ドローン事故の原因に“電波干渉”が挙げられることはわかっていても、どのような場合に電波干渉が起きるのか、どのような対策法があるのかわからないという方は多いのではないでしょうか。
ドローン飛行で電波干渉が起きるのは
- 他のドローンやスマートフォンの影響
- 無線局、高圧送電線からの放電
- 鉄道や工場などの工業用機械に起因する混信
- 大規模建築物や鉄道、道路などの高架構造物による電波の遮蔽
- 森の中での減衰
のようなケースが挙げられます。
一見回避できないように思われるかも知れませんが、ドローンを飛ばす前に、電波干渉を起こす可能性のある場所の確認や周辺の電波をチェックすることで、電波干渉による事故を未然に防ぐことができます。
そこでこの記事では、
- ドローンと電波の関係
- 電波干渉よるドローン事故事例
- 電波干渉への対策や事故を予防する方法
- 電波のチェック方法
などについてお伝えし、ドローン操縦時の電波干渉による事故を未然に防ぐための対策について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、ドローンに関わる電波に関する知識が得られ、電波干渉のリスクを回避しながら安全にドローンを飛ばすことができるでしょう。
目次
ドローンと電波の関係
まず、ドローンと電波の関係について確認しておきましょう。電波・電波干渉についての簡単な説明は以下の通り。
私たちがドローンを操作するとき、目に見えない”電波”という波長を用いています。
電波は電磁波の中のある決められた範囲の周波数をもつ”電場”と”磁場”からなる「波」。この「波」に必要な情報を載せて、プロポから機体に操作の情報を送り、逆に機体からは映像等がプロポ側へ送られてきます。GPSからの信号も電波で受け取っています。
電波の届く距離は機種によってさまざまですが、ざっくり言うと300~2000m程度と考えておけばいいでしょう。
この距離は周囲に干渉物があるかどうかで大きく変わり、障害物がない場所では遠くまで飛ばすことができますが、障害物が多い場所では500m程度、大型のドローンでは300m程度の飛行距離しか出ない場合が多いです。
電波干渉が原因で起こったドローン事故例
過去に起こったドローンの事故の中には、電波干渉や電波障害が原因と思われるものも多数起こっています。過去の事故例はDIPSから確認することができます。
それではいくつかの例を見てみましょう。
【概要】
業務のため無人航空機を飛行させていたところ、電波を消失し、墜落した。
【原因分析】
- 自律航行経路上の標高データの確認不足。
- 自律航行経路が目視内に収まることの確認が十分ではなかった。
- 想定外の目視外になってしまった際、即時ミッションを中断できなかった。
【是正措置】
- 飛行場所の環境確認を事前に入念に行う。
- 目視外の状況になってしまうことを想定し、ドローンに備わっている飛行範囲制限機能や、電波喪失時の自動帰還設定などは必ず設定する。
【概要】
空撮のため無人航空機を飛行させていたところ、機体からの通信が途絶え、機体を紛失した。
【原因分析】
- 通信途絶した付近は、樹木(杉)の集密集地であったので、電波障害が起こったことが考えられる。
- 帰還機能が作動しなかった理由は、設定の際、帰還機能が「OFF」になっていたことが考えられる。
【是正措置】
- 撮影開始前に、帰還機能が「ON」になっていることを、毎回確認する。
- 飛行範囲の設定の際、電波障害になるような障害物の確認をする。
【概要】
空撮のため無人航空機を飛行させていたところ、突如制御不能となり観覧車に接触し墜落した。
【原因分析】
機体が操縦操作と異なる方向に移動したことから、電波障害を受けたものと考えられる。
【是正措置】
障害物等から十分な距離を確保して飛行させる。
どの事例も、電波干渉を受ける可能性がある環境での飛行であり、事前に飛行場所の環境確認を行うことで電波干渉の可能性があることは予測できたはず。
電波喪失や制御不能となった場合に備え、飛行範囲制限機能や電波喪失時の自動帰還設定などを忘れずに設定することが大切だということがわかります。
電波干渉への対策・電波干渉による事故を予防する方法
電波干渉への対策方法や電波干渉による事故を防ぐ方法は、以下の通り。
- 電波干渉を受けやすい環境ではできるだけ飛ばさない
- 自動帰還設定を行う
- できるだけ目視内で飛行させる
- 電波状況の異変を見逃さない
- ジオフェンス設定を行う
電波干渉を受けやすい環境ではできるだけ飛ばさない
まず事前に飛行場所の環境を入念にチェックし、電波干渉を受けやすい場所で飛ばさないというのが事故を予防するための一番の方法です。
電波干渉を受けやすい場所は大きく分けて以下の4種類。
- 人混みなど電波が混雑・混信しやすい場所
- 高層建築物や岸壁など垂直に立った障害物が多い場所
- 電波の発信源100メートル以内
- 樹木の多い場所
人混みなど電波が混雑・混信しやすい場所
まず、他のドローンが飛んでいる場所や人混みは電波が混雑しやすいので避けた方が無難です。
ドローンは、同じ電波帯を使用する機器(他のドローンやスマートフォンなど)の近くでは電波干渉を受ける恐れがあります。
ドローンを飛ばす際に使用する2.4GHzという電波帯はWi-FiやBluetoothにも使用されており、そういった機器に近くや人通りの多い場所では電波干渉受けやすく、手元の映像が止まったり、最悪の場合操作不可に陥る可能性も。
例としては、
- イベント会場でトイドローンを使用する予定であったが、人が多くてスマートフォン等の電波が混雑し、飛行不能になった。
- DJIとParrotの機体を同時に飛行させたら、Parrotの機体の映像が途切れる程度に干渉を受けた。
このような場所で電波干渉を受けてしまうと、処理能力が低下し、映像のコマ落ちや通信エラーが多発する恐れがあります。
高層建築物や岸壁など垂直に立った障害物が多い場所
高層ビル、岸壁など垂直に立った障害物が多い場所はできるだけ避けたましょう。
ドローンは、垂直に立った障害物の多い場所でフライトさせると、マルチパスという電波障害を起こす可能性があります。
マルチパスとは、同一の送信機から発信された電波が受信機側に複数届いてしまうことによって起きる電波障害のこと。
電波はあらゆる方向に向けて飛んでいきますが、建物や地形の状態によって電波が跳ね返され、何度も何度も時間差で受信機に届いてしまうというケースがあり、この場合通信品質の低下を引き起こしてしまいます。
電波の発信源100メートル以内
電波の発信源の100m以内(WiMAXの電波であれば100m以内、docomo等のBAND1の電波であれば50m以内、高圧線や変電所の付近30m以内)は飛行させないこと。
ドローンの飛行中に近くに強力な電波が入信すると、感度抑圧という現象を起こしてしまう恐れがあります。
感度抑圧とは、受信機が遠くからの微弱な電波を受信しているときに近くにある強力な電波を受信してしまうことで、本来の正しい電波を受信できなくなってしまう現象のこと。
ドローンが使用する周波数帯の近くにはWiMAXなど携帯電話の電波が存在しており、こうした携帯電話回線の電波は非常に出力が強いため、アンテナや基地局といった電波の発信源付近を飛行させてしまうと、ドローンの微弱な電波は簡単に抑圧されてしまいます。
感度抑圧を起こすとRTH(リターントゥホーム)がかかったりドローンが暴走したりする恐れがあります。
樹木の多い場所
ドローンは、森の中など樹木が多い場所では電波干渉を起こす可能性があります。
森などのうっそうとした葉が茂る樹木にさえぎられると電波に損失を与えることがあり、ドローンもこの影響を受けやすいと言われています。
自動帰還設定を行う
自動帰還設定(リターントゥーホーム)を適切に行うことで、万が一電波を喪失した時にも機体を離陸地点に帰還させることができます。
送信機と機体の通信が途切れた場合や、RTHボタンを長押しした際、ドローンは離陸地点に帰還するようになっています。この時、ドローンは予め設定されたリターントゥホーム高度まで一度上昇してから、ホームポイントまで戻り着陸します。
このリターントゥホーム高度は、必ず周囲の建築物や電線などよりも高い高度に設定しておおくことが重要。
DJIドローンの場合、メニュー選択ボタンの一番上にある「MCパラーメーター設定」からリターントゥーホームの高度設定を行います。
できるだけ目視内で飛行させる
申請手続きを行えば目視外飛行も可能ですが、業務上どうしても必要な場合を除いては目の届く範囲で飛ばしましょう。
ドローンが100メートルほど離れると、目に見える大きさは米粒ほど。慣れるまでは半径50m以内くらいを目安にフライトさせることをおすすめします。
電波状況の異変を見逃さない
電波の状況が不安定になると映像に兆候が現れることが多いので、ドローンの飛行中は異変を見逃さないよう集中することが大切です。
兆候はまず映像伝送系に見えることが多く、具体的な例としては
- モニターのコマ落ちやフリーズ
- モニターにグリーンのノイズ
- モニターが真っ黒になる
などが挙げられます。このような異変に気付いたら、速やかにドローンを帰還させましょう。
ジオフェンス設定を行う
ジオフェンス設定を行うことで、ドローンの紛失を予防することができます。
ドローンは、最大高度と最大水平距離の中でしか飛行を行わないように設定することができます。この飛行範囲制限のことをジオフェンスといい、いわばドローンの飛行エリアを空中で制限するフェンスのようなもの。
DJIのドローンでは、メニュー選択ボタンの一番上にある「MCパラーメーター設定」の中の「最大高度」と「最大水平距離」に数字を入力します。
最高硬度はどんなに高くても最大140m、水平距離は最大150m以内に設定しましょう。慣れるまでは、いずれも50mくらいに設定するのがおすすめです。
電波チェッカーやスペクトラムアナライザで電波をチェック
あらかじめドローンを飛ばす場所の電波をチェックするには、
- 電波チェッカー
- スペクトラムアナライザ
- 電波チェックアプリ
などを使用します。
DJIのドローンであればアプリ上で電波の状況をある程度確認することができますが、より詳しい電波状況が知りたいという場合は利用をこのようなツールを利用することで詳細な電波状況が把握可能。
ドローンの飛行範囲の電波状況は、電波チェッカーやスペクトラムアナライザで十分カバーできます。
電波チェッカー
電波チェッカーとは、目に見えない無線環境を確認することができるツール。無線の競合等を容易にチェックすることが可能。
スペクトラムアナライザ
スペクトラムアナライザはスペアナと略して呼ばれ、AC電力を周波数別に表示する高感度な測定器です。
かなり高価なものも多いですが、周波数帯のスペクトル表示に機能を絞った簡易型であれば比較的手頃な値段で手に入れることが可能。
電波チェックアプリ
手軽に利用できるものとしては「Wifiアナライザー」などのスマホアプリで電波をチェックする方法もあります。
スペアナのような本格的なツールまでは必要ないという方におすすめ。
万が一に備えた保険加入は必須
ドローンを飛ばすにあたり、万が一の事態に備えた保険加入は必須。なぜなら、できるだけリスクを回避しながら飛ばしていても事故を100%回避することはできないからです。
ドローン保険には、賠償責任保険と機体保険の2つの補償内容があり、使用目的によって個人向けか法人向けかを選ぶことになります(趣味で飛ばす場合は個人向け、事業目的で使用する場合は法人向け)。
賠償責任保険だけでなく機体保険にも加入しておけば、墜落させてしまった際の修理費用なども保障されます。
まとめ
ドローンで注意すべき電波干渉について紹介してきましたが、もう一度おおまかな要点を確認しておきましょう。
1.ドローンと電波の関係は以下の通り。
- 電波は電磁波の中のある決められた範囲の周波数をもつ”電場”と”磁場”からなる「波」であり、ドローンはこの電波を利用してプロポと機体で情報のやり取りをしている。
- 電波の届く距離は300~2000m程度で、間に障害物があるかどうかで大きく左右される。
- 電波干渉とは、無線電波を発信する機器同士で電波がぶつかり互いに影響を与える現象のこと。
2.電波干渉への対策方法や電波干渉による事故を防ぐ方法は、以下の通り。
- 電波干渉を受けやすい環境ではできるだけ飛ばさない
- 自動帰還設定を行う
- できるだけ目視内で飛行させる
- 電波状況の異変を見逃さない
- ジオフェンス設定を行う
【電波干渉を受けやすい場所】
- 人混みなど電波が混雑・混信しやすい場所
- 高層建築物や岸壁など垂直に立った障害物が多い場所
- 電波の発信源100メートル以内
- 樹木の多い場所
3.あらかじめドローンを飛ばす場所の電波をチェックするには、
- 電波チェッカー
- スペクトラムアナライザ
- 電波チェックアプリ
などを使用します。
4.ドローンを飛ばすにあたり、万が一の事態に備えた保険加入は必須
電波は目に見えません。ですが、この電波というものを意識していないと知らない間に危険な状況に陥ってしまう場合があります。
本記事で得られた知識によって電波干渉による事故のリスクが減ると共に、ドローンが安全に運用されることを願っています。