獣害対策におけるドローンの活用に注目が集まっています。「ドローンで獣害対策ってどういうこと?」あるいは「うちでも導入できるだろうか」と気になっている人も多いのではないでしょうか。
確かに、ドローンと獣害対策というと、すぐにはイメージが結びつかないかもしれません。しかし、すでに全国各地においてドローンの機動力や飛行の安定性、導入の手軽さを活かした活用が始まっています。
今回の記事では、ドローンを利用した獣害対策について、現状や今後の可能性、より広く実用化されるための課題などを紹介します。この記事を読むことで、ドローンを活用した獣害対策についてより具体的に理解できますよ。
目次
獣害対策としてドローンができること
農場や漁場への獣害を防ぐ・被害を減らすために、ドローンは多くの役割を担うことができます。害獣や害鳥を追い払うといった直接的な方法だけでなく、繁殖を防止して個体数を減らしたり、生態調査を行ってより効率的な対策検討に役立てたり、といった具合です。
現在多くの実証実験が行われている段階ですが、中には既にサービスとして提供されている技術もあります。ただし、ドローンによる対策は全てが新しい技術です。
事例はまだ多くないことに加え、実施する場所の環境などによっても効果や精度にムラが生じる可能性があります。サービス利用時には、どの程度の精度・効果が見込めるのか、しっかり確認した上で検討した方が良いでしょう。
害獣の生育地・活動範囲の把握
ドローンの精密カメラやサーモカメラを利用して害獣がどのあたりに生育しているのか、どのように移動しているのかといった情報を把握するなど、生態調査を行う取り組みが始まっています。ドローンであれば飛行しながら広い範囲を監視することができるため、これまでに比べて効率的にかつ詳細なデータを集めることができます。AIによる画像解析と組み合わせ、分析まで自動化する取り組みも行われています。
現在実証実験が行われ精度の調整などが行われている技術ですが、すでにサービスとして提供している企業もあります。
株式会社スカイシーカー
また、水産庁では、カワウ対策を行う人向けに「Let’s ドローン」という資料(全3種)を作成し、実施方法や注意点などを紹介しています。赤外線カメラを利用したカワウの生態調査については「Let’s ドローン vol.3」に掲載されています。
音声などによる害獣の追い払い
ドローンから害獣や害鳥が嫌がる音などを出して追い払うという取り組みも行われています。例えば、ドローンに搭載したスピーカーから鷹の鳴き声を流してカラスなどの鳥を追い払う、といった具合です。害獣や害鳥を直接傷つけることなく対策が可能ですが、騒音となるため人家の近くでは実施しにくいというデメリットもあります。
音声による追い払いについては、「Let’s ドローン基礎編」「Let’s ドローンvol.2」にも掲載されています。
また、一部サービスとして提供している企業や、導入する人向けに操作方法の講習を行っている企業がありますので、そのようなサービスを利用するという方法もあります。
株式会社エアリアルワークス
きっちんらぼ
害鳥の繁殖抑制
害鳥の個体数を増やしすぎないようにする、繁殖抑制においてもドローンが活用されています。
例えば特殊なテープをドローンに搭載し、巣を作りやすいような木の上などに巻きつけることで巣作りを防止する方法や、既にある巣にドローンからドライアイスを投下する方法などが実際に行われています。
これらの対策は、漁業の現場におけるカワウ対策や、街中のカラス・ハト対策などで行われています。既に導入している漁場も複数あるほか、サービスとして提供している企業もあります。
株式会社エアリアルワークス
また、ネット設置は「Let’s ドローンvol.2」、ドライアイス投下は「Let’s ドローン vol.3」にも掲載されています。
害獣の追尾など狩猟のサポート
害獣対策として狩猟を行う際、獲物となる個体の追尾などにドローンを活用している事例もあります。
猟場上空にドローンを飛行させながらカメラで獲物を探し、見つけたらドローンカメラでとらえながら追尾、実際に猟師がその場へ駆けつけて捕らえる、といった方法です。
カメラの精度など課題もありますが、個人レベルでは実際に活用している人もいるようです。
狩猟におけるドローン導入の現状や、実際の活用事例については、こちらの記事で詳しく解説しています。
獣害対策にドローンを活用するメリット
無人航空機であるドローンを活用することにより、これまでに抱えていた様々な課題を解決する、あるいはこれまでにはできなかった作業ができるようになりました。
例えば次のようなポイントが、獣害対策にドローンを活用するメリットと言えます。
少ない人数で対策ができる
ドローンを利用することで対策にかかる人手を大きく減らすことができます。
ドローンの自律飛行技術とAIを利用すれば、広い山中にいる害獣を無人で探すことができます。追い払いドローンについても、スピーカーを搭載して自律飛行させることで、自動で追い払いを続けさせることができます。
従来は人が実際に山に入り、自分の足で歩いて活動していたものを自動化することができるという点は、ドローンの大きなメリットと言えます。
広い範囲をまとめて対策することができる
ドローンは飛行して活動しますので、広い範囲をまとめて対策することができます。山や林の中、あるいは川の周りなど鳥獣害対策の現場は広いことに加え足場が悪いことも多く、人の手ではなかなか作業が進まないことも少なくありません。
その点ドローンであれば空からの活動ができますから、調査にしても作業にしても、人が行うよりも早く・広い範囲をまとめて実施することができるのです。
人が入れない場所・危険を伴う場所での活動ができる
ドローンは無人航空機ですから、人が入るのは危険な場所でも活動できます。例えば、滑落しやすい山の斜面などでも活動可能です。
また、小さい機体を活かして、狭い場所などに入り込んで活動することもできます。
夜行性の害獣に対する調査が可能
ドローンのサーマルカメラを活用すれば、夜間でも害獣の生態調査が可能です。夜の山に入ることは様々な危険が伴うため、人の手による調査はあまり行われてきませんでした。しかし、ドローンであれば安全に調査を行うことができます。
害獣の中には夜行性のものも多いため、この点は大きな意味を持ちます。
獣害対策におけるドローンの課題
一方で、安全かつ効果的にドローンを活用するためには、まだ課題も存在しています。新しい技術であるドローンをより効果的に活用するためには、次のようなポイントにおいて改善が期待されますし、活用時には気をつけたいところです。
効果的な追い込みのための音量や種類など細かな調整が必要
音声による狩猟時の追い込みに利用される音声は、どのようなものが効果的なのかまだはっきりとはわかっていません。現状ある程度の効果が見られている音声を利用していますが、今後さらに分析を重ね、より効果的な音の種類や音量がわかっていくことでしょう。
また、これらの音が人間にとって騒音となってしまうこともあるため、その点における改善も検討の余地があるでしょう。
操縦には熟練した技術が必要
ドローンの操作には、熟練した技術が必要とされます。特に、テープを張る、獲物を追尾するといった活動には精密な操縦技術が必要です。また、ドローンは精密機械ですから日々のメンテナンス技術も必要になります。
これらの技術を身につけるためには、ドローンスクールへ通って専門家から学ぶなどの方法があります。自信がない場合には、信頼できるサービス提供者に依頼する方が安心でしょう。
ドローンが広く安心して活用されるためには、信頼できる技術者が多く育つこと、あるいは自律飛行技術の向上など、誰でも簡単に活用できるドローン技術の開発が期待されます。
墜落や物品の落下など、安全対策が重要
飛行体であるドローンには、墜落や物品の落下など、事故の危険性もつきまといます。下で作業している人にぶつかったり、何かに衝突して壊したりといったリスクを避けるためには、安全対策が欠かせません。
ドローンを活用する際には、安全な運行計画の作成や、機器トラブルのリスクを下げるための日々のメンテナンスなどに留意する必要があります。
全国で実施されているドローンによる獣害対策の事例
紹介した多くの取り組みは、既に全国各地で実施されています。実際に実施された取り組みの中から、いくつかを事例として紹介します。
害鳥の追い払いの事例
岩手県では、水田におけるウミネコ・スズメ対策として、ドローンの飛行による追い払いの実証実験を行い、被害をゼロにするという成果を得ることができました。ウミネコやスズメの追い払いには音などは使用せず、ドローンを自動飛行させておくことで追い払うことができたということです。
この実験では、ウミネコとスズメそれぞれに効果的な飛行ルートが異なることも発見され、それぞれ効果的なルートが見出されています。
害獣の生育地調査の事例
複数の企業や研究者が共同で、害獣の生態調査へのドローン活用に関する実証実験を行なっています。愛媛県今治市で行われた実験では、実際にイノシシなどの痕跡を発見することができています。
今後はAIやワナの技術と組み合わせることで、効率的な駆除につなげていきたいということです。
害鳥の繁殖抑制対策の事例
栃木県矢板市では、アユ漁における害鳥であるカワウの繁殖抑制を目的として、ドローンからカワウの巣にドライアイスを投下する実証実験が行われました。
実験では約2時間半をかけて合計9つの巣にドライアイスを投下したということです。アユの放流時期に孵化する卵の数を減らすことで、アユに対する被害の減少を狙ったものです。
実験の様子はYouTubeでも公開されています。
ドローンによる獣害対策を始めるためのステップ
このように、ドローンは鳥獣害対策に広く活用されるようになってきました。ドローンを利用することで、これまでよりも少ない人員で、より安全に・効率的に対策を行えるようになっています。
もし今後ドローンによる対策を導入したいと思った場合には、次のようなステップから始めてみると良いでしょう。
ドローンによる獣害対策を行なっている企業に問い合わせ・資料請求する
ドローンを活用した鳥獣害対策をサービスとして提供する企業や個人は増えてきています。ノウハウがゼロの状態からであれば、自分で実施するよりもこのようなサービスを利用するという方法があります。
ドローンの活用は新しい技術ですので、サービス事業者によってサービス内容や質に差があることもあります。できれば複数の業者に問い合わせ・資料請求を行い、比較検討することをお勧めします。
ドローンスクールの見学・無料体験を受ける
長く活用していくことを考えるなら、ドローンスクールに通い、自分で運用していくことも方法のひとつです。ドローンスクールの中には基本的なドローン操作だけでなく、今回紹介したような特殊な技術について学べるコースがあるものもあります。
ドローンの操縦は単純ではないため、向き不向きもあります。まずはドローンスクールを見学し、自分の手で思った通りの活用ができそうかを検討してみると良いでしょう。
スクールの中には無料体験レッスンを用意しているところもありますので、まずは体験してみるのもひとつです。
すでに導入している自治体や猟友会に話を聞く
中にはこれらの対策をすでに実施・導入しているケースもあります。実際に鳥獣害対策にドローンを活用している人の話を聞くことで、より具体的なイメージを持つことができる・より実践的なアドバイスを受けることができると期待できます。
鳥獣害対策を実施している自治体や猟友会に問い合わせ、話を聞くことも役に立つでしょう。
まとめ
農場や漁場、人の暮らしに大きな影響を与える鳥獣害問題に対して、ドローンを活用した新しいアプローチの可能性が見出されてきています。また、中にはすでに活用されているものもあります。
鳥獣害対策の現場を変える技術として、ドローンは大きな存在感を持ったものになってくることでしょう。
最後に、この記事の内容をもう一度まとめます。
◎獣害対策としてドローンができること
(1)害獣の生育地・活動範囲の把握
(2)害獣の追い払い
(3)害鳥の繁殖抑制
(4)害獣の追尾など狩猟のサポート
◎獣害対策にドローンを活用するメリット
(1)少ない人数で対策ができる
(2)広い範囲をまとめて対策することができる
(3)人が入れない場所・危険を伴う場所での活動ができる
(4)夜行性の害獣に対する調査が可能
◎獣害対策におけるドローンの課題
(1)効果的な追い込みのための音量や種類など細かな調整が必要
(2)操縦には熟練した技術が必要
(3)墜落や物品の落下など、安全対策が重要
◎全国で実施されているドローンによる獣害対策の事例
(1) 害鳥の追い払いの事例
(2) 害獣の生育地調査の事例
(3) 害鳥の繁殖抑制対策の事例
◎ドローンによる獣害対策を始めるためのステップ
(1)ドローンによる獣害対策を行なっている企業に問い合わせ・資料請求する
(2)ドローンスクールの見学・無料体験を受ける
(3)すでに導入している自治体や猟友会に話を聞く
現在はまだ新しい技術で課題もあるドローン活用ですが、今後技術の開発やノウハウの蓄積により、その価値を高めていくことでしょう。
鳥獣害対策におけるより安全で効率的な対策として、今後さらに実用的に、また広く利用可能になっていくことが期待されます。