農薬散布ドローンを追肥に活用しようと考えても、「具体的にどのような薬剤が使用できるのか」「本当に効果的に活用できるのか」などさまざまな疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
ドローンの追肥利用には、基本的に農薬散布用に使用するドローンと同じ機体が用いられ、粒剤用のタンクに付け替えることで肥料散布が可能。
さらに、
- 空中散布専用肥料
- 圃場センシングを活用したスポット肥料散布
などを取り入れることで、これまでの追肥よりも一歩進んだ施肥が可能になります。
そこでこの記事では、
- ドローンによる追肥の実例
- ドローンによる追肥に使用できる薬剤
- ドローンで追肥を行うメリット
- 圃場センシングを活用した可変施肥技術
などについてお伝えし、ドローンの追肥利用によって農薬散布ドローンを無駄なく活用する方法について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、ドローンによる追肥の効果的な取り入れ方がわかり、農薬散布ドローンをより有効に活用することができるでしょう。
※ドローンによる農薬散布のメリットデメリットや導入までの流れの全体像は、こちらの記事にまとめています。
ドローンの農薬散布とは?メリットデメリットや始め方・導入の注意点
※農業用ドローンの選び方や導入費用はこちらの記事にまとめています
目次
追肥においてもドローンを用いた省力化が期待されている
ドローンを用いた農作業の省力化は、農薬散布だけでなく肥料散布においても期待されています。
この2つの作業は農薬を散布するか肥料を散布するかの違いなので、どちらも重労働であることには変わりありません。
近年、圃場整備により水田が大区画化し、背負い式動力散布機による追肥作業の労働負担と作業時間の増大は大きな問題になっています。
さらに昨今の異常高温により品質が低下した作物に対し、追肥により品質低下を抑えたくても、大きな圃場への追肥は容易ではありません。
肥料散布に使用されるドローンは、基本的に農薬散布用に使用するドローンと同じ機体が用いられ、粒剤用のタンクに付け替えることで肥料散布が可能。
農業分野でのドローン活用は農薬散布の事例が目立ちますが、農薬散布の進化=肥料散布の進化と考えられるため、追肥においても発展が期待されています。
ドローンによる追肥はどのように行われるか
まずは、ドローンによる追肥がどのように行われているのか、実際の使用例を見ていきましょう。
空中散布用肥料を用いて効果的に肥料散布が行われています。
下記は北海道の圃場で葉面散布(肥料成分を水溶液にして葉面に噴霧する追肥の一種)にドローンを活用した取り組みとその効果です。
(引用:農林水産省生産局技術普及課「農業用ドローンの普及拡大に向けて」より)
肥料散布だけでなく防除作業にも活用することで、より作業の省力化、時間短縮に繋げています。
ドローンによる追肥に使用できる薬剤
農薬散布ドローンは、産業用ヘリコプターと同じ薬剤・肥料を使用します。薬剤のラベルなどを確認し、ヘリコプターもしくはドローン(マルチローター)対応薬剤か確認し、希釈率や散布量などを確認してから使用することが必要となります。
対応薬剤は以下URLから調べることができます。
http://mujin-heri.jp/index3.html
ドローンによる追肥は空中散布専用肥料を使用するのが効果的
ドローンによる追肥には、空中散布専用肥料を使用するのが効果的です。
なぜなら、空中散布用肥料はドローンやヘリによる空中散布を目的として開発されているので、肥料としての効果はもちろん、作業時の視認性やドローンの機体への影響においても考慮されており、安全に使用することができるからです。
水稲に用いられる追肥を例にとってみると、ヘリコプター散布に適用する場合では、
- 肥料に含まれる窒素成分が少ないことから肥料タンクへの補給回数が多くなり、作業者の負担が増える
- 窒素成分を増やすと肥料そのものの安定性が低下してアンモニアを発生させ、それによって機械が腐食する恐れがある
- 窒素成分を多く含む肥料は半透明~白色のものが多く空中散布時の視認性が低い
(※窒素は植物全体を大きく成長させる栄養素)
という課題がありましたが、近年では窒素成分が多く、さらに安定性及び視認性の高い空中散布用肥料が開発されています。
ドローンで追肥を行うメリット
ドローンで追肥を行うメリットは、以下の4つ。
- 傾斜地でも問題なく散布できる
- 圃場の状態に関係なく散布できる
- 作物を傷めることなく散布できる
- ピンポイントで散布することができる
傾斜地でも問題なく散布できる
ヘリでの散布が難しい傾斜地でも、ドローンなら難なく散布可能。さらに小回りがきくので、複雑な地形にある圃場にも対応することができます。
圃場の状態に関係なく散布できる
圃場がぬかるんで入ることができない場合でも、ドローンなら問題なく肥料を散布することが可能。
作物を傷めることなく散布できる
ドローンなら圃場に入ることなく薬剤散布できるので、散布作業によって作物を傷める心配がありません。
特に、圃場内に踏み入って追肥を行うと葉傷みや病気の蔓延を助長してしまう恐れのある野菜の追肥に有効活用できます。
ピンポイントで散布することができる
ドローンは、薬剤をピンポイントで散布することが可能。手作業と同じように必要な箇所だけに、効率的に撒くことができるので、生産者の負担を減らすことができます。
ドローン追肥における今後の課題
ドローンによる肥料散布の課題は、以下の2つが挙げられます。
- 粒剤散布装置を別途用意しなければならず、ユーザーによる取付作業が必要
- ドローン散布に対応した肥料の種類が少ない
粒剤散布装置を別途用意しなければならず、ユーザーによる取付作業が必要
ドローンで散布可能な肥料には粒剤が多く、通常の散布装置の他に粒剤散布装置が別途必要となります。
取付手順はメーカーによって異なりますが、DJIの農薬散布ドローンの場合は以下の手順が必要になります。
まず散布装置を取り外してから粒剤散布装置を取り付けますが、六角棒レンチ2mmと2.5mmを使用するなど、単純とは言えない作業かもしれません。
液剤散布と粒剤散布の両方にドローンを使用する場合は、薬剤を変えるごとにこの作業が追加されることになります。
ドローン散布に対応した肥料の種類が少ない
ドローンによる追肥には、空中散布専用肥料を使用するのが効果的であることは説明しましたが、特に米以外の作物においてはまだ種類が少ないのが現状。
これからさまざまな種類の肥料の開発が進めば、それに合わせてドローンの追肥利用も拡大されることが予想されます。
圃場センシングを活用した可変施肥技術でさらに効果的に追肥できる
ドローンの追肥においては、圃場センシングを活用したスポット肥料散布や可変施肥技術が注目を集めています。
これは、圃場をマルチスペクトルカメラを搭載したドローンで撮影して作物の生育状況を分析し、成長を促したい場所にだけ肥料を追加するというもの。
圃場センシングを活用したドローン追肥の手順
圃場センシングを活用したスポット追肥の手順は以下の通り。
1.ドローンを用いて圃場を撮影する
2.撮影した画像を画像解析ソフトに入れマップを作製
(レーク滋賀農業協同組合「ドローンを活用した農業現場の取り組みについて」より)
3.NDVI解析により生育状況を分析し、施肥が必要な場所を割り出す
4.施肥が必要な場所にドローンによる施肥を行う
※NDVI…植生の分布状況や活性度を示す指標
さらに、解析システムとドローンが連携させ、解析後の施肥作業も自動で行うことができるという技術も開発されています。
センシングを活用した追肥のメリット
圃場センシングを活用した追肥には、以下の4つのメリットがあります。
- 経験や勘に頼らず作物の生育状況を正確に把握できる
- 少ない人数かつ短時間で施肥が完了する
- 時間短縮により施肥できる圃場の広さが拡大できる
- 経験の少ない若手でもすぐに実践できる
センシング技術を取り入れたドローン追肥は、省力化や生産規模の拡大、若手への事業継承といった現在の日本の農業が抱える問題を解決に導く一手となるかもしれません。
さいごに
ドローンを活用した追肥について紹介してきましたが、もう一度大まかな要点を確認しておきましょう。
- 肥料散布に使用されるドローンは、基本的に農薬散布用に使用するドローンと同じ機体が用いられ、粒剤用のタンクに付け替えることで肥料散布が可能。
- 農薬散布ドローンは、産業用ヘリコプターと同じ薬剤・肥料を使用する
対応薬剤の確認はこちら→http://mujin-heri.jp/index3.html
- ドローンによる追肥は空中散布専用肥料を使用するのが効果的
- ドローンで追肥を行うメリットは、以下の4つ。
- 傾斜地でも問題なく散布できる
- 圃場の状態に関係なく散布できる
- 作物を傷めることなく散布できる
- ピンポイントで散布することができる
- ドローンによる肥料散布の課題は、以下の2つ
- 粒剤散布装置を別途用意しなければならず、ユーザーによる取付作業が必要
- ドローン散布に対応した肥料の種類が少ない
- 圃場センシングを活用した可変施肥技術でさらに効果的に追肥できる
農業分野でのドローン活用は農薬散布の事例が目立ちますが、追肥にも活用することで農業散布ドローンをより有効に活用することができます。
さらに圃場センシングやスポット追肥といった最新技術を組み合わせれば、農業全体の課題解決の一手になる可能性もあるのではないでしょうか。
本記事で得られた知識を元に、あなたの圃場においても効率的に農薬散布ドローンが活用されることを願っています。