[画像提供]NTT Com
国内通信事業者最大手・NTTグループの主要企業の一つであるNTTコミュニケーションズ株式会社(以下NTT Com)では、各分野においてドローンビジネスを展開しています。
今回は、同社が提供を開始した自動巡回ソリューション「Skydio Dock and Remote Ops.」について取材しました。
優れた点検用途ドローンとして知られるSkydio社製ドローンが、さらに自動で飛行し業務遂行するという点が注目されるソリューションです。
ご対応いただいたのは、NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 ドローンサービス部門の石川様と佐藤様。
同ソリューションが特に向いている活用例、さらなる機能強化の可能性、通信キャリアとして提供中のサービスとの連携の見込みなどのほか、今後の展望についてもお話を伺いました。
目次
通信キャリアとしてつながりの深いドローンのビジネスに参入
——本日は自動巡回ソリューション「Skydio Dock and Remote Ops.」についてお話を伺いたいのですが、まず最初に同ソリューションについて簡単に教えてください。
石川:「Skydio Dock and Remote Ops.」は、米Skydio社のドローンが、あらかじめ決められたルートを自動で巡回するソリューションです。
従来は人が見回って目視で行ってきた各種点検・巡回業務を、ドローンが代わりに自動で行うことを目的としています。
たとえば……
・建設会社の施工管理担当者が、建設現場で自動巡回飛行させ、施工進捗を記録する
・化学メーカーが、プラント内を自動巡回飛行させ、日常点検で必要な各計器の指示値確認を行う
・物流会社が、倉庫内を自動巡回飛行させ、在庫管理や監視・警備を行う
といったような、主に定期的に繰り返し行う必要のある業務です。
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日常的な見回りの労力や、危険が伴う場所で点検を行うリスクに対する解決策となることを目指しています。
[参考]Skydio Dock and Remote Ops.の提供開始に関するプレスリリース
——そもそもNTT Comがドローンビジネスに参入することになった理由は何ですか?
石川:弊社(当時はNTTドコモ)がドローンビジネスに参入したのは2016年、今から7年前になります。
大前提としてドローンと通信とは切り離せないということから、通信キャリアとして、点検領域や農業の領域、映像伝送など、幅広いドローンサービスの提供を開始しました。
物流分野についてはまだ実証実験の段階ではありますが、こちらも近い将来の実用化に向け展開しています。
Skydio社製ドローンを使った自動巡回のソリューション「Skydio Dock and Remote Ops.(スカイディオドック アンド リモートオペレーションズ)」は点検・巡回領域のサービスで、リリースしたのは2022年12月です。
——「Skydio Dock」と「Remote Ops.」とはそれぞれ何を指しているのですか?
石川:ドローンが離発着する基地となり格納庫ともなる装置をドローンポートと呼びますが、Skydio社製ドローン用のドローンポートが「Skydio Dock」です。
ドローンポート「Skydio Dock」
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一方、「Remote Ops.」は遠隔操縦ができるようになるソフトウェアです。
ドローンポートとソフトウェアを組み合わせて運用して初めてドローンの自動巡回が実現しますので、この2つは同時リリース、提供形態としてもパッケージとなっています。
パッケージには2種類あって、軽量コンパクトなSkydio Dock Liteか、蓋がついてより堅牢なSkydio Dock for S2+かのいずれかのドローンポートを選ぶと、そこにソフトウェアもついてくるといったイメージです。
完全自動でドローンが人に代わって巡回
——自動巡回とのことですが、どのレベルまで自動なのですか?
石川:完全自動と思っていただいて構いません。
指定した時刻になるとSkydio Dockからドローンが発進し、
↓
決められたコースを飛んでいき、
↓
計器前などの決められたポイントで撮影し、
↓
巡回飛行が終わったらSkydio Dockに帰還して、
↓
着陸したら自動で充電が開始します。
ただ、その「決められたコース」がどういった経路で、撮影すべき「決められたポイント」がどこかを記憶させるために、1回手動でそのルートを実際に飛行させる必要はあります。
一度記憶させてしまえば、次からは自動で飛ぶということです。
——なるほど、Excelのマクロのような感じですね。しかし、決められたコースを決められたように毎回飛べるとは限らないのでは?
石川:そうですね、実際の現場では日によっては資材が置かれていたりして飛行環境が変わることも当然あり得ると思います。
そういった場合には、ドローンが自動で障害物を認識して自動で避け、撮影タスクについては可能な限り軌道修正をして撮影を試みます。
また、必要であれば手動介入も可能ですので、一時的に条件が変わっているのであれば、「今回はこのエリアは点検・巡回不要」「今日はそっちではなくこっちを重点的に点検したい」といったこともできます。
——屋外での点検にも対応しているのでしょうか? 屋外の場合、雨が降ったり風が強く吹いたりしているときは自動で判断してスケジュール変更するといったことも必要になってきそうですが……。
石川:はい、建設現場でいいますと土木の現場ですとか、ビル建設でも工程初期は鉄骨がまだ組み上がっていない状態ですから、屋外での飛行も想定しています。
ですが、天候状況により自動で離陸判断をするという機能は未対応で、将来的な課題です。
屋外用のドローンポートについては、株式会社大林組様の協力のもと実証実験がつい先頃実施されたところで、2023年6月21日付でプレスリリースが出ています。
実証実験を行うことでいくつか課題も見えてきました。
屋外用のSkydio Dock自体はIP56防水・防塵対応となっているのですが、ドローン本体に防水性能がないため、雨が降っているタイミングでドローンを飛び立たせてしまえばリスクが生じます。
ですから、Skydio Dock側に雨を検知して離陸させないようにするような機能がやはり必要だと認識しており、米国の技術者へのフィードバックを行いながらより良くしていきたいと考えています。
活用用途のトップは橋梁点検
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——Remote Ops.との組み合わせで自動巡回オペレーションが実現したSkydio社のドローンですが、手動での点検まで含めると、他にはどういった用途での活用事例が多いですか?
石川:手動のケースまで含めた場合に一番多い活用用途は、橋梁の点検ですね。
橋梁の点検では、橋梁自体が邪魔をしてGPSが入りづらいことが多いですが、一般にドローンはGPSが入らないと制御が難しくなります。イメージとしては、車に喩えると、GPSが入ればオートマ車を運転している感覚である一方、GPSが入らないとマニュアル運転になる感じです。
また、橋梁点検では橋の裏側(下側)も点検するのですが、ヒビが入っていないかとか錆が出ていないかといった結構細かなところまでチェックするため、機体を橋に近づける必要があります。
ですが、橋の裏側というのはかなり狭い空間なので、そうした狭い空間でも安全に飛ばせないといけません。
その点、Skydio社のドローンには「Visual SLAM」と呼ばれる技術が搭載されていて、GPSが入る入らないにかかわらず安定した飛行ができますし、狭い場所でも安全に飛ばせます。
Skydio社ドローンは、機体の上側に3つ、下側に3つで計6つ搭載されたカメラからの映像情報を駆使して、GPSに頼らず機体の位置を把握し衝突を回避するのです。
そのおかげで、GPSが届かない場所でも自律飛行(人による操縦なしで飛ぶこと)が可能ですし、機体が目に見えないバリアに守られているような状態となって衝突を避けることが可能です。
橋梁点検は、こうした機能を持つSkydio社ドローンが非常にマッチする分野になるわけです。
しかも、熟練の操縦技術などに頼ることなく安全な飛行が可能で導入のハードルが低いので、お客様自身による橋梁点検での活用事例は増えています。
NTT Comの強みはSkydio社日本市場参入時以来の経験と実績
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——ドローンを使った自動点検・巡回ソリューションは他社からも提供されていますが、NTT ComのSkydio Dock and Remote Ops.ならではの強みは何ですか?
石川:弊社では、360°障害物回避機能を実装したSkydio社のドローンが非常に安全で、小型でもあるといったところに着目し、同社の機体を扱うようになりました。
ですので、他社製のドローンをベースにしたソリューションと比べた場合には、Skydio社製のドローン自体が持つそうした特長が強みであるといえます。
そして、弊社ならではの強みは何かと問われれば、やはり今日に至るまでの経験と実績だと思います。
弊社がSkydio社のドローンを使ったビジネスをスタートしたのは 2020年の11月。Skydio社が日本市場に参入してきた当初からビジネスを展開しており、当初はそれこそゼロに近いところからお客様と一緒にユースケースを模索してきました。
また、ビジネス展開直後から自動巡回のニーズに着目してきた弊社では、近畿大学様や大林組様と協力して自動巡回プログラムを長い時間かけて検証してきました。Skydio Dock and Remote Ops.はそれが実を結んだものです。
こういったお客様のニーズやお悩みに向き合ってきた経験、独自に続けてきた検証といったものが私たちの強みだと思っています。
佐藤様から、NTT Comならではの「セルラードローン」のコンセプトと「LTE上空利用プラン」についてもお話を伺えました。
「ドローンが縦横無尽に飛び交う未来を考えたとき、パイロットの手元のコントローラーと飛行中のドローンの間の通信には距離制限の問題がどうしても出てきます。「どこからでも、どんなドローンでも飛ばせる」という世界観を描くには、モバイルネットワークの活用が必要なはずです。
そのような背景から「セルラードローン」というコンセプトを2016年のドローンビジネス参入当初より打ち出していたのですが、ようやく2021年の7月に「LTE上空利用プラン」というサービスをローンチすることができました。
ドローンはもともと、2.4GHz帯のWi-Fi接続で通信していますが、スマホのようにモバイルネットワークに接続して通信するようにしたドローンがセルラードローン、そのためのモバイルネットワーク接続プランが「LTE上空利用プラン」です。
[画像出典]NTT Com様ご提供画像
以前は上空から電波を発信することが電波法で禁止されていたのですが、2020年の12月に規制緩和されたことを受け、同プランが実現しました。
「LTE上空利用プラン」を契約して、ドローン用に出力を調整しているSIMカードを機体に挿入するだけで、上空でのモバイルネットワークを利用することができます。
※利用日時・場所の決定後、専用の「LTE上空利用予約サイト」で予約を行う必要があります。
※「LTE上空利用予約サイト」は、電波法に基づき、お客さまからNTTドコモに実施いただくものです。
航空法その他法令の確認/ 手続きについてはお客さまご自身で行なっていただく必要がありますので、あらかじめご了承ください。
Skydio社製ドローンは現時点ではまだ同プランに対応していないとのことですが、Skydio社はセルラードローンパートナープログラム*に加入しているとのこと。
(*セルラードローンを活用した商品やサービスの提供を目指すパートナーとの連携を強化するプログラム)
Skydio社製ドローンも将来的なLTE対応を見据えているといえ、それが実現すればこれもまたNTT Comが提供するSkydio Dock and Remote Ops.の強みとなるかもしれません。
お客様の「思っていたのと違う」を防ぐための4つの導入メニュー
——先ほど「ユースケースを模索した」というお話がありましたが、これからSkydio社ドローンを利用する事業者にとってもそうした模索が必要なケースはありそうです。
石川:「買ったもののどう使えばいいのかわからない」「本当にこの使い方で成果が上がるのか」といったお客様の悩みや心配事を解消できるよう、お客様の活用フェーズに合わせた4つのメニューを提供しています。
- 技術検証
- 運用検証
- 販売
- アフターサポート
まず1の技術検証ですが、お客様側で用意していただいた現場で、NTT Comの人間が「こんな感じで運用することになりますよ」というのをお見せします。
2の運用検証は、お客様が自ら2ヶ月間運用してみるというものです。実際にやってみなければわからない部分をクリアにするためのメニューとなります。
3の販売は、1や2を経て本格導入に至るお客様に対する販売だけでなく、もともと自社でドローンを活用していたり導入目的用途がメジャーだったりすることから即購入をご希望のお客様向けの販売も含みます。
4のアフターサポートは、ドローンの経験はあってもSkydioは初めてというお客様向けで、たとえば飛行エンジニアを派遣する「現地フライトサポート」サービスが好評です。
操縦するお客様の横にエンジニアが立ち、「今の飛ばし方でだいたい良いと思います」「もうちょっと離れたほうがいいですね」などと操縦方法についてアドバイスさせていただくというものです。
必ずしも1から始めて4まで順に進める必要はなく、お悩みやドローンパイロットの有無といったお客様ごとの状況を伺いながら最善のご提案をさせていただきます。
——ユーザー満足度を上げるために他にも何かしていることはありますか?
石川:弊社では、Skydio社製ドローンの取り扱い方や機能そのものの概念などをお伝えできる「Skydio Master Instructor」 (通称:マスタートレーナー)というSkydio社公認資格の保有者を数名抱えています。
安全性を過信すると事故につながりかねませんので、お客様にはマスタートレーナーから注意点などをお伝えする他、機体とセットになっているSkydio認定講習を必ず受けていただいています。
また、Skydio社製ドローンは優秀ですが、だからといって万能ではありません。できると思ったことができなければ満足度は下がりますので、できないことを事前にお伝えするようにもしています。
たとえば、カメラからの映像を処理して位置情報を把握するSkydio社製ドローンは、景色が反射するガラス張りの建物の自動点検は苦手です。
また、細いワイヤー線なども物体として認識できない可能性があります。
本当の意味でのレベル4飛行の実現に向けて
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——レベル4飛行が解禁されました。
石川:レベル4飛行解禁はドローン業界の悲願だったといっても過言ではありません。
ですが、世間の「自動で空を飛ぶなんて危なくないの?急に落ちてきたりしないのか?」という気持ちが消えるまでには時間がかかるでしょう。
ほとんどの車が自動運転で走っている世の中を想像して「本当に大丈夫なのか?」と不安を感じる方は少なくないと思いますが、それと同じことです。
じゃあ最終的に誰もが安心してドローン社会を受け入れられるようにするためにはどうすればいいか?
個人的には、やはり実績を積み上げていくしかない、「自動で飛ばしてみたけど大丈夫だったよ」という声を増やしていくしかないと思っています。
長い道のりになるでしょうが不可能ではないと考えていますし、そのために私たちができることを一つひとつやっていきたいとも思っています。
高い通信技術、高いセキュリティ性、高い安全性を追求し、さらに高めていくための手段として、医薬品配送などの実証試験も積み重ねています。そして本当の意味でのレベル4飛行の運用を実現するために、実証試験で見つかった課題を一つひとつ払拭していくのです。
不可能と思われていたことを当たり前に。「こうなったらいいな」を叶えていきたい
——最後となりますが、ドローンを使った自動巡回・点検を検討している事業者の方などに向けたメッセージをお願いします。
石川:NTT Comでの取扱い開始以来ずっとSkydioに携わってきた私が感じているのは、巡回・点検の自動化はお客様に強く望まれてきたことだったということです。
多くのパイロットを抱えて潤沢にドローンを飛ばせるような会社は現状では限られているでしょう。また、今は操縦できる人がいるけれど3年後には異動でいなくなっているかもといった状況も起こり得ますので、操縦士育成にそこまでコストはかけられないケースも多いと感じています。
だからこそ、「ドローンが自分で勝手に飛んでくれたらいいよね」と言われ続けてきたのです。
そしてようやく、それを叶えられそうなものとしてSkydio Dock and Remote Ops.をリリースさせていただくことができました。
自動掃除機のルンバも出てきた当初は「こんなのできるわけないでしょ」と思われていた節がありましたが、今ではもう当たり前のように世の中に浸透しています。
Skydio Dock and Remote Ops.でも、そんな風に不可能と思われていたことを可能にして、“当たり前”にしていきたいと願っています。
また、NTT Comに相談すればためになるアドバイスやソリューションの提案をしてもらえるはずと思っていただけるような存在でありたいと考え、活動しております。
お悩みを抱えていらっしゃるなら、まずはご相談いただければと思います。
——思い描いていらっしゃるような未来が実現すると想像すると、本当にワクワクします……! 本日はありがとうございました。
Skydio Dock and Remote Ops.についてもっと詳しくお知りになりたい方、問合せ先情報をご覧になりたい方は、こちらをご参照ください。 |