[画像提供]ブルーイノベーション株式会社
レベル4飛行(第三者のいるエリア上空を補助者なしかつ機体を目視できない状況でドローンを飛ばすこと)が解禁され、ドローンが飛び交う未来の到来がいよいよ近づきつつあります。
そんな中、ドローンポート情報管理システム「BEPポート|VIS」のβ版が、2023年8月1日に提供開始されました。開発したのは、ドローン業界の一翼を担うブルーイノベーション株式会社。
2023年6月2日付で正式採択された国際規格ISO5491(物流用ドローンポートシステムの設備要件に関する国際標準規格)のベースとなっているのが同システムの仕様である点も注目を集めています。
直接のユーザーとしては法人が想定されていますが、ドローンの社会実装が実現すれば、同システムは暮らしを支えるインフラとしてあらゆる人に関係してくるでしょう。
そこでドローンナビゲーターでは、この革新的システムの開発によりその存在感を世界に示したといえるブルーイノベーション株式会社を取材し、
・「BEPポート|VIS」とはどういったシステムなのか?
・同システムの開発に至った経緯は?
・同システムが想定しているユーザーやユースケースは?
・同システムがISO5491に準拠していることの意義は?
・ブルーイノベーション社が目指す今後の方向性は?
などについて詳しくお話を伺いました。
ご対応いただいたのは、同社代表の熊田様、同社にてISO5491作成プロジェクトを担当した宮本様です。
目次
「BEPポート|VIS」でドローンが自動で離着陸。運航オペレーションの統合管理が可能に
——本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。まずはじめに「BEPポート|VIS」とはどういったものかについて教えていただけますか。
代表・熊田様:平たく言うと、複数機のドローンを安全に自動着陸させることを可能とするシステムです。
・ドローンの発着場であるドローンポートや周辺機器の稼働状況
・ドローンポート周辺の気象状況(風速、雨風、気温など)
・ドローンポート周辺の障害物や第三者侵入の有無
などの情報を一元的かつリアルタイムに管理し、さらにUTM(*1)などの外部システムとも連携することで、一連の運航オペレーションを統合管理します。
*1: |
ちなみにBEPとは弊社独自のデバイス統合プラットフォーム「Blue Earth Platform」のことで、「BEPポート|VIS」は同プラットフォームをベースに開発されています。
また、VISとはVertiport Information System(垂直離着陸用飛行場の情報システム)のことです。
情報管理システムであるVISと気象センサー、それから侵入検知センサーをセットにしたものが「BEPポート|VIS」で、2023年8月1日からβ版として提供しています。
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——なるほど、ドローンポートそのものではなく、ドローンポートを起点とした自動運航管理の“システム”を提供しているということですね。
代表・熊田様:はい、その通りです。ドローンポート単体ではただの箱ですが、そこにVISを搭載することで、インテリジェントなドローンポート(ドローンポートシステム)になるわけです。
着目したのは“魔の11分”の安全確保
——同システムの開発に至った経緯についてお聞かせください。
代表・熊田様:2022年末に改正航空法が施行され、レベル4飛行(*2)が解禁されました。
*2: |
ドローンや空飛ぶ車が飛び交う時代が近い将来やって来ると想像した場合、参考となるのは同じように空を飛ぶ飛行機を取り巻く状況でしょう。
飛行機のケースから類推すると、ドローンの安全飛行において重要なポイントとなるのは「離着陸のタイミング」であるといえます。
実は、航空業界では離陸直後の3分間と着陸直前の8分間を合わせて「魔の11分」と呼んでいます。その理由は、全航空事故の7割がこの11分間のどこかで起きているからです。
有人航空機の世界で起きていることは無人航空機の世界でも同じように起きるはず。まして有人ではなく無人、つまり操縦士が乗っていませんので、離着陸時のリスクは一層高くなります。
Japan Drone 2023にて「BEPポート|VIS」を紹介する宮本様
([画像提供]ブルーイノベーション株式会社)
ですから我々としては、ドローンの離着陸タイミングの安全をいかに担保するかに着目したのですが、開発を始めた直接的なきっかけは国土交通省からの相談があったことでした。国土交通省もやはり離着陸時の危険性を一番気にしていたんですね。
それで、ドローン研究の第一人者であり今は東京大学の名誉教授である鈴木真二先生と一緒に、ドローンポートシステムの基礎研究を始めたのが2017年のことです。
国内だけでなく世界的に見ても、当時としてはかなり先行的な取り組みだったと言ってよいかと思います。
——開発時に重視した点にはどういったものがありましたか?
代表・熊田様:重要視したコンセプトが3つあります。
1つ目は、先ほど言ったように、離着陸時の安全性。
2つ目は、どのメーカーの製品にも組み込める汎用性。
特定のメーカーのドローンや指定の周辺機器にしか組み込めないという設計では、広く普及させることはできません。
3つ目は、さまざまなソリューションへの拡張性。
もともとは物流を想定してスタートしたこの取り組みですが、今後レベル4飛行が普通になっていけば、物流以外の点検や測量、災害時救助などもレベル4の世界で行うようになるでしょう。
これら3つのコンセプトは、弊社の今後の開発における重要な方針でもあります。
想定ユーザーは幅広いが、現時点でのメインユーザーは官公庁
——どういったユーザーを想定していますか?
代表・熊田様:主なユーザーとして想定しているのは、
・UTMベンダー
・ドローンメーカー
・ドローンポートを開発しているメーカー
・各種ドローンサービスを提供しているサービスプロバイダー
といった辺りですね。
提供しているのが特定のハードウェアなどではなく、いわば「運航管理の仕組み」なので、対象は幅広いです。
——提供開始前の時期も含め、反響や引き合いはどんな感じですか?
代表・熊田様:目立つのは官公庁ですね。
というのも、ドローン物流はまだ社会実装フェーズの手前というのが正直なところで、今はどちらかというと実証実験を重ねていくフェーズだからです。
国や地方自治体の補助金を受けたドローンサービスプロバイダーやメーカー、UTMベンダーなどが参画する実証実験に対し、弊社が「BEPポート|VIS」を提供するという枠組みが現時点での想定なんです。
民間のケースはずっと少なくはなりますが、これを機に点検分野などでドローン活用を始めたいと考えているサービスプロバイダーさん向けのシステムを開発しようとしているお客様からのお問い合わせはそこそこあります。弊社システム(BEPポート|VIS)とのAPI連携(外部のシステムやアプリケーションと連携させて機能拡張すること)を検討しているわけです。
「どこまで自動化するか?」は運用者の設計思想次第
——自動離着陸が基本の「BEPポート|VIS」ですが、問題や異常が発生した際の判断も自動で行われるのでしょうか?
代表・熊田様:「今日は風が強いから離陸させるのはやめよう」とか「障害物が見つかったから着陸するのはやめよう」といった判断が自動で行われるのかというご質問ですね?
人がどこまで介入するかは運用者の設計思想次第なのですが、基本的には「BEPポート|VIS」からアラート通知を受けた管理者、つまり人が判断することを想定しています。
宮本様:飛行の最終的な責任はドローンを操縦するオペレーターにあるということです。何らかの問題や異常があればアラートによって通知されるので、それでも離着陸させるか否かはその通知を受けた人が判断すべきというのが私たちの基本的な考え方です。
代表・熊田様:事故の7割が離着陸時に起きていて、そこにはいろいろなケースが含まれます。そのすべてを完全自動で回避するというのは難易度が高過ぎるといえるでしょう。
やはり少なくとも現時点では、いわば予知・予防措置としてのアラート機能と、人による判断とを組み合わせた形で安全を担保するのが基本だと考えています。
——「運用者の設計思想次第」ということは、しかし、技術的には完全自動化も可能ということなのですね?
代表・熊田様:はい、技術的には可能です。実際に仙台市の海岸線に2022年10月から設置されているドローンポートシステムがその例です。
物流用ではなく津波広報用のドローンの運用なのですが、国内初の全自動システムです。
仙台市で運用されている津波広報ドローン
([画像提供]ブルーイノベーション株式会社)
Jアラートで津波警報を受信すると、それがトリガーとなってビル屋上に設置されたドローンポートが自動で開き、そこからドローンが自動で離陸、沿岸部約10kmの範囲を飛行して「皆さん避難してください」と知らせます。
海沿いなので風が強いこともままあり、その際には自動的に離陸中止となります。離陸を中止したことは管制センターに通知されますが、判断自体は自動で行われるのです。
同様に、着陸時に強風が吹いている場合は、ドローンが風に煽られてドローンポートにぶつかるのを避けるため、ドローンポートではなく屋上のどこか別の場所に着陸する仕様になっています。この判断も自動で行われ、人は介入しません。
人が判断する余裕のない非常時を想定したシステムなので、完全自動という設計思想になっているわけです。
Jアラートをトリガーとして自動で離陸する
([画像提供]ブルーイノベーション株式会社)
快挙!ドローンポートシステム国際標準化で世界市場先行を目指す
——同システムはISO5491に準拠しているとのことですが、この点についてもお話をお聞かせいただけますか。
代表・熊田様:世界に展開しようと考えたときに立ちはだかるのが、各国の航空法の違いです。
ここをブレイクスルーするには、国際標準化が必要となってきます。
国際標準の有名な例にネジや電池があります。ネジの規格(M10、M12など)や電池の規格(単3、単4など)は世界共通です。規格が国際標準化されているからこそ、ここまで世界規模で普及しているのです。
弊社の開発したシステムを世界のスタンダードとして普及させるためにも、国際標準として認められること、ISOで国際規格として採択されることが非常に重要だと我々は考えました。
そこで、ISO活動面では経産省、開発面では国交省のサポートを受けながら、2019年のISO南京総会でドローンポート構想を提案、翌2020年には弊社がワーキンググループの議長となって本格的な活動をスタートしました。
その後、各国の官公庁、業界団体、関連企業による委員会や検討会が計10回以上開催されて規格内容が精査され、晴れて2023年6月2日に採択。物流用ドローンポートシステムの設備要件を国際標準化することに世界で初めて成功しました。
——御社が考案段階から関わってプロジェクト全体をリードし、ISO5491の発行に漕ぎ着けたのですね。
代表・熊田様:弊社がそれまでにも多くのメーカーさんと検証を重ねてきていて、そのデータをエビデンスにして開発を進めてきたというところが非常に大きく影響し、採択がスムーズに進んだと聞いています。それでもなんだかんだで3年かかりましたが。
——国際規格化された「ドローンポートシステム」の概念について教えてください。具体的にどこまでの範囲を指しているのでしょうか?
宮本様:今回国際規格化されたのは、ハードウェアであるドローンポートや周辺機器と、それをコントロールするソフトウェアであるVISから構築されたシステム全体です。
もう少し細かく言うと、
・ドローンポート(ハードウェア)
・気象センサーや侵入検知センサーといった周辺機器
・ドローンポートや周辺機器から収集された情報を統合管理するドローンポート情報管理システム(VIS)
を包含するものが“ドローンポートシステム”であると定義されています。
そして、そもそも「BEPポート|VIS」の仕様が規格として認められたわけなので当然ですが、「BEPポート|VIS」は同規格に準拠しています。
——開発中の製品の仕様を国際標準化するのではなく、既存のISO規格に準拠した製品を開発するというイメージがあるのですが……。
宮本様:ISOは日本で言うとJISみたいなもので、すでに規格が決まっていて、それに準拠していればお客様が安心してくれるとか、 受発注が円滑に行くとか……そういったイメージですよね? あるいは、準拠しているからサプライチェーンなどとも取引しやすいとか。
でもドローン業界に関しては、ドローン自体がまだ黎明期、ドローン物流やドローンの離着陸場などに至っては「まだまだこれから」の分野ですので、事情が異なります。
理想の規格を作っておいて、それに合わせて製品を作っていく(事後標準)というよりは、今存在しているものを規格にする(事前標準)ほうが多分早いです。
代表・熊田様:開発中の製品の仕様に合わせた規格を国際規格化して、今後の世界標準になる道筋をつけておくのが、もはや一企業の作戦を超えて日本の国策となっているという側面もあります。
世界におけるスタンダードの位置付けを獲得しておけば、日本発のドローンポートやドローンポートシステムを他国に先行して世界市場にどんどん出していけますから。
実際、ISO規格を抑えておくのは国益につながるとして、国からの後押しが結構大きかったんです。
この業界でリーダーシップを取るという観点において、国際規格化はとてつもなく大きな意義があるといえます。
システムは共通、使うドローンポートは運用別
——国際規格化されたのは、レベル4飛行を想定したドローンポートシステムのコンセプトであり、特定のドローンポートや特定の機種のドローンに限定されるものではありませんよね。それはつまり、どういったハードウェアを使うかはユースケースによるということですか?
宮本様:おっしゃる通りです。規格化自体が「どのユースケースでも使えるように標準化すべきだよね」という観点で進められましたし。
代表・熊田様:たとえば、これはまだ実証実験の段階ですが、地震で道路が陥没した場合などを想定して、船からドローンを飛ばして内地に荷物を届けるという運用案もあります。
こうした運用ごとにハードウェアは自ずと異なってきますが、「BEPポート|VIS」は特定のハードウェアに限定されないので、どういった運用にも活用できます。
——運用ごとのハードウェアの例を教えてください。
代表・熊田様:たとえば災害救助のケースですね。
災害現場に巨大な固定式のドローンポートなんて置けるわけがありません。ではどうするかというと、可搬式のドローンポートということになります。
ターポリン(工事現場の養生シートやテントなどに使われるビニールシート様の素材)などにアルコマーカー(カメラで認識することでドローンが位置座標データを取得し、高い精度で自動着陸できるようになるQRコードのようなマーカー)をプリントしたものが一例です。かなり原始的ですが、これも立派なドローンポートです。
アルコマーカーをプリントした可搬式ドローンポート
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一方、そういう原始的なドローンポートの対極にあるのが、荷物格納機能を搭載するなど作り込まれた物流用のドローンポートです。大きくて、重くて、完全に固定式だけど高性能できめ細かい。
ただし、メーカーがドローンポートを作り込むほどに、ドローン本体側の仕様が限定されるケースも出てくるでしょう。「こういう規格のドローンでないと着陸できません」と。
そういった限定は利便性を損なうように感じられるかもしれませんが、安全で確実な運用を実現するためには大事なことであるともいえます。だからこそ、今回の国際標準化が活きます。
多様な分野でのドローン社会実装に対応する「BEPポート|VIS」を提供
——類似のシステムを開発している競合他社はいますか?
宮本様:おそらくいないはずです。VISのこの概念自体がまだ他にはないですから。もちろん今後競合が出てくる可能性はありますが。
——お話を伺っていると、御社は近い将来のドローン社会における重要なプレイヤーになりつつあると感じます。御社の今後の方向性についてお聞かせください。
代表・熊田様:さまざまな分野でドローンが社会実装されていくことを見据えて、それらを幅広くカバーし得る統合システムを提供していくというスタンスです。
拡張性は最初にお話ししたシステム開発時の3つの設計コンセプトの1つですが、単に拡張性があるからというのではなく、社会実装を加速するようなさまざまなソリューションも視野に入れながら提供していきたいと考えています。
——この取材の前までは、御社に対して「点検ソリューションなどに強いドローン業界の老舗」というイメージを持っていました。
確かに弊社の強みであるセンシング技術をもっとも活かせるのが点検分野であり、事実、点検が現時点での弊社の主力事業でもあります。
とはいえ、そんなドローン点検も、はっきり言ってしまうと今はまだ実質レベル2での社会実装の話です。現場に人が出向いて行っていますから。
ですが、今後は点検もレベル3のフェーズに入っていき、最終的にはレベル4のフェーズに入っていくでしょう。 「勝手にポートから出ていき勝手に点検してくる」という時代にやがてなるのです。
そうであるならば、無人化・自動化のキーパーツとなるドローンポートシステムの基礎研究を2017年からやってきた我々としては、当初想定していた物流分野にとどまらず、点検分野での社会実装を進めていきたい。もっと言えば、レベル4のフェーズに入ってく可能性のある、あらゆる分野に幅広く対応してきたいのです。
Japan Drone 2023でプレゼンするブルーイノベーション代表の熊田様
([画像提供]ブルーイノベーション株式会社)
——最後となりますが、読者の皆様に向けたメッセージをお願いします。
代表・熊田様:弊社は、ドローン業界に参入してくる企業やパイロットの方々を応援する立場でありたいと思い続けています。
また、弊社はJUIDAという管理団体の事務局という顔も持っており、
・ドローン飛行日誌作成・情報管理サービス「BLUE SKY」
・ドローン専用飛行支援地図サービス「SORAPASS」
・ドローン保険「SORAPASS care」
などのドローンパイロット向け各種サービスの提供を通じて、多くのドローンユーザー様とつながっています。
ですので、「BEPポート|VIS」に限らず、ドローンのことならどんどんご相談いただきたいと思っています。
これからドローンビジネスに参入しよう、ドローンサービスを提供していこう、ドローンパイロットになろうという方のお力になれれば幸いです。
——ドローンポートシステムが広く当たり前に実運用されているドローン社会の到来が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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