農業ドローンを導入するにあたり、「今まで使用していた農薬を使えるのか知りたい」「どの程度の量を撒けばいいかわからない」といった疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回、ドローンも扱う農具メーカーに勤められており、実際に農業ドローンが活用されている現場事情に詳しい高橋さん(仮名)をお迎えし、お話いただいた内容を基に記事を作成しました。
(※プライバシー保護の観点から、インタビュー者の顔を隠して表示しております。)
ドローンを使って農薬散布作業を実施する場合は、それに適応している薬剤を使用することが義務付けられています。
また、インタビューの結果、正しい量を正しい散布方法で利用することがとても重要であることがわかりました。
この記事では、
- 農業用ドローンで散布可能な農薬の種類
- ドローンで散布できる農薬かどうかの確認方法
- ドローンで使用する農薬の散布量や希釈について
- 農薬散布ドローンで農薬を使う際の注意点
などについてお伝えし、ドローンで使用する農薬に関する正しい知識を基に、安全な農薬散布をするための方法について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、農業用ドローンで使用できる農薬に関する正しい知識が得られ、自身の圃場においても安全に農薬散布ドローンを活用することができるでしょう。
※ドローンによる農薬散布のメリットデメリットや導入までの流れの全体像は、こちらの記事にまとめています。
ドローンの農薬散布とは?メリットデメリットや始め方・導入の注意点
※農業用ドローンの選び方や導入費用はこちらの記事にまとめています
ドローンで使える農薬の種類は1000以上
ドローンで使用できる農薬には、使用方法・濃度がドローン散布に適していることが求められます。
2022年6月現在登録されているドローンに適した農薬の数は1071種類。
稲作用の農薬は登録の種類が多い
ドローンで使える農薬の種類が現状一番多いのは稲用の薬剤です。
これは、ドローン農薬散布に米が向いているというわけではなく、米農家が圧倒的に多い日本の農業市場においてまず優先的に開発されたのが稲用の薬剤だったためです。
露地野菜や果樹用の農薬はまだ少ない
露地野菜(ハウスなどは使わず露天の畑などで栽培された野菜のこと)や果樹用の農薬の登録はまだ少ないのが現状※ですが、農林水産省はこれらの作物の農薬について現場のニーズを都道府県から収集し、農薬メーカーに通知することにより、登録申請に向けた検討を促しています。
※上記の表では野菜類の農薬登録数が233となっていますが、野菜の各種類ごとの登録数を考えるとまだまだ少ないと言えます。
ドローンで散布できる農薬かどうかの確認方法は3つ
ドローンで散布できる農薬かどうか確認する方法は、以下の3つです。
- ラベルから確認する
- 産業用無人航空機農薬から確認する
- 農薬登録情報提供システムから確認する
どの方法で調べるかについては、手元に農薬がある場合はラベルから確認するのが一番早いでしょう。
手元にない場合は、産業用無人航空機農薬から確認するのがおすすめです。
理由は以下の2点。
- はじめから用途が無人航空機に絞られている
- 検索結果から使用方法などラベルに記載されている情報が確認できる
①ラベルから確認する
まず一つ目の方法は農薬のラベルから確認する方法です。
ラベルに表示されている「使用方法」が、
- 『無人航空機による散布』
- 『無人ヘリコプターによる散布』
- 『無人航空機による滴下』
- 『無人ヘリコプターによる滴下』
とされているものがドローンに適した農薬です。
②産業用無人航空機農薬から確認する
2つ目は産業用無人航空機農薬から確認するという方法です。
このサイトでは、ドローンなどの無人航空機に向けた最新の農薬登録情報を確認したり、農薬の一覧表示や農薬の検索などを行うことができます。
③農薬登録情報提供システムから確認する
3つ目の方法は、農薬登録情報提供システムから確認するという方法です。
使用方法は以下の通り。
- 「様々な項目から探す」をクリック
- 「使用方法」に「無人」と入力
- 「作物を選択」をクリックし、散布したい作物名を選択し、「確定する」をクリック
- 「作物を選択」に作物名が入力されていることを確認し、「検索する」をクリック
リリース情報を知りたい場合は農薬メーカーの情報をチェックする
ドローンで散布できる農薬の確認方法は上記の3つですが、新しい農薬のリリース情報をいち早く知りたい場合は、農薬メーカーのHP上のプレスリリースやSNSなどをチェックするのがおすすめです。
というのも、前出の検索システムに新しくリリースされた農薬の情報がすぐに登録されるとは限らないからです。
もうすぐリリースされるという情報がわかっている農薬があるのであれば、メーカー情報をチェックするのが一番早いでしょう。
農薬散布ドローンで農薬を使う際の注意点
農薬散布ドローンで農薬を使用する場合の注意点は以下の4点です。
農薬のラベルをチェックする
農薬を使用する際は容器のラベルを必ず確認しましょう。
確認するポイントは以下の4点。
- 毒物の表示…医薬用外毒物は赤地に白文字、医薬用外劇物の場合は白地に赤文字
- 危険物の表示…消防法による表示
- 登録番号…農林水産省に登録されている薬剤は必ず登録番号が表示されている
- 有効期限…有効期限を過ぎたものは使用しない
希釈倍率を守る
農薬のラベルに表示されている使用方法をすべて守らなければならないという点は、通常の農薬と同じです。
ドローンに適した農薬と通常の農薬との一番の違いは希釈倍率。
量を積むことができないドローンや無人ヘリで地上散布に近い効果を発揮するため、無人航空機用の農薬は高濃度に設定されています。
計算例は以下の通り。
【計算例】
希釈倍率が8倍の場合は、例えば薬剤1Lに対して7Lの水で薄めて使用します。
基本はこの8倍希釈に合わせてドローンの開発が行われています。
速度による吐出量の自動設定機能を使って散布する
ドローンで農薬を散布する際は、速度による吐出量の自動設定機能を使って散布することが望ましいと言えます。
なぜなら、完全にマニュアル設定で散布を行う場合、調節や操縦を誤ると、規定以上の薬剤を撒いてしまい残留農薬基準を超えてしまったり、逆に少量しか散布できず農薬の効果が得られなかったりするリスクがあるからです。
撒きムラを防ぐためにも、この速度による吐出量の自動設定機能を使用して散布するようにしましょう。
散布飛行の基本
散布飛行の安全と、農薬の適正使⽤、散布作業の効果を確保するため、農薬を散布する方法(飛行速度、飛行高度、飛行間隔等)は、機体や機種ごとに確認し、メーカーの取扱説明書等に従って行います。
記載がない場合は、以下を目安に散布を行いましょう。
- 飛行高度:作物上2~3m
- 飛行速度:10~20㎞/h(15㎞/h が基本)
- 散 布 幅:3~4m
- 飛行時の⾵速:地上1.5mにおいて3m/s以下
ドローンは無人ヘリと比べてダウンウォッシュ(下降気流)が弱く風の影響を受けやすいため、ドリフト問題(※)低減のためにメーカーでは散布幅4~5mまでを推奨しています。
※ドリフト問題…ドローンは水の使用量が少ない反面、細かい霧のような水で散布するためその水がどんどん乾いてしまい、蒸発により液滴が小さくなることで、風に飛ばされやすくなり非対象物に農薬が付着してしまう。
ドローンで使える農薬種類に関するQ&A
Q.手持ちの農薬をドローン散布に使用できる?
A.散布機器が指定されていない農薬であれば理論上は使用できますが、現実的ではありません。
散布機器が指定されていない『散布』、『全面土壌散布』とされている農薬でも、使用方法や希釈倍率・使用量を守れば使用できることになっています。
ということは、手持ちの農薬をドローンで散布することも理論上は可能ということになりますが、現実的にはほぼ不可能です。
「使用方法・希釈倍率・使用量」を守るということがどのようなことかというと、例えば下図のような農薬があったとします。
使用方法が「散布」となっているので、この表示通り1000~2000倍の希釈・100~300L/10aの使用量で時期や回数も守って使用すればドローンでも散布可能です。
しかし、仮に10haの圃場で100Lの農薬を散布するとして、田んぼ1枚程度の広さに散布するために6回以上飛ばさなければならない計算になり、現実的には不可能に近いということがわかります。
Q.ドローンに適した農薬はコスト的に高いの?
A.ドローンに適した農薬のコストは従来の農薬とほとんど変わりません。
ドローンに適した農薬は、コスト的には従来の農薬と変わらないものがほとんどです。
一部ドローン用に開発された薬剤に関しては値段が高いケースもありますが、それほど大きな差ではありません。
Q.ドローン農薬散布による周辺作物への影響は?
A.ドローンによる農薬散布は残留農薬基準を超えやすいという側面もあるので、適正に使用することが重要です。
ドローンによる農薬散布では、手撒きよりもドリフトのリスクが高くなるため、散布地周辺で栽培される他の農作物について飛散による影響がないように注意して適正に使用しなければなりません。
万が一散布農薬が周辺の農作物に飛散して残留基準値を超えてしまうと、生産物の出荷停止・回収等の措置が求められるので注意が必要です。
Q.ドローンに適した農薬の混用事例が知りたい
A.農林水産航空協会の「無人ヘリコプター防除用農薬の混用事例集」から確認できます。
ドローンに適した農薬の混用事例については、農林水産航空協会の「無人ヘリコプター防除用農薬の混用事例集」から確認できます。
また、日本農薬株式会社が開発した「農薬調製支援アプリ」というスマートフォン用アプリ(iOS、Android対応)でも混用事例を検索することができます。
まとめ
ドローンで散布できる農薬の種類について、現状登録されている農薬の種類や確認方法、農薬散布ドローンで農薬を使う場合の注意点など幅広く理解していただけたかと思います。
では最後にもう一度要点を確認しておきましょう。
- ドローンで使える農薬の種類は2022年6月現在1071種類。
- 露地野菜や果樹類はまだ登録数が少ないが、農林水産省は登録申請に向けた検討を促している。
ドローンで散布できる農薬かどうか確認する方法は、以下の3つ。
①ラベルから確認する
ラベルに表示されている「使用方法」が以下の4つであればドローンに適した農薬
- 『無人航空機による散布』
- 『無人ヘリコプターによる散布』
- 『無人航空機による滴下』
- 『無人ヘリコプターによる滴下』
②産業用無人航空機農薬から確認する
③農薬登録情報提供システムから確認する
- 手元に農薬がある場合はラベルから、手元にない場合は産業用無人航空機農薬から確認するのがおすすめ。
- 新しい農薬のリリース情報をいち早く知りたい場合は、農薬メーカーのHP上のプレスリリースやSNSなどをチェックするのがおすすめ
農薬散布ドローンで農薬を使う際の注意点は以下の4つ。
①農薬のラベルをチェックする
確認するポイントは以下の4点。
- 毒物の表示…医薬用外毒物は赤地に白文字、医薬用外劇物の場合は白地に赤文字
- 危険物の表示…消防法による表示
- 登録番号…農林水産省に登録されている薬剤は必ず登録番号が表示されている
- 有効期限…有効期限を過ぎたものは使用しない
②希釈倍率を守る…農薬のラベルに表示されている希釈倍率を守らなければならない。
③速度による吐出量の自動設定機能を使って散布する…散布ムラや残留農薬基準を超えてしまうなどのリスクを避けるため、速度による吐出量の自動設定機能を使って散布するのがおすすめ
④散布飛行の基本…農薬を散布する方法(飛行速度、飛行高度、飛行間隔等)は機体や機種ごとに確認し、メーカーの取扱説明書等に従って行う。
・ドローンによる農薬散布は残留農薬基準を超えやすいという側面もあるので、適正に使用することが重要
ドローンで農薬散布する場合、地上散布に近い効果を発揮するため、高濃度に設定された無人航空機用の農薬を使う必要があります。
農薬のラベルに表示されている使用方法をすべて守らなければならないという点は通常の農薬と同じですが、ドローンによる農薬散布では手撒きよりもドリフトのリスクが高くなるため、散布地周辺で栽培される他の農作物について飛散による影響がないように注意して適正に使用しなければなりません。
本記事で得られた知識を元に、あなたの圃場においても農薬散布ドローンが有効に活用されることを願っています。