの一種』ということができます。
ただし現状、国土交通省では、ドローンとマルチコプターを同義として扱っています。
【国土交通省の見解】
航空法第11章の規制対象となる無人航空機は、「飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(100g未満の重量(機体本体の重量とバッテリーの重量の合計)のものを除く)」です。
いわゆるドローン(マルチコプター)、ラジコン機、農薬散布用ヘリコプター等が該当します。
こうしたことを把握していただいた上で、この記事を読めば、マルチコプターとはどんな航空機なのかが具体的にイメージできます。
多くのシーンで活躍するマルチコプターについて、理解が深まる内容になっていますので、ぜひ最後まで目を通していただけたらと思います。
目次
マルチコプターとは
マルチコプターとは、ヘリコプターの一種で、複数の回転翼(ローター)を搭載した航空機の総称です。
ローターの回転力によって浮上し、多くは操縦者によってリモートで操作されます。
(※)一部の機体にはプログラムや遠隔操作によって自律的に行動する機能が搭載されていることもあります。
マルチコプターは比較的小型であるため、屋内や都市部などの狭い空間でも使用することができ、下記のような場面で役立てられています。
撮影 |
マルチコプターにカメラを取り付けることで、空中からの撮影や映像制作など |
---|---|
測量 |
マルチコプターに搭載したカメラやセンサーを使っての地形調査など |
警備 |
監視カメラとしての利用など |
農業 |
農薬や肥料の散布など |
救助 |
災害時、空中からの捜索や人や動物の救助活動など |
配送 |
荷物の配送や人員の輸送 |
エンタメ |
レースや競技、ライブやショーでの演出など |
科学研究 |
気象観測や予測、地形地質調査など |
マルチコプターは、種類が多く用途に応じて選べるため、撮影や測量、農業や科学など広い分野で活躍しています。
自由度が高いため、レースやライブパフォーマンスなどエンタメでも重宝されています。
また、小型で機動性が高いことから、救助活動や災害現場での運用にも最適です。
高い性能を持ちながら小回りがきき、多くのシーンで有用なマルチコプターは、今後ますます注目を集めることが予想されます。
マルチコプターの種類
マルチコプターは、回転翼の数によって種類分けされています。
- トライコプター(3枚)
- クアッドコプター(4枚)
- ヘキサコプター(6枚)
- オクトコプター(8枚)
一般に、回転翼の数が多いほど風の影響を受けにくいため安定した飛行が可能になりますが、一方で、大型化して重量が増加したり、構造が複雑になるなどのデメリットもあります。
ここでは、代表的な「クアッドコプター」「ヘキサコプター」「オクトコプター」をご紹介します。
種類 |
回転翼の枚数 |
大きさ |
飛行の安定性 |
用途(例) |
---|---|---|---|---|
4枚 |
小型 |
普通 |
趣味や空撮 |
|
6枚 |
中型 |
良い |
調査や災害対応 |
|
8枚 |
大型 |
とても良い |
建設現場や映画制作 |
3種は、回転翼の数やサイズの違いにより、異なる用途に適しています。
順に解説していきましょう。
クアッドコプター
4つの回転翼を備えたマルチコプターを、「クアッドコプター」と呼びます。
マルチコプターの中でも一番主流となっているタイプです。
4つの回転翼の配置方法には、いくつか種類があります。
X 型 |
胴体から見て、「右前方」「右後方」「左前方」「左後方」の4箇所に回転翼を配置し、それぞれを中央部の胴体とアームで繋いだ形状。 |
+ 型 |
X型から45度ずらした「機首」「右舷」「左舷」「機体後方」の4箇所に回転翼を配置。 |
H 型 |
回転翼を「前方同士」「後方同士」(または「右同士」「左同士」)でまとまめて2つずつ胴体に接続して配置。 |
クアッドコプターは高い機動性を持ち、室内、屋外での飛行が可能です。
他より小型で扱いやすいため、空撮や測量、趣味などの用途に幅広く使われています。
ヘキサコプター
「ヘキサコプター」は、6つの回転翼を備えたマルチコプターの機種です。
6つの回転翼の配置方法には、いくつか種類があります。
X 型 |
前方に2つ、後方に2つ、そして左右に1つずつの計6つの回転翼を配置。 |
H 型 |
前方と後方に1つずつ、中央に2つ、そして左右に1つずつ回転翼を配置。 |
ほかに、特殊な例ですが、前方と後方に2つの回転翼を持ち、機体の真ん中に1つの5枚の回転翼を持つY型のヘキサコプターもあります。
ヘキサコプターは、クアッドコプターよりも高い運動性能を持ち、荷重や風の強さに強いため、重い機器の輸送や長時間の飛行に向いています。
より大型で、荷物やセンサーを搭載できるため、調査や農業、災害対応などの用途に適しています。
また、6つの回転翼のうち1つが故障しても、残り5つを利用できるため、揚力(ようりょく)(※)の観点からみて飛行を続行できる可能性が高いです。
(※)飛行機の翼によって生じ、機体を押し上げるように上向きに働く力。浮揚力。
ただし、機体が大型化するため、操縦やメンテナンスには一定の技術が必要とされます。
オクトコプター
8つの回転翼を備えたマルチコプターが、「オクトコプター」です。
8つの回転翼の配置方法には、いくつか種類があります。
X 型 |
前後左右の方向に回転翼をX字の形状に斜めに配置。 |
+ 型 |
前後左右の方向に回転翼を+字の形状に配置。 |
H 型 |
前後の方向に2つずつ、左右の方向に2つずつの回転翼をH字の形状に配置。 |
オクトコプターは、回転翼の少ない機種に比べ、高い安定性と機動性を持ち、重量や風の強さに対しても強いため、建設現場や映画製作など、より重負荷を必要とする用途に適しています。
また、8つの回転翼のうちどれかが故障しても、まだ7つの回転翼があるため、ほとんど問題なく飛行が続けられます。
ただし、ヘキサコプター以上に大型化するため、操縦やメンテナンスには高度な技術が必要とされます。
「マルチコプター」と「ドローン」の違い
「マルチコプター」と「ドローン」は、どちらも複数の回転翼を備えた航空機であり、冒頭で述べたように国土交通省では同じものとして定義されています。
ですので、「マルチコプターとドローンは同じ意味?」という疑問に対し、「YES」と答えても基本的には問題ありません。
ただ厳密には違う意味も含まれます。
3章では、少しわかりづらい「マルチコプター」と「ドローン」の違いについて解説します。
- 「マルチコプター」は「ドローン」の一種
- よく間違われる2つのポイント
よく読んで理解しておきましょう。
「マルチコプター」は「ドローン」の一種
繰り返しお伝えしている通り、「マルチコプター」は複数の回転翼(ローター)を持ち、垂直離着陸が可能な航空機のことです。
一方、「ドローン」という言葉は広義の無人航空機を指していて、マルチコプター以外の機体(固定翼機、ヘリコプター型など)もドローンに含まれます。
つまり、マルチコプターは、ドローンの一種ということができます。
『ドローンの方が広範囲の無人航空機を指していて、その中にマルチコプターも含まれる』、というのが両者の違いになります。
よく間違われる2つのポイント
ドローン関連のサイト等では、ドローンとマルチコプターの違いとして「自立性」「有人か無人か」といった項目が挙げられていますが、これらは必ずしも該当しません。
- 自立性に違いがある? → NO!
- 「ドローン」は無人で「マルチコプター」は有人? → NO!
理由を説明しますので、把握しておきましょう。
3-2-1.自立性に違いがある?
<間違った説>
「マルチコプター」は遠隔操作によって飛行するため操縦者が必要だが、ドローンは自立性があり操縦者が必要ない。(ドローンはGPSやセンサーなどの技術を使って自律的に飛行する)
マルチコプター、ドローン共に、一般的には遠隔操作によって操縦されます。
最近の技術の発達で、GPSやセンサーなど自律飛行機能を備えた機体があるのも確かですが、それはドローンだけでなく、マルチコプターにも同様に存在します。
また自律飛行機能が備わっている場合も、多くは操縦者の監視や介入が必要です。
「ドローン」は無人で「マルチコプター」は有人?
<間違った説>
「ドローン」は無人の航空機を指すが、「マルチコプター」には無人だけでなく人が搭乗できる大型の機体が存在する。(ドローンに有人機がない)
国土交通省の見解で示したように、ドローンもマルチコプターも、一般的には無人航空機のことを指します。
ただ、特定の大型ドローン、及びマルチコプターには有人機も存在します。
どちらか片方が無人、有人ということではありません。
CHECK!
【飛行ルール】
令和4年6月20日から、重量100g以上の機体が「無人航空機」の扱いに変わり、飛行許可承認申請手続きを含む、航空法の規制対象になりました。
ドローン(マルチコプター)の飛行では、国が定める航空法や地方自治体の条例などの法的な規制の遵守が求められますので注意しましょう。
いかがでしょうか。
「マルチコプター」と「ドローン」は同義語として使用されることが多いですが、違いをしっかり押さえておくと、マニュアル等の文脈を理解するのに役立ちます。
マルチコプターのメリット
マルチコプターについてさらに理解を深めていただくために、固定翼機やシングルローターヘリコプター(以下、シングルローターヘリと記載)との違いから、マルチコプターのメリットをお伝えします。
マルチコプター |
複数の回転翼(ローター)を搭載した航空機。 |
---|---|
固定翼機 |
主翼が機体に固定され、機体が前進することによって揚力を発生させて飛行する航空機。 |
シングルローターヘリ |
メインローターが1つだけの航空機。大きなメインローターを回して揚力を得て浮上し飛行する。 |
【マルチコプターのメリット】
- 垂直離着陸ができる
- 操縦が比較的簡単
それぞれみていきましょう。
垂直離着陸ができる
マルチコプターのメリットのひとつめは、複数の回転翼を備えていて、垂直離着率ができることです。
これに対し、固定翼機は、離着陸に長い距離を必要とします。
シングルローターヘリは垂直離着陸はできますが、安定性を維持するために専用の舵を備えており、操作が複雑です。
マルチコプターは、狭い場所でも地形や建物の高低差に左右されず、垂直離着陸が行えます。
専用の滑走路や発着場所が必要ないため、迅速な展開が可能です。
操縦が比較的簡単
マルチコプターは、小型で軽量であるため、操縦が比較的簡単です。
複数の回転翼で安定感があります。
GPS機能を搭載した機体では、自動ホバリング機能(※)自律飛行も容易に操れます。
(※)空中で静止させる機能
対して、固定翼機は、速度も速く操縦に一定の技術が必要とされます。
またシングルローターヘリの操縦は、マルチコプターより複雑で、難易度も高いです。
機体を固定するホバリングをするのが難しい特徴を持っていて、常に送信機のスティックを動かしていなければなりません。
ほかに比べ、初心者でも気軽に始められる操縦のしやすさがマルチコプターの魅力といえるでしょう。
マルチコプターのデメリットは飛行時間の短さ
マルチコプターのデメリットといえる特徴は、『飛行時間が短いこと』です。
機体の重量や貨物の重量にもよりますが、飛行時間は、長くても25分〜30分くらいです。
マルチコプターは、電気モーターを二次電池(バッテリー)で駆動する方式であるため、バッテリーの容量によって飛行時間が制限されてしまうのです。
ご参考までに、3機種の飛行時間目安をご覧ください。
機種 |
飛行時間目安(機体や条件で変動します) |
---|---|
クアッドコプター |
約25分 |
ヘキサコプター |
約20分 |
オクトコプター |
約15分 |
現在のバッテリー技術では長時間の飛行は困難で、ご覧のように、回転翼が多い大きな機種ほど飛行できる時間が短くなります。
たとえば、クアッドコプターで空中撮影をするとして、目的地との往復の飛行時間が20分とすると、目的の撮影に割ける時間は5分程度にとどまってしまいます。
もっと時間が欲しい場合は、近距離で到達できる場所選び、もしくは出発地選びが必要になります。
エンジンや燃料タンクを搭載した「固定翼機」「シングルローターヘリ」が遠距離飛行も可能であることに比べると、飛行時間の短さは「マルチコプター」の弱点といえるでしょう。
まとめ
マルチコプターについて、まとめておきましょう。
マルチコプターとは、複数の回転翼(ローター)を機体に備えた航空機。
回転翼の枚数によって、下記のような種類に分けられます。
- トライコプター(3枚)
- クアッドコプター(4枚)
- ヘキサコプター(6枚)
- オクトコプター(8枚)
固定翼機やシングルローターヘリと比較したときの、マルチコプターのメリットとデメリットは以下になります。
メリット |
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デメリット |
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あなたの疑問の解消に、この記事をお役立ていただけたら幸いです。