農薬散布ドローンの導入を考えている方の中には、自作して費用を抑えようと考える方もいるのではないでしょうか?しかし、そもそも素人でも農薬散布ドローンを自作することは可能なのか、どのようなものが必要なのか、どんなリスクがあるのかなどわからないことだらけ…というのが正直なところだと思います。
農薬散布ドローンを自作することは可能ですが、農薬散布ドローンを自作するにはかなりの知識が必要になることに加え、メーカー製ドローンに比べて飛行申請がとても煩雑です。
そこでこの記事では、
- 農薬散布ドローンを自作する方法や必要なもの・費用
- 農薬散布ドローンを自作するリスク
- 農薬散布ドローンを自作した場合の申請について
- 農薬散布ドローンを自作せずに安く導入できる方法
などについてお伝えし、安全に運用できる農薬散布ドローンの入手方法について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、農薬散布ドローンを自作することに関するさまざまな知識を得た上で、最適な方法で安全な農薬散布ドローンを入手し、導入することができるでしょう。
※ドローンによる農薬散布のメリットデメリットや導入までの流れの全体像は、こちらの記事にまとめています。
ドローンの農薬散布とは?メリットデメリットや始め方・導入の注意点
※農業用ドローンの選び方や導入費用はこちらの記事にまとめています
目次
農薬散布ドローンをゼロから作るのは難しい
結論から言うと、農薬散布ドローンを自作することは可能です。就農者であれば耕運機など様々な機械を扱うため、工学知識や専門知識を持っている方も多いかもしれません。そういった知識をもとに、農業散布用ドローンを自作したりメーカー製ドローンを改造して農薬散布ができるようにすることは不可能ではないでしょう。
ただし、かなり専門的な知識が必要となるので、誰にでもおすすめできる方法とは言えません。
こちらは実際にパーツを取り寄せて農薬散布ドローンを自作した動画です。ネットでいろいろ調べながら組み立てたとのことですが、全く知識がない方にはかなり大変な作業になるのではないかと思われます。
農薬散布ドローンを自作するために必要なものとは
農薬散布ドローンを自作するためには、多くのパーツが必要。実際農業用ドローンだけでなく、レースや空撮に使うためのドローンを自作する人はいます。ですが、農薬散布ドローンの場合は農薬を搭載して散布するという機能を付けるため、「飛ばす」「撮影する」という目的のドローンとは異なるパーツが必要になります。
ドローンを自作するための基本パーツは以下の通り。
自力でパーツを集めるためには専門的な知識が必要になり、パーツ選びに失敗する可能性も否定できません。
農薬散布ドローンを自作するならキットを使うのがおすすめ
工学知識に自信があり農薬散布ドローンを自作する決断をしたのであれば、農薬散布を前提としたパーツが揃った組み立てキットを購入することをおすすめします。
レース用など趣味のドローンであれば組み立てる工程を楽しみながら試行錯誤して作成するというのもいいですが、農薬散布という目的を確実に果たし安全に飛行させるためには、パーツ選びに失敗するわけにはいきません。農薬を積載して飛ばすには通常のドローンよりもパワーが必要なうえ、バッテリー容量も必要。
このような条件にぴったり合ったパーツを素人が探して揃えるのは至難の業と言えるでしょう。組み立てキットなら農薬散布ドローンに必要なパーツがすべて一度に揃うので、すぐに組み立てに取り掛かれるという大きなメリットがあります。また、組み立てに自信がないという方のために、組み立てに関するサポートや組み立て済キットなどが用意されているのもポイント。
農薬散布用ドローンを扱っている「ウラニア」では、自分で組み立てるキット(217,000円~)の他に、半組み立て済キット(277,000円~)、調整まで完了した組み立て済キット(450,000円~)の取り扱いもあります。
農薬散布ドローンのパイオニア「スカイロード」では、重要な部分を処理してから発送してくれるフルセット(389,100円~)、ケーブルセット(+20,900円)を選択することも可能。
農薬散布ドローンを自作するのにかかる費用は?
農作業の効率化や圃場の環境などから農薬散布ドローンの導入を考えた場合、多くの方にとってネックとなるのが初期費用ではないでしょうか。こちらでは、メーカー製ドローンを購入した場合と自作した場合にかかる費用を比較してみたいと思います。
メーカー製ドローンを購入する場合と自作する場合では、機体にかかる価格の差がそのまま導入費用の差と考えていいでしょう。
自作する場合、前章で紹介したキットを使う場合は22万円~45万円ぐらい、自分でパーツを買い揃えた場合は、どこからどのようなパーツを取り寄せるかによって大きな差がありますが、20万円~といったところ。中にはこだわりのパーツ選びで80万円ほどかかったという人もいます。
農薬散布ドローンを自作するメリット
農薬散布ドローンを自分で作るメリットは、なんと言っても価格の安さでしょう。自作すれば、メーカー製ドローンを購入する場合の3分の1から4分の1に費用を抑えることが可能です。また、自作することによって、故障したときに自分で修理することができるのもメリットの一つ。
農薬散布ドローンを自作するデメリット
自作の農薬散布ドローンは価格が抑えられるというメリットはありますが、デメリットもあるので慎重に判断する必要があります。
農業散布ドローンを自作するデメリットは以下の3つ。
- 海外から取り寄せたパーツは説明書がないことも多く組み立てが困難
- 飛行の許可申請が煩雑
- 希望する保険に加入できない場合がある
海外から取り寄せたパーツは説明書がないことも多く組み立てが困難
海外から取り寄せたドローンパーツでありがちなのが、説明書がなく数枚の写真を見ながら組み立てなければならないというケースです。部品の不良や組み立てでわからないことがあっても、海外のため問い合わせに手間取ってしまうというデメリットも。
飛行の許可申請が煩雑
自作ドローンや改造ドローンの場合、メーカー製ドローンに比べて飛行の許可申請が複雑です。
農薬は危険物に該当するため、農薬を搭載する場合「危険物の輸送」に当てはまります。また散布は「物の投下」です。そのため、農薬散布をするには承認申請を出して飛行の許可を取らなければいけません。
国交省ホームページに記載の機体であれば提出書類を一部省略することができますが、改造ドローンや自作ドローンの場合は機体の安全性を保障しなければならず、申請の際に機体の写真やプロポの写真、プロポの表示内容の写真、機体の操作方法等、多くの資料を添付する必要があります。
機体情報登録の工程がかなり複雑になるため、自力での申請が難しい場合はドローンの申請代行を得意としている行政書士に依頼することも検討しなければならず、別途費用が発生することになります。
ドローンの農薬散布における申請については、こちらの記事で詳しくまとめています。
農薬散布ドローンで必要な申請は3つ!手続きの流れや手順を徹底解説
希望する保険に加入できない場合がある
自作ドローンは、希望する保険に加入できない可能性があることを知っておかなければいけません。ドローンには落下、接触事故のリスクがあるため、保険加入は必要不可欠。農薬散布の現場で使用するのであればなおさらです。ですが、自作ドローンの場合、加入できる保険が限られていたり希望する保障を付けられないという可能性があります。自作を考えている場合は、事前に加入できる保険について確認しておく必要があります。
農薬散布ドローンは自作しなくても安く導入できる可能性がある
農薬散布ドローンは、自作する以外にも安く購入できる方法があります。それはさまざまな補助金を利用すること。
農薬散布ドローンを導入したいけれど、高額で手が届かないので自作を検討しているという方もいると思いますが、工学知識や専門知識がかなり豊富で腕に自信がある方以外はなかなかハードルが高いのが実情。仕事で導入するのですから利益を確保するためにもできるだけ安価で購入したいところですが、性能や機能に問題があっては本末転倒です。そこで活用したいのが補助金。主な補助金は以下の通りです。
- 経営継続補助金
- 強い農業・担い手づくり総合支援交付金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- 産地パワーアップ事業
- 小規模事業者持続化補助金(一般型)
経営継続補助金
新型コロナウイルス感染拡大防止対策を行いつつ、販路回復・開拓や事業継続・転換のための機械・設備の導入や人手不足解消の取り組みを支援することで、地域の農林漁業者の経営の継続を図るためのもの。詳しくは農林水産省のページで確認できます。
強い農業・担い手づくり総合支援交付金
農林水産省が産地の収益力強化と農業の担い手の経営発展を推進するため、産地や農業の担い手の発展の状況に応じて、必要な農業用機械・施設の導入を支援するもの。ドロ-ンもスマート農機として補助金の対象であることが示されています。一般の農家がドローンの導入に活用できるのは、この中の「先進的農業経営確立支援タイプ」と、「地域担い手育成支援タイプ」の2つです。公募についてはこちら。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
中小企業もしくは小規模事業者に該当すれば、農業でも経済産業省が実施する「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」を活用できます。この補助金は、中小企業や小規模事業者等が、相次いで直面する制度変更等に対応するために革新的サービス開発・試作 品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等の費用を支援するものです。公募要項はこちら。
産地パワーアップ事業
農林水産省が実施する「産地パワーアップ事業」は、農業での収益力強化を図る地域内で、農業機械や施設の導入に必要な資金を補助する事業です。ドローン導入の場合、機体購入価格の2分の1以内の補助金を受けられる可能性があります。
地域農業再生協議会などが作成する「産地パワーアップ計画」に参加することが条件。年間を通してさまざまな補助事業が公募されているので、農林水産省のホームページなどで随時チェックしておくことをおすすめします。
小規模事業者持続化補助金(一般型)
日本商工会議所が実施する「小規模事業者持続化補助金(一般型)」は、主に商業・サービス業・製造業などが対象の補助金制度ですが、自身で生産した農産物を販売する場合、製造業として農家も補助金の対象になります。金額は少額ですが、申請が通ればコスト削減が可能。
日本商工会議所の「小規模事業者持続化補助金メニュー」のページはこちら。
地域独自の助成制度が使える場合も
地域によっては、ドロ-ン導入に独自の助成金制度を用意しているところもあります。農薬散布ドローンの導入を検討する際には、まず地域のJA、自治体に相談してみましょう。
農業用ドローンの補助金については、こちらの記事で詳しくまとめています。
【2022年最新】農業用ドローン向け補助金4種類。個人利用も可!
まとめ
農薬散布ドローンの自作について紹介してきましたが、もう一度大まかな要点を確認しておきましょう。
- 農薬散布ドローンを自作することは不可能ではないが、かなりの専門知識と工学知識が必要。
- 農薬散布ドローンを自作するために必要な主なパーツは下記の通り。
フレーム(25kgくらいの重さに耐えられるもの)
フライトコントローラー
モーターとスピードコントローラー
プロペラ
バッテリー(20分くらいの飛行できる容量)
受信機
プロポ
散布タンク
- パーツ選びの失敗のリスクを避けるため、自作するなら組み立てキットを活用するのがおすすめ。キットを使うメリットは以下の3つ。
①必要なパーツがすべて一度に揃うので失敗のリスクが少ない
②すぐに組み立てに取り掛かることができる
③サポートや組み立て済キットなどが用意されている
- 農薬散布ドローンを導入する費用の目安
- 農薬散布ドローンを自作するメリットは価格の安さと、自身によるメンテナンスが可能なこと。
- 農薬散布ドローンを自作するデメリットは以下の3つ。
①海外から取り寄せたパーツは説明書がないことも多く組み立てが困難
②飛行の許可申請が煩雑
③希望する保険に加入できない場合がある
- 農薬散布ドローンは以下のような補助金を活用して導入価格を抑えられる可能性がある。
経営継続補助金・強い農業・担い手づくり総合支援交付金・ものづくり・商業・サービス 生産性向上促進補助金・産地パワーアップ事業・小規模事業者持続化補助金(一般型)
- 農薬散布ドローンの導入を検討するならまずは管轄のJA、自治体に相談してみるのがおすすめ。
豊富な工学知識をもってしても、ドローンの組み立てには専門知識が必要不可欠。たとえ技術に自信があっても、申請や保険加入に際にリスクがあることも忘れてはいけません。総合的な視点から判断すると、趣味目的ではない農薬散布ドローンの場合はまずメーカー製ドローンの購入を検討することをおすすめします。
農業用ドローンは日々進化を続けており、高性能化と低価格化が同時進行しています。導入コストを抑えるなら、ある程度機能を絞った低価格ドローンを選ぶのも一つの方法。
本記事で得られた知識をもとに、最適な方法で安全な農薬散布ドローンを入手し、ドローンが有効的に活用されることを願っています。