もしもあなたが下水道点検のお仕事に関わっているのであれば、大変な作業であり危険が伴う作業でもある下水道点検を、なんとかもっと楽で安全にできないものかとお考えになったことがきっとあるはずです。
ドローンがその答えとなり得ることが、近年証明されつつあります。
従来からプラント点検などに利用されてきたドローンですが、下水道点検にも有効な手段となることが複数の実証実験で明らかになっており、一部の地域では実用レベルでの運用もスタートしています。
今回、下水道点検業者にドローンを提供する立場としてのご経験と、ドローンを自社ビジネスに活用する立場としてのご経験の両方をお持ちの方に、ドローンを使った下水道点検について詳しいお話を伺いました。
下水道点検用のドローンの種類や購入・導入方法など、これからドローンを導入したいとご検討中の方に役立つ実践的な内容のほか、下水道点検におけるドローン活用の現状、他分野への応用可否、将来性などについてもご紹介しています。
さらに、現時点では下水道点検業に関わっていない方向けに、新規参入の方法も取り上げています。
この記事をお読みいただければ、ドローンを使った下水道点検の全体像や現状、メリット、導入する際の手順、注意点などを幅広くご理解いただけるはずです。
下水道点検のあり方を大きく変える可能性を秘めたドローン。
少しでもご興味をお持ちでしたら、本格的なご検討につなげるための判断材料として、本記事をぜひご参考になさってください!
目次
下水道点検にドローンを活用することのメリット
──今日はドローンを使った下水道点検についていろいろと教えてください。まず最初に、下水道点検にドローンを活用することのメリットを教えていただけますか?
キツい・汚い・危険のいわゆる3Kで苦労しなくてもよくなります。
キツいとか汚いとかももちろんですが、危険を回避できるという点が中でも一番大きいですね。
下水道点検には酸欠や硫化水素ガスのような有毒ガスによる事故の危険がつきものですが、人が中に入る代わりにドローンが入ることで事故のリスクをゼロに近づけられます。
そしてもう一つ、とにかく圧倒的に作業が早くなるということが挙げられるでしょう。
人が匍匐前進したり、キャタピラのついたロボットにカメラを載せたものを操縦したりといった従来法では100m進むのに何時間もかかりますが、ドローンなら浮いてまっすぐ進むだけなので1分もかかりません。
──本当に圧倒的な時短ですね!必要な人員も少なくて済みますか?
作業に必要な人数自体は変わらないと思います。
下水道管の中を見る人と、その人をサポートする人、それから道路封鎖が必要ですから手前側と奥側に1人ずつで2人と想定すると、中を見る人がドローン操縦者に置き変わってもやっぱり最低4名は必要になってくるだろうなと。
将来的に完全に自動化されるなどすればもう少し減らせる余地はあるかもしれませんが、現状ではほぼ従来と同じだけの人数が必要なんじゃないでしょうか。
ですが、作業人数は減らなくても、1ヶ所にかける時間が仮に5分の1になれば同じ時間で5倍の作業ができるわけですから、効率化と時短によって実質的な人員削減につながると思います。
収益の点で言っても、実施量が5倍になったら1日の稼ぎが単純計算で5倍になります。
実施する企業にとって大幅な収入アップは大きなメリットのはずです。
下水道点検用ドローンに求められるのは安定飛行性能
──下水管内という特殊な環境で飛行させるドローンにはどういった性能が求められるのでしょうか?
安定して飛行できる性能がまず挙げられます。
広い空間を飛行するなら問題とはなりませんが、比較的細い管の中を飛行させる場合、プロペラで下方向に送った風が管内の空気を乱してしまうんです。
結果として、自分自身が巻き起こした風のせいで安定して飛べなくなるという問題が起こります。
プロペラが下方向に送った空気が管の中で渦を巻くようにコントロールできればドローンは安定すると言われていますので、そこの技術が重要になってきますね。
──下水道点検用のドローンはどれもそういった技術を搭載しているということですか?
そうだと思います。
下水道管内でもまっすぐ飛べるように、そして動画や写真を的確に撮れるように、各メーカーは他にもさまざまな工夫で機体制御を実現しているといったところです。
下水道点検向けドローン3機種の各特徴
下水道点検用のドローンの開発を進めているメーカーは3社あって、それぞれに特徴があります。
▶日本のACSL社製のAirSlider(上下水のコンサルを手がけるNJS社が採用)は細長い形をしているのが特徴です。
同じように細長い下水道管内を飛行させた場合、機体を管の中心に維持しやすい。
内壁に少しくらいぶつかったとしてもまたすぐに真ん中に戻れます。下水道点検に特化したモデルです。
▶同じく日本のLiberaware社製のIBISは、とにかく小型。
GPSの届かないような狭小空間、たとえば小屋裏とか工事現場の狭い場所とかでドローンを自律飛行させての設備点検を実現するという会社目標にふさわしい機体です。
下水道管についても「操縦技術がなくても自動で飛ばせますよ」というコンセプトで開発が進められています。
▶スイスのFlyability社のElios 2(ブルーイノベーションというソリューション提供会社が正規代理店となっている)は、カゴのような球状のガードで機体を覆っているので、ある程度までの衝撃に耐えられるようになっています。
現在のところ下水道専用というよりはプラント点検が主戦場となっている機種ですが、下水道点検にも当然応用でき、実証実験が進められていると聞いています。
細めの下水道管がターゲット
──下水道点検に特有の課題を解決するために、各社がそれぞれのコンセプトに従って開発・製造しているんですね。
少なくとも、人が入りづらいもしくは入れないような細い管での飛行を想定している機種についてはそうです。
一方、十分に太さのある管であればトンネル点検のイメージに近くなって、下水道に特化した機能を追求する必要性はなくなります。
ドローンの活躍がより期待されるのは、人が中に入る方法では苦労するような比較的細い管内ですので、下水道点検用ドローンは細い管中心に開発が進んでいるんです。
太い管については、GPSの使えない環境でも自動で飛ばせるような普通サイズのドローンの研究開発が各社で進められていますから、そういったものが活用されるようになっていくのかなと思います。
──GPSもそうですが、それ以前に電波が届かないような気がするのですが……。
まっすぐな管の中であれば、電波はおおむね届きます。
下水管自体はほとんどがまっすぐで、マンホールごとに角度をつけて接続させることでカーブさせているという話ですので、マンホールから次のマンホールまでの間はまっすぐなわけです。
ですから、電波の問題はそこまで気にしなくても大丈夫かと。
もちろん、狭い場所なので電波が通りにくいケースもあるにはあるみたいなんですけれども、各社ともどんな電波やどんな製品を使うのがベストかを調査研究していますしね。
──マンホールってだいたいどのくらいの間隔で設置されているものですか?
100m前後の間隔で設置されていることが多いようです。
下水道点検以外の分野での応用も
(ドローンを活用した水力発電所鉄管の点検実例 / Hydropower penstock inspection with UAV)
──100m前後のまっすぐな管の中であれば電波が届いて飛行できるのが下水道点検用ドローンだと考えると、他の用途でも使えませんか?
はい、下水道管内に限らず閉鎖的空間全般に使えると思います。
先ほどお話した代表3機種のうち、下水道点検に特化して作られているのはAirSliderだけで、他2機種は『下水道点検にも使える』という位置付けです。
つまり、そもそも下水道点検以外のプラント点検や小屋裏点検といった用途で活用することを想定して作られています。
下水道点検を主目的に作られているAirSliderについても、実際にたとえば関西電力の水力発電所の配管点検での活用が進められています。
<水力発電所の鉄管のイメージ画像>
山奥のダムみたいな斜面に太い鉄管が何本も並んでいるのをご覧になったことがあるかと思いますが、あの管の中を点検するには、これまでは人がロープでぶら下がって少しずつ降りていくしかありませんでした。
そんな危険な重労働をドローンが担うようになれば、画期的ですよね。
──かなりの傾斜がついた管ですが、そういった管の中でも問題なく飛行できるのでしょうか?
そのままだとバウンドするような飛行となってしまいうまく行かなかったので、機体後方にテールをつけて、そのテールを管の内壁に接触させながら飛ばすようにしたら成功したそうです。
滑り台を、両脇の立ち上がり部分に手を添えながら滑り降りていくようなイメージですね。
[参考]関西電力「ドローンを活用した水力発電所鉄管の点検に関する技術の概要」
AI導入はこれから
──なるほど!そういった風に少し工夫をすれば、かなり幅広い用途に応用できそうですね。
近年、各産業界でのドローン活用においては、ドローンとAIの組み合わせによるさらなる省力化が試みられています。そちらのほうについてはどういった状況でしょうか?
ドローンにAIを組み合わせているという例は、少なくとも下水道点検においては現時点ではまだないですね。
とはいっても、コンクリートのひび割れを見つけるとか異物が付着してるのを見つけるとかいったAIは、実証実験でも実用でも既にいくつかあります。
下水道点検にも利用できると思うので、今後そういったものを組み合わせていくという話になると思います。
──そういうことであれば、ドローンを使った下水道点検へのAI導入はさほど遠くない将来実現しそうですね。
そうですね。
安定した飛行と撮影成果が確実に実現できないとそもそも意味がないので、今はまだそちらが優先事項で、AI導入は後回しといったところでしょうか。
下水道点検を実施する際の法律問題
──ドローンを活用した下水道点検の全体像がなんとなくつかめてきたような感触がありますが、法律まわりが少し気になります。
ドローンを飛ばす際には航空法をはじめとした規制が絡んでくるかと思うのですが、下水道点検においてはどうなのでしょうか?
屋内のような閉鎖された空間での飛行であれば、航空法は関係してきません。
それなら下水道管内の飛行にも航空法は関係してこないかというと、実はグレーな部分があります。
下水道管内は閉鎖的空間ですが、厳密にいえばマンホール部分が開口していて完全に閉鎖されているとはいえないためです。
ただ、飛行許可申請を出せば9割以上許可がおりると思います。
実運用のところまではわかりませんが、点検業者さんはいろいろな方法で個別に解決されているようです。
開口部がネットなどで覆われていればドローンが外に飛び出すことはないのでOKという指標も出ているので、たとえばマンホール部分を金網とかで覆っておきケーブルだけ網の間を通せば、申請は不要ということになりますよね。
下水道点検用ドローンの購入・導入方法
──このインタビュー記事を読んで「よし、うちも下水道点検用のドローンを導入しよう!」と点検業者さんが考えた場合、具体的にどう動けばよいか教えてください。
単純に販売代理店で購入すれば済む汎用機とは異なり、まずはメーカーやサービス提供会社に直接コンタクトしてみるということになるでしょう。
ドローンを使った下水道点検は運用方法がまだ固まっていません。いうなれば試行錯誤している途中です。
メーカー側も『どうぞこれを自由に使ってください』と手放しで売れる状況ではないと思うんですよ。
──汎用機みたいにポンと買って飛ばしてみるというのとはだいぶ違いそうですね。
ようやく市場に持ってこられたというところに万一事故でもあれば評判が下がりますから、販売するにしても『まずはぜひ一回一緒にやらせてください』という流れになるだろうなとは思います。
下水道点検用のドローンを販売すれば、あとの運用は基本的に購入者側で行うというのがあるべき姿なのでしょうが、現状ではメーカーと点検業者との二人三脚で進めていくような感じです。
点検業者に実際に現場で使ってもらい、そこからのフィードバックを製品開発に反映していくといった風ですね。
「興味を持ったら尋ねてみる」ことが大事
──ところで、メーカーに直接コンタクトを取るというと、いきなり電話をかけるとか……?
もちろんそれでも構わないとは思いますが、ドローンを使う立場として私がよくやるのは、ネットニュースとかYouTubeとか展示会とかで入手した情報をもとにしたコンタクトですね。
『よくわからないけど面白そうな情報』って、ネット上や展示会場でよく手に入るんです。
そういうときに、展示会場だったらまず名刺交換して話を聞いてみる。ネットだったらとりあえずメールを送ってみる。そういうことをよくやります。
──ちょっぴり勇気が要りそうですね。
そうやって打ち合わせしてみてやっと理解できることや初めてわかる事実があるはずですから、勇気を出してみる価値はありますよ。
ウェブではいいこと書いているけど、実はまだ半分くらいしかできてないよといったこともあるでしょうしね。
売る側もコネがないところにいきなり話を持ってはいけないので、展示会への出展でのPRであったり、YouTubeやネットニュースを使った情報提供がやはり中心なのかなと。
そういった状況では、売る側の情報提供と同じくらいに、やりたい側も臆せずどんどん尋ねるっていうのが大事だと思います。
──ネットニュース辺りは想像つくのですが、展示会というと具体的にどういった展示会がありますか?
上下水道専門の展示会だったり、インフラ点検に関する展示会だったりですね。
これから予定されているものとしては、たとえば2022年8月に『下水道展』があります。
今だとコロナの影響でなかなか行けない状況ではあるかもしれませんが、興味がある方はそういうのに積極的に参加されてみてはと思いますよ。
[参考]下水道展公式サイト
下水道点検でのドローン活用の現状
──下水道点検用のドローンについてはまだ手探り段階という部分も多いことを理解できました。
「実証実験が進められている」とか「開発が進んでいる」とかいった表現をなさっていましたが、ドローンを使った下水道点検は実際どの程度普及しているのでしょうか?
ようやく事例が出始めてきて、徐々に世の中に知られるようになってきたかなという段階かと思います。
実証実験から実用化に移りつつあるといったところで、残念ながら普及しているといえるレベルではまだないですね。
──お話を伺う限り、ドローンを使えば大きなメリットがあるように思うので、もっともっと急速に広がってもよさそうなものですが……?
ドローン活用云々以前に、下水道点検って実はほとんど実施されていないという実態があるんです。
[出典]「下水道管路メンテナンス年報の概要」(国土交通省)
──えっ!?ほとんど実施されていないんですか?
全体では1割前後ですね、点検されている下水道管は。
ひと口に下水道といっても人が普通に歩いて入れるような管径の大きなものもあれば、ごく細い管もあります。
前者の場合、人が入りやすいのでかなり点検されていると聞いています。
でも、全体で見るとそうした太い管はごく一部で、大半が匍匐前進しなければ入れないような管か、そもそも人が入るのは無理なレベルの細い管。直径が1mあれば大きいほうみたいです。
人が入れるとしても大変ですし、中に機器を入れて点検するにしたところでお金も時間もかかるので、そういった細い管は言葉は悪いですが放置されている状態になっているんです。
急増する老朽管への対応が急務
──定期点検は義務化されていないのですか?
平成27年5月に下水道法が改正され、腐食の恐れが大きい箇所については5年に1回以上の頻度での点検、そして異状が判明したときの詳細調査や修繕が、下水道の維持修繕基準として定められました。
当時、下水管点検を計画的に実施している地方公共団体は全体のおよそ2割、下水道管の腐食などによる道路陥没が年間4千件ほども発生していたといいます。
何か事故が起こってから修繕するという対応が一般的だったということですね。
このままでは下水道機能の維持が危ういということで、そうした基準が創設されたわけですが、今日に至っても相変わらず点検がまったく追いついていない状況です。
老朽管はこれからどんどん増えていきますから、早急に対策しなくてはなりません。
なかなか普及しない原因その1「お金の問題」
──細い管の割合がとても高いから手が回らずにいたのなら、「ドローンを使えば細い管も点検できるようになる!」ともっとみんなが飛びついてもよさそうに思います。
現状、お金のある自治体は点検できてもお金のない自治体は点検できないという状況になっています。
『お金のない自治体』は、今まで点検してこなかった箇所もこれからは予算をつけて点検するようにしようとまではあまり考えないということではないでしょうか。
人が口にする水が流れる上水道のケアはきっちりされてると思うんですけれども、下水道って最終的な排水の処理さえしっかり行われれば、経過はさほど気にはならないんじゃないかなと。
言ってしまえば、あまりお金をかけたくない場所なんだろうと思います。
──ドローンを使えば低コストで点検できるのではないですか?
そうなんです。所要時間が短くなればコストも減りますよね。機材の開発費とかが別にかかってはくるものの、そこのコストさえ見合えば低価格化が進むはずです。
実際に、お金のある自治体では実用レベルで運用を始めていますし、従来法よりもずっと低コストで点検可能なんだよという点をアピールしていく必要はあると思います。
なかなか普及しない原因その2「知見不足の問題」
それから、ドローンによる下水道点検がまだ普及していない原因にはもう一つ、自治体側にも点検業者側にもドローンを使った下水道点検というものについての知見が不足しているということがあると考えられます。
自治体側についていえば、お金を使って点検しようという考えが生まれづらいところがあるということのほかに、そもそもドローンを使って点検できるという知識を持っていないことが多いと思います。
ドローン自体は知っていても、ドローンを下水道点検に活用できるんだということに気づかない。
先ほど挙げた3社が実証実験を重ねているような段階ですから、気づかなくてもしかたのない部分はあるのですが……。
点検業者側でも、これまで点検されていなかった場所もこれからは点検しようという発想がないという可能性があります。
さらに、たとえば産業でのドローン活用例をネットなどでちらっと見たとしても、自分たちの仕事でも活用できるというイメージが湧かず、実物をみてみようかというところに結びつかないというのもありそうです。
新規参入の可能性
──ここまでは主に、手がけている下水道点検業にドローンを導入してみようかなと考えている業者さんを想定してお話していただいていますが、下水道点検には一切関わったことのない事業者さんがまったくの新規で参入するというのは可能でしょうか?
下水道の管理者は公共団体であることが多く、入札によって受注が決まると思います。
入札資格自体は一定の条件を満たせば得られるはずですが、やはり過去の実績が重視されるでしょうし、管理者にドローン点検を知ってもらうための提案ができる関係性も必要構築済みの関係性が前提となる部分もあるでしょうから、正直ハードルは高いと思います。
もともと下水道点検を行ってきた事業者さんが、これまで人や他の機械でやっていたことをドローンによる作業に置き換えるという話とはだいぶ違ってきそうですよね。
ただ、参入のしかたは一つではありません。
たとえば、直接自治体とやり取りするのではなくて、自治体から下水道点検を請け負う企業の下請けとして入るというのは十分に可能だと思います。
下水道点検業者は下水道に関する知識や経験は持っていても、ドローンに関しては何もわからないということが普通でしょう。
しかも、将来的に完全自動化されればともかく、今のところ狭い下水道管内でドローンを飛ばすために必要な操縦技術はかなり高度な部類です。
自社でなんとかするのが難しければアウトソーシングしようという判断は当然あるでしょうから、そういったところへ『ドローンの運用部分はうちがやらせてもらいます』と手を結ぶわけです。
点検業者からのアプローチもあり
──逆の方向で、下水道点検業者の側からドローンを運用している企業に依頼するというのもありそうですね。
はい、おおいにあり得ると思います。
下水道点検を行っている事業者さんには、下水道だけでなく他にも各種工事をしているところも少なくありません。
そうした事業者さんであれば、下水道点検以外の業務でドローン業者と既に連携しているということも珍しくないはずです。
『下水道を飛ばせるドローンがあるらしいので情報を仕入れてきたんですよ。僕らはドローンを使えないので、代わりにこれを使ってやってもらえませんか?』と、馴染みの業者に協力依頼するなら特にスムーズでしょう。
ドローンを使った下水道点検で懸念される点
──既に下水道点検業務を手がけているかどうかでアプローチは変わってきそうですね。
導入・参入するとなると、メリットだけでなくデメリットも認識しておかなくてはなりません。ドローンを使った場合のデメリットやリスクがあれば教えてください。
管の中を飛ばしている最中にドローンが動かなくなるというリスクが考えられます。
下水道管内にポトッと落下してしまったり、引っかかって動きが取れなくなったりといったケースです。
──実際にそうした事故が起きたことはあるのでしょうか?
うーん、聞いたことないですね。
動かなくなるというトラブルはあったとしても、最終的には回収できているから問題となっていないということなのかもしれませんが。
回収できないとなると比較的大きな異物が管内に残ってしまうことになり、それはやはり問題かと思うので、各社その対策はした上で飛ばしていると思われます。
──対策というと、たとえばどんなものがありますか?
AirSliderを使っているNJSとEliosを使っているブルーイノベーションさんでは、ドローンにケーブルのようなものをつけて飛ばしているという話を聞いたことがあります。
万が一にも動かせなくなったとき、後ろからケーブルを巻き取って回収できるようにという安全対策ですね。
ドローンを使った下水道点検の将来性
──途中で動かなくなるかもというリスクはあるにしても、メリットのほうがはるかに大きいように感じます。
顧客である下水道点検業者さんのドローン活用事例に触れていらしたご経験から、ドローン活用の将来性や下水道点検の未来についてどのようにお考えですか?
下水道という重要なインフラが直面する課題に対する共通認識はあっても、それに対して何をすればいいのかという答えはなかなか出てこない状況だったと思います。
そんな中『ドローンを使えばできる』という具体策が示されたというのは、下水道点検におけるターニングポイントといえるのではないでしょうか。
個人的な意見とはなりますが、ドローンを使った点検手法のポテンシャルはかなり高いと思っています。
実用化への動きが普及のトリガーとなるはずと考えていますし、陥没事故が起きる前に手当てできる体制を当たり前のものにするためにぜひ進めていくべきだとも思います。
下水道点検でのドローン導入を検討中の人へのアドバイス
──これから自社の下水道点検ビジネスにドローンを導入しようと考えている人へのアドバイスをいただけますか?
下水道に関する知識はあっても、ドローンに関する知識はないという事業者さんがほとんどかと思います。
あまりにも期待しすぎてがっかりするのを避けるためにも、まずは正しく現状を知るべきです。
大事なのは、ドローンでどこまでできるのかというところをきちんと調べること、メーカーからヒアリングすること。
その上でドローンを使った下水道点検手法にポテンシャルを感じていただけるのであれば、実際に現場を見てみる、自分で使ってみるといった次のステップに進んでください。
一般的なドローン活用例に比べ、下水道点検へのドローン導入は難易度が高いといえますが、その分効率化もかなり期待できるでしょう。
下水道点検におけるドローン活用の最大のポイントはなんといっても、機械に置き換えることで作業員の安心安全を確保できるという点です。
そこに大きなメリットを見出だせるのであれば、ぜひ導入してもらいたいなと思います。
──たくさんお話を伺え、ドローンが今後の下水道点検を変えていく可能性を秘めているということが大変よくわかりました。今日は本当にありがとうございました!
まとめ
【ドローンを使った下水道点検のメリット】
・有毒ガスなどによる人身事故の危険性がゼロに近くなる
・作業時間が大幅に短縮される
【ドローンを使った下水道点検のリスク】
・下水道管内でドローンが動かなくなってしまう可能性がある
→万一の場合の回収用ケーブルをつけて飛行させるなどの対策を各社講じている模様
【下水道点検用ドローンに求められる機能】
・GPSが使えず乱気流が発生しやすい狭い管内でも安定して飛行できる性能
→一般に販売されている汎用機では対応不可
【下水道点検に対応するドローン3機種】
・ACSL社製のAirSlider
・Liberaware社製のIBIS
・Flyability社のElios 2
【他分野での活用例】
・プラント点検(ダクト、煙突、ボイラーなどの内部)
・小屋裏などの狭小空間での点検作業
・水力発電所の鉄管内部の点検
【下水道点検用ドローンの購入・導入手順】
まずはメーカーかサービス提供会社にコンタクトを取る(広く販売代理店で扱われているわけではないため)
→展示会で話を聞いてみる、ネットニュースやYouTubeなどで得た情報をもとにメールを送ってみる等
【下水道点検の現状】
次の2つの原因により、人が中に入って点検するのが難しい細めの下水道管の多くが点検されていない
・原因1・自治体の財源の問題
・原因2・自治体と点検業者の双方の知見不足
→ドローンを使えば圧倒的な時短とコスト低減が実現することをアピールする必要性あり
【新規参入の可能性】
下水道点検業者としての新規参入は困難と考えられるが、下水道点検業者に対しドローン運用部分をサービスとして提供する形での参入はおおいに考えられる。
【ドローンを使った下水道点検の将来性】
ドローンを使えば従来よりもずっと手軽に点検が可能となるため、これまで点検されないままに放置されていた老朽管にまで点検を行き届かせるための画期的解決策となり得る。