ドローンの有効な利用法は「空からの撮影」ですが、被写体として予定していなかった「人」が映り込んでしまった場合に発生するプライバシー、肖像権や個人情報保護の問題についてよくわからない…とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
ドローンは容易に空からの撮影が可能であるため、撮影やインターネット上での公開に伴うプライバシー権等の侵害の危険性が高いことは事実です。
例えば、あなたが飛ばしたドローンのカメラに偶然とある集合住宅の住人の顔が映ってしまい、それに気付かずにインターネット上に公開してしまったとしたら?あなたは民事・刑事・行政上の何らかの責任を問われる可能性が高くなってしまうのです。
そこでこの記事では、
- ドローン空撮によるプライバシー侵害に関する総務省のガイドライン
- どうしても映り込みしてしまう時の対処法
- 建物の権利問題
などについてお伝えし、ドローン撮影によって第三者のプライバシーを侵害しないための対策について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、ドローン撮影での人の映り込みから発生するプライバシー等の侵害について理解し、的確な対処法で問題なく撮影を行うことができるようになるでしょう。
目次
ドローンのプライバシー・肖像権問題にはガイドラインがある
ドローンによるプライバシー等侵害に関する問題に関しては、総務省から『「ドローン」による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン』という一つの指針が出されています。
このガイドラインは、損害賠償責任が起こらないように撮影と個人保護法の関係を整理するために、一般ユーザーや団体、法律専門家などで構成して意見会を開いた上でまとめられたもの。
こちらでは、そのガイドラインをベースにこの問題を解説していきます。
撮影行為自体の違法性については線引きがない
そもそも撮影すること自体に違法性があるかということですが、結論から言うと明確な線引きはありません。
例えば住宅地など必ず住居や住民が映り込む地域や、多くの人が行き交う商業施設付近などにおいては、その撮影行為自体は違法ではないのか?と思う方も中にはいるかと思います。
この撮影行為自体の違法性については、ガイドラインには以下のように書かれています。
撮影行為の違法性は、一般的には、①撮影の必要性(目的)、②撮影方法・手段の相当性、③撮影対象(情報の性質)等を基に、総合的かつ個別的に判断されるものとされている。
つまりその撮影が違法に当たるかどうかの明確線引きはなく、撮影の目的、撮影方法が妥当なのか、対象物にどのような情報が含まれているかを総合的判断するということですね。
【違法となるケース】
例えば故意に他人の家の中をドローンで撮影した場合、「盗撮行為」として迷惑防止条例違反となる場合があります。
プライバシー問題は公開に生じる不利益のバランスがポイント
プライバシーの侵害にあたるかどうかは、公開によって生じる不利益とのバランスがポイントになります。
「プライバシー権」とは、私生活に関する情報を何の理由もなく公開されることのない権利のことをいいます。
個人を識別できる顔はもちろん、家の中の様子、車のナンバープレート、洗濯物、その他生活状況を推測できるような私物が写り込んでいる場合にも、内容や写り方によってプライバシーとして保護される可能性があります。
ドローンで空撮した画像や動画の中に「人」が映り込むことはよくありますが、その映像をインターネット上に簡単にアップロードすることが可能なため、被写体のプライバシー権との関係が問題となるのです。
ガイドラインにはどう書かれている?
このプライバシーの侵害についてガイドラインにはどのように書かれているかというと、
プライバシーについて一般的な定義は存在していないが、近年の判例では、他人にみだりに知られたくない情報か否かが、プライバシーとして保護を受ける基準とされている。
プライバシーについては、公開する利益と公開により生じる不利益との比較衡量により侵害の有無が判断されることになるが、一般に、個人の住所とともに当該個人の住居の外観の写真が公表される場合には、プライバシーとして法的保護の対象になり得ると考えられている。
屋内の様子、車両のナンバープレート及び洗濯物その他生活状況を推測できるような私物が写り込んでいる場合にも、内容や写り方によっては、プライバシーとして法的保護の対象となる可能性がある。
この文章の中にある「近年の判例」とは、以下の通り。
最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決(民集57・9・783)
学籍番号、氏名、住所及び電話番号について、「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものである」から、「プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。」
つまり、当該人が他人に知られたくない情報であると考えた場合は、プライバシーとして保護されるべきということですね。
ドローンの撮影においては一般的な撮影に比べ、想定していないものが映り込む可能性が高いと言えますが、
- たまたま映り込んでしまった
- 映り込んだ画像の割合が小さい
場合には、プライバシー権の侵害が認められる可能性は低いということが言えます。
肖像権は容貌が判別つかないレベルであれば問題ない
肖像権については、誰かを特定してドローン撮影をするのではなく、通常のドローン撮影を行っていて偶然的に写り込んでしまったもので、なおかつ容貌が判別つかないレベルなら大丈夫であると判断して問題ないでしょう。
ガイドラインには以下のように記載されています。
肖像権については、人は、その承諾なしに、みだりに自己の容貌や姿態を撮影・公開されない人格的な権利を有するとされている。
撮影・公開の目的・必要性、その態様等を考慮して、受忍限度を超えるような撮影・公開は、肖像権を侵害するものとして違法となる。
さらに人の映り込みに関しては、
公共の場での情景を機械的に撮影しているうちに人の容貌が入り込んでしまった場合は、特定の個人に焦点を当てるというよりは公共の場の情景を流すように撮影したものに類似する。
したがって、ごく普通の服装で公共の場にいる人の姿を撮影したものであって、かつ、容貌が判別できないようにぼかしを入れたり解像度を落として公開したりしている限り、社会的な受忍限度内として肖像権の侵害は否定されると考えられる
と書かれています。
つまりどういうことかと言うと、風景を撮ったり公共の場で情景を機械的に撮影している場合に映り込んでしまった場合は、肖像権の侵害には当たりにくいということです。
しかし、
- 公共の場で、歩行者の全身を承諾なく大写しで撮影し、ファッション関係のウェブサイトに掲載した
このような場合は、たとえ撮影された場所が「公共の場」であっても特定の人を対象とした撮影と判断され、肖像権の侵害に当たる恐れがあります。
ちなみに、警備や監視を目的としての撮影において、不審者を追跡し人相を撮影する目的で使われた場合などについては、特定の個人を対象とした撮影であっても撮影自体に正当な目的があるので適法になると考えられます。
ドローン撮影でプライバシーを侵害しないための4つのチェックポイント
ドローン撮影においては、プライバシーを侵害しないための配慮が欠かせません。
こちらでは、撮影時の各段階におけるチェックポイントをご紹介します。
①撮影開始前は撮影場所と対象を特定して配慮を
撮影前には、撮影を行う場所が公共の場所なのかそうでないのか、撮影しようとする対象が人なのか物なのか風景なのかなどを特定します。
ドローンの飛行許可が必要な場合には申請が必要ですが、許可された場合であっても個人のプライバシーを侵害してしまうような状況はできるだけ避けることが必要。
状況によっては、撮影場所およびその周辺に事前に許可を取ることや、ドローンによる空撮中であることが周囲に分かるよう周知を徹底する、といった配慮も必要です。
②撮影時はカメラの向きや高度に注意
風景を撮影する場合には、できるだけ住宅地にカメラを向けないようにする必要があります。
- ドローンの高度を上げる
- カメラを正面の向きにする
など、撮影者がコントロールできる部分は極力配慮しましょう。
どうしても住宅地が映ってしまう場合はズームなどを行わず、また、人が映ってしまう場合には承諾がないかぎり大写しにしないようにする必要があります。
③公開前には入念なチェックを
SNSを始めとしたインターネット上で撮影動画を公開する場合には、その動画にプライバシー権や肖像権などの権利を侵害する内容が含まれていないか、撮った画像を再度念入りに確認することが重要です。
もし人の顔など特定の個人が判別できるものが映り込んでいる場合には、そのシーンは公開しないのがベター。どうしても必要な場合には、ぼかし処理などを行ったうえで公開する必要があります。
④公開後に権利侵害が発覚したら直ちに削除を
第三者から権利侵害の申立てがなされたような場合には、対象となっている動画などを再度確認し、権利侵害が認められた時には直ちに削除することが必要です。
建物の権利問題のクレームにも注意する
ドローンに限らず撮影されたものが広告に使われたりする場合によくあるのが、建物の権利問題。これは、結論から言うと何ら問題ありません。
商品広告などに建物がうつりこんでいる場合、「うちも建物を勝手に使われては困る」といったクレームが入ることがよくあります。そもそも建物の著作権は法的にどのように保護されるべきで、建物を撮影した写真はどのように扱うのが正しい判断なのでしょうか。
実は著作権法の第46条「公開の美術の著作物等の利用」には、このように記載されています。
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
- 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
- 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
- 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
- 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
つまり禁止行為として定められているのは、全く同じ意匠の建築物をつくる行為と、複製物を作って公衆に提供する行為だと明記されています。
つまりこれ以外の目的であれば自由な利用が著作権法で認められていて、写真を撮影することも、その写真を広告に使用することも、問題ありません。
建物所有者の敷地内での撮影・有名施設や公共施設の撮影には要注意
ただし、その写真が建物所有者の敷地の中で撮影されている場合には、建物所有者の「施設管理権」が優先される場合があるので要注意。
また、法的には問題がなくても、各地のランドマークとなっているような有名なタワーや商業ビル、美術館、学校などの公共施設、神社仏閣などは、残念ながら自由な写真の使用を認めているわけではありません。気になる場合は、事前に確認することをおすすめします。
ドローン保険は賠償責任保険にも加入を
特にドローンを仕事で使用する場合には必ず入っておくべき「ドローン保険」ですが、機体そのものにかける「機体保険」だけでなく「賠償責任保険」にも加入しておくと、プライバシー侵害で訴えられてしまった時にも適用されるのでより安心です。
「賠償責任保険」は以下のような場合に適用されます。
- 対人賠償:操作を誤り、機体が歩行者に接触してケガを負わせてしまった等
- 対物賠償:ドローンが第三者の車両にぶつかり損傷させてしまった等
- 人格権侵害:空撮した映像を投稿したところ、付近の家からプライバシー侵害で訴えられてしまった等
なお、対象保険によっては上記内容の一部が適用外の場合があるので、加入の際に詳細を確認しましょう。
さいごに
ドローン空撮のプライバシーの侵害について紹介してきましたが、もう一度要点を確認しておきましょう。
- 総務省ガイドラインでは、撮影自体の違法性は、①撮影目的、②撮影方法・手段の相当性、③撮影対象の3つを考慮したうえで、総合的・個別的に判断されるものとされている
- 「たまたま映り込んでしまった」「映り込んだ画像の割合が小さい」場合には、プライバシー権の侵害が認められる可能性は低い
- 風景を撮ったり公共の場で情景を機械的に撮影している場合に映り込んでしまった場合は、肖像権の侵害には当たりにくい
- プライバシーを侵害しないためには、①撮影開始前、②撮影時、③公開時、④公開後それぞれに応じた配慮が必要
- 撮影・公開にあたっては、
- 住宅地は、なるべく距離を置いた場所から撮影し、カメラの向きにも配慮する
- 人の顔が写らないように配慮し、写ってしまった場合はそのシーンを削除するか必要な場合はぼかしを入れる
といった点に配慮すべき
- 建物の権利問題は気にする必要はないが、公共施設や神社仏閣、ランドマーク的なタワー等に関しては注意が要確認
- 万が一に備えて賠償責任保険に加入しておく
ドローンは機体の目視が原則とされているので、機体を見ながらカメラに映り込んでいる映像を同時にチェックするのは極めて難しい行為です。
ですが、個人が特定できる情報はいったんインターネット上に流出してしまうと回収することはほぼ不可能。ドローン撮影を行う際には、撮影するタイミングやドローンの高度、カメラの角度などに最大限配慮することに加えて、撮影後の映像チェックも必要です。
本記事で得られた知識を参考に、安全かつ個人のプライバシーに配慮した撮影を行いましょう。