[画像提供]福島ロボットテストフィールド
福島ロボットテストフィールドは、福島県沿岸部に位置する日本随一のロボット開発実証拠点です。
東西約1,000m×南北約500m、50haにもおよぶ広大な敷地内には21種類もの施設が並び、
- ドローンメーカーによる製品性能評価試験
- 水中ドローンメーカーによる水槽側面をダム壁面に見立てた検証試験
- インフラ点検サービス提供企業によるプラント点検訓練
- 各業界団体などによるロボティクス化に関連したシンポジウム
等々、ドローンやロボットの開発・運用に関係するありとあらゆるニーズに応えています。
このような同施設が、実はさまざまな利用者に広く開放されている公的施設であることをご存知でしょうか?
「敷居が高そう」「うちは対象外でしょ」と思われている方も、この取材記事をお読みになれば同施設に抱くイメージが大きく変わるはずです。
今回取材させていただいたのは、同施設の副所長である若井様。
福島ロボットテストフィールドの開所の経緯や運営理念、実証環境、他所にはない特徴、今後の展望などについてお話を伺いました。
目次
福島ロボットテストフィールドの基本情報
施設名称 |
福島ロボットテストフィールド |
所在地 |
福島県南相馬市原町区萱浜字新赤沼83番 南相馬市復興工業団地内 |
設立時期 |
2020年3月全面開所 |
公式サイト |
https://www.fipo.or.jp/robot/ |
——本日はよろしくお願いいたします。まず最初に、福島ロボットテストフィールド(以下RTF)開所の経緯についてお聞かせいただけますか。
そもそものきっかけは2011年に起きた東日本大震災です。ここ福島県の浜通り(県東部の太平洋沿岸地域)は特に大きなダメージを受けました。
そこで赤羽経済産業副大臣(当時)の号令のもと、福島の産業を、ひいては福島を復興させる一大プロジェクトとして「福島イノベーション・コースト構想」が立ち上げられたのが2014年のことです。3年後の2017年には福島復興再生特別措置法改正法が成立し、同構想は正式に国家プロジェクトとなりました。
同構想の中で重点分野に位置付けられた6つのうちの一つが「ロボット・ドローン」で、RTFは同構想のいわば目玉として開所されたのです。
[画像出典]福島イノベーション・コースト構想とは(経済産業省)
——ドローン活用自体が広く普及しているとはまだ言えない中、真に必要とされる施設とするためのニーズ把握はどのようにして行ったのでしょうか。
ドローンメーカー、JUIDAやJUAVACといった管理団体、建設現場でドローンを活用するゼネコン、水中ドローンに可能性を見出す海洋関係者などが集う有識者会議でコンセプトが議論されました。
滑走路やネット付飛行場が必要だとか、亀裂の入ったトンネルや橋梁が欲しいとか、計測装置も要るとか、それぞれどのくらいの規模にするかとか……そういった議論です。
さらに、間違いなく現場のニーズに即した実用的な施設とするために、有識者会議のメンバーを窓口として、つながりのある企業や団体、傘下のスクールなどの現場の声をアンケートや問い合わせで吸い上げました。
[画像提供]福島ロボットテストフィールド
——「ドローンに関わる人たちが望むような施設・設備が全部揃っている!」というのがRTFの全体マップを見たときの感想だったのですが、それも納得です。
ありがとうございます。実際、RTFはこうした施設として日本随一であるだけでなく、世界でもこの規模、この充実度の施設というのはまず見当たらないかと思います。
ドローンなどの飛行系を中心に多種多様な利用用途
[画像提供]福島ロボットテストフィールド
——RTF全体の利用件数は平均してどのくらいありますか。また、どのように利用されているのでしょうか。
さまざまな施設を複合的に利用しているので、全体の件数で言うと年間で7,000件くらいで、会議室も含めて常にどこかが動いてる感じですね。
コンクリートのひび割れや剥離、ボルトの緩みなどを再現した「試験用橋梁」や「試験用トンネル」は、インフラ点検関連事業者さんに大変よく利用されています。
[画像提供]福島ロボットテストフィールド
RTFはドローンメーカーさんによるご利用が多いですが、たとえば、3m×3mサイズの吹き出し口を持つ風洞試験装置(任意の風速で風を流す装置)の設置された「風洞棟」では、ドローンの耐風性試験が行われたりします。
ぐるりとネットで覆われている「緩衝ネット付飛行場」は、風雨や日照のある環境ではあっても屋内扱いですので、航空法の規制を受けず、使い勝手が良いと好評です。
航空局への事前申請が必要な夜間飛行や物件投下を伴う実証飛行などであってもここでなら申請不要で行えますし、開発段階のドローンの飛行試験を外部環境で行うにももってこいです。
また、ネットがあればドローンがどこかへ飛んでいってしまうこともありませんから、自律制御プログラムを検証するのに利用されたりもしますね。
その他、「試験用プラント」だったり「屋内水槽試験棟」だったり、使うのもドローンだったり地上で活躍するクローラーロボットだったりといろいろですが、研修的な集まりの会場として利用されることもよくあります。
——たくさんの施設がある中で、どういった施設の稼働率が特に高いですか?
特に稼働率が高いものとしては屋外のフィールド、つまり滑走路やヘリポート、緩衝ネット付飛行場が挙げられます。
昨年度は、滑走路は6割程度の稼働率、緩衝ネット付飛行場は3割以上の稼働率でした。
RTF全体として、ドローンを含む飛行系メインで使われるユーザーさんがやはり多いので。
ある程度自由に飛ばせる屋外の広い場所というのは、少なくとも日本では貴重だということでしょう。
ただ、屋外フィールドは天候や風に左右されるため予備日も含めて予約されることが多く、結果として空き日が少なくなってしまうという側面もあるかと思います。
他には、水害で冠水した市街地を再現した「水没市街地フィールド」も、ヘリコプターやボートを使った救助訓練などが行われることもあってか稼働率が高めです。
ドローンやロボットに限らず「社会に役立つこと」のためなら利用可能
——救助訓練ですか?ドローンやロボットに関係する目的以外でも利用可能ということでしょうか。
はい、名称こそ「ロボットテストフィールド」ですが、RTFでは利用目的に何ら制限は設けておらず、ロボットでないとダメといったことはありません。
利用全体の約6割がドローン関連目的での利用、その他ロボット関連目的での利用がそれに次いでいますし、RTFの軸足はやはりドローンやロボットですが、社会の役に立つことでありさえすればどんどん活用していただきたいです。
防災関係の訓練の例で言えば他にも、ローバーを瓦礫の中で運転して怪我人を運べるかの実証的トレーニングが「瓦礫・土砂崩落フィールド」で行われたりしています。
また、暴風雨を再現できる「耐風・降雨試験室」はロボットやドローンの耐風性能や防水性能の試験に使われることが多いですが、変わったところでは新しく開発したテントの性能評価を行うというのもありますね。
——実にさまざまな目的で利用されているんですね!とはいえ利用するとなると料金も気になるところですが、利用料金表を見たところ、このレベルの施設を使わせてもらう対価としては意外と手頃と感じられます。
収益事業ではなく、国や県から支給される運営費で産業振興のために運営されている施設ですから。
民間では実現不可能なコスパといえますので、そういった意味でもぜひいろいろなことに活用してもらえたらと思っています。
——ところで、公式サイトの設備一覧を見ると、そうした施設以外にも計測器や加工装置などたくさんの種類の機器類が貸し出されていますが……?
はい。実証フィールドというと完成品の実証のイメージを持たれると思いますが、RTFは部品製造なども含め浜通りの産業の振興を下支えしていこうという施設です。
ですから、地元の部品メーカーや加工業者などが先進テクノロジーや新技術に挑戦する際に必要となる各種機器類も取り揃えているんです。
こういう部品を作りたいというときの3Dプリンターや、作ってみた部品の内部品質をチェックするためのCTスキャナー、高度な立体加工ができる5軸加工機といったように。
また、福島県としてサポートする体制が整っていますので、ここにない機器については郡山にあるハイテクプラザ(公設試験研究機関)や、RTF内に入っている福島県ハイテクプラザ南相馬技術支援センターで借りられます。
法律、レギュレーション、ガイドライン、安全対策についても相談可能で安心
——RTF利用者は、施設や設備といったハードの提供とは別に、何かソフト面でのサポートを受けられたりするのでしょうか。
こういう試験をやりたい、あの認証を取りたいといったような場合にご相談くだされば、RTFの技術部が「こういうことが可能ですよ」とか「こんな安全対策が必要ですよ」などのアドバイスをさせていただいています。
先端的な装置や機材については、先ほどお話しした福島県ハイテクプラザ南相馬技術支援センターが研究棟内に併設されていますので、そこのスタッフから技術支援を受けられます。
——ほとんどの利用者の方々は法律やレギュレーション、ガイドラインに通じているというわけではないと思いますから、そうしたサポートを受けられるのはとても心強いかと思います。
ドローンを飛ばせる場所というだけなら他にも続々と登場してきています。よくあるのが廃校になった学校のグラウンドを転用する例などですね。
ただ、こうした支援体制まで整っているのはうちならではで、RTFの大きな魅力と言ってよいかと思います。
特に安全対策は、我々自身が国交省航空局から請け負って、ドローンや空飛ぶ車の運用ルールを作っている最中ですから、まさに運用のエキスパートとして的確にアドバイスできます。これは他所ではまずないでしょう。
——金銭面でのサポートを受けることも可能でしょうか。
RTFでは金銭面でのサポートは行っていませんが、南相馬市イノベ重点分野実証実験支援助成金ですとか、実用化補助金(地域復興実用化開業等促進事業補助金)、福島県ロボット関連技術実証等支援補助金など行政の支援制度を利用可能です。
RTFのレンタルラボに入っていただく場合、南相馬に研究開発拠点が置かれることになりますので、申請条件を満たします。
我々としてはそうした各種支援制度を積極的に活用していただきたいと考えており、それについてのご説明も行っています。
——RTFをたくさんの人に活用してほしいというお気持ちが伝わってきます。
RTFの所長と、2名体制の副所長のうちの1名は非常勤で普段は東京におりますので、ここに常勤している副所長である私は、施設の管理運営業務を統括する立場です。
また、ドローンや航空機の開発・設計を長くやってきた元技術者であることを活かし、視察団などの来客に対する説明も行います。
しかし、ロボット産業協議会などの各団体や教育機関との関係構築に努めることや、RTFをもっとよく知ってもらうための対外的なプロモーションも私の大きな仕事の一つだと思っています。
RTFの間口を広げ、どんどん活用してもらえるようにしたいのです。
UTMの存在が強み!時代のニーズに応えられる実証フィールドであり続けたい
——今後はどういったことに力を入れていきたいとお考えですか。
一つには、技術開発の段階を過ぎ、社会実装段階へと移行しつつあるドローンの実証試験を行える場として、利用者様に安心して使っていただける環境をRTFの敷地の外にどんどん拡大していきたいと考えています。
これからのドローン運用は、長距離飛行が前提となるでしょう。そうした実運用に限りなく近い環境での実証が可能な施設でありたい、実証フィールドとしてトップを走り続けたい、そのためには敷地の中だけでは足りないということです。
長距離飛行実証のニーズは今後どんどん増えていくでしょうが、それに欠かせないのが通信です。
空の道は電波の道です。そしてRTFには通信塔やレーダーがあり、UTM(ドローン運行管理システム)があります。
ここ南相馬市の滑走路と浪江町にある滑走路との間の約13Kmを広域飛行区域としていますが、“電波の道”が整っていることで、同区域では安全且つきちんとデータを取りながら長距離飛行実証を行えます。
今後は、社会実装を見据えた高度なニーズに応えられるよう、こうしたインフラの整備レベルを上げていきたいと思っています。
そしてもう一つ、水中ドローン関連の利用率を高めていけたらとも思っています。
[画像提供]福島ロボットテストフィールド
空中の方はだいぶドローンが活躍するようになってきていますが、水中はまだまだです。しかし、たとえば橋桁のメンテナンスなどで水中インフラ点検のニーズは今後急速に高まるだろうと予想しています。
水中ドローンの実証試験のためのインフラはありますが、残念ながら今のところ稼働率はあまり高くありません。もっとプロモーションして、技術サポート力ももっと伸ばして、ドシドシ使っていただけるようにしたいです。
——最後となりますが、ユーザーの皆様に向けたメッセージをお願いします。
実証試験を行う利用者様たちを日々目にしている私が思うのは、日本のエンジニアリングパワーは今なお健在だということです。
諸外国に遅れをとっているとか言われていますが、大型ドローンや水素燃料で飛ぶドローンなどといったこれからの分野では特に、日本の強みを活かせるはずです。
ただ、本当にいいアイデア、本当に優れた技術力を持っていても、ビジネスとして対価を得るという最後の出口のところのハードルが高く、どなたも苦労されるようです。
RTFはその部分に対してもお力添えしたいと強く願っています。
ですから、技術開発だけではなく、たとえばドローンスクールさんなら講習のシラバス作りをここで行うですとか、「ビジネス化を目的としてRTFを活用する」という視点も持っていただけたらと。
また、ラボについてはハードの開発のためのラボという発想だけでなく、ともに可能性を広げていけるような仲間を作れる場、ビジネスにつながるコミュニケーションが生まれる場であるというところもぜひ知っていただきたいです。
我々としてももっともっと情報発信していくつもりですので、目指すところに到達するために活用できるかも?という目でRTFを見てくださったら嬉しいです。
——本日は大変ありがとうございました。
最後に
お話を伺った若井様は航空ひと筋、バリバリの技術畑ご出身であるだけに、これからのドローンに対する想いもひとしおのご様子でした。
法整備だけでなく、飛行させる機体側の航続距離という技術面も追いつきつつあり、いよいよその実現が射程圏内に入ってきたといえるドローンの社会実装。それを支える実証フィールドでありたいという若井様の副所長としての強い願いが感じられる取材となりました。
上記本文中では触れていませんが、こうした実証フィールドは僻地にあるものというイメージとは異なり、RTFがあるのは想像するよりもずっとアクセスしやすいロケーションだそうです。
市街地からは車で数分の距離で、この手の大規模実証フィールドとしてはかなり利便性の高い場所にあるといえるでしょう。
当初イメージしていたよりもはるかに多様な用途で活用可能なRTFという施設が、より多くの人に利用され、より多くの成果を生み、ひいては同施設開所の目的である福島の復興が1日も早く実現することを願ってやみません。
福島ロボットテストフィールドについてもっと詳しくお知りになりたい方、問合せ先情報をご覧になりたい方は、こちらをご参照ください。 |
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