農薬散布ドローンを導入するにあたり、
「ドローンで農薬を散布するにはどんな申請が必要なんだろう」
「どんな手順で申請をすればいいの?」
という疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
そこで今回、ドローンも扱う農具メーカーに勤められており、実際に農業ドローンが活用されている現場事情に詳しい高橋さん(仮名)をお迎えし、お話いただいた内容を基に記事を作成しました。
(※プライバシー保護の観点から、インタビュー者の顔を隠して表示しております。)
ドローンを使って農薬散布作業を実施する場合、主に以下の3つの申請が必要になります。
①ドローン登録システムへの機体登録
②国土交通省への飛行承認飛行許可承認手続き
③ドローン情報基盤システムへの飛行計画登録
①、③は農薬散布ドローン以外のドローン(100グラム以上のもの)においても必ず必要な手続きですが、農薬散布ドローンの場合②の申請も必須になります。また、インタビューの結果、②の飛行許可申請に関しては、購入する代理店で申請を行ってもらえるケースも多いことがわかりました。
この記事では、
- ドローンでの農薬散布に必要な3つの手続きの流れ
- ドローン登録システムの概要
- 飛行許可申請を行う前に満たすべき操縦者要件
- 飛行許可手続きに必要な事前準備
などについてお伝えし、農薬散布ドローンを運用するために必要な申請に関する正しい知識を基に、適切に準備を進めるための方法について提案していきたいと思います。
この記事を読めば、農薬散布ドローンを飛ばすために必要な申請に関する正しい知識が得られ、スムーズに農薬散布ドローンを導入することができるでしょう。
※ドローンによる農薬散布のメリットデメリットや導入までの流れの全体像は、こちらの記事にまとめています。
ドローンの農薬散布とは?メリットデメリットや始め方・導入の注意点
※農業用ドローンの選び方や導入費用はこちらの記事にまとめています
目次
ドローンでの農薬散布に必要な申請手続きは主に3つ
ドローンでの農薬散布に必要な申請手続きは、基本的に以下の3つです。
①ドローン登録システムへの機体登録(基本的に本人が行う。一部代理申請サービスを設けている代理店・行政書士事務所もあり)
②国土交通省への飛行許可承認手続き(申請代行サービスを設けている代理店・スクール・行政書士事務所あり)
③ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録(都度本人が行う)
※後述しますが、この他にも自治体ごとに散布計画の提出や報告書の提出、地域や近隣の施設や住宅への周知などのルールを定めている地域もあります。飛行場所の市町村役場担当窓口で確認しましょう。
①、③は農薬散布ドローン以外のドローン(100グラム以上のもの)でも必ず必要な手続きですが、農薬散布ドローンの場合、農薬や肥料の散布が、航空法が制限を行う「物件投下」「危険物輸送」にあたるため、②の申請も必須になります。
なお、これから農薬散布ドローンを新規購入する場合、購入する代理店で②の飛行申請を行ってもらえる場合もあるので、購入の際には登録や申請の流れについても確認してみることをおすすめします。
農薬散布ドローンを飛ばすまでの大まかな流れ
機体選定〜3種類の申請を行うまでの流れは下記となります。
機体の選定
認定機を選んだ場合は、購入前に機体に応じて定められた教習所やスクールに通い、技能認定を受ける必要があります。非認定機の場合は技能認定の必要はありません※。
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機体購入
下記2つの申請を実施
①機体登録の実施 ※基本的に本人が実施
②飛行許可申請の実施 ※本人または申請代行サービスを設けている代理店が実施
個別申請の場合は散布日程が決まったら、包括申請の場合は最初の散布に間に合うタイミングで申請します。
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②飛行許可申請完了
※最短10日程度。 申請内容によっては期間は長くなる可能性もあるので、大体の目安として飛行予定日の1ヵ月前までに申請するようにします。
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飛行当日
③飛行計画登録の実施
※サイトが重く時間がかかる場合があるので、時間に余裕をもって登録することをおすすめします。
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農薬散布の実施
先述の3つの申請手続きは①~③で示した箇所で行います。
①の機体登録は最初の1回のみ、②の飛行許可申請については、個別申請の場合は飛行の都度、1年間の包括申請を行う場合は年に一度申請が必要になります。
③の飛行計画の登録は、飛行の都度本人による登録が必須です。
※農業用ドローンの機体による技能認定についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
ドローン農薬散布に必要な申請①:ドローン登録システムへの機体登録
航空法改正により、2022年6月20日以降、100グラム以上のドローンの所有者は氏名や住所、機種などを国交省に申請し、個別の登録記号(ID)の通知を受けることが義務化されました。
2022年6月20日以降は未登録の機体をフライトさせることはできなくなり、未登録の機体をフライトさせると「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されることになります。
【登録するタイミング】:機体が手元に届いたら
【登録者】:本人もしくは所有者から依頼を受けた代理人※
【いつまでに登録が必要か】:ドローンを飛ばすまで
※一部の代理店や行政書士事務所などで機体登録の代理申請(有料)を行っているところもありますが、個人情報の取扱いなどの面で代理申請できないと判断する代理店もあるようです。
機体登録はオンラインか書類提出の2通りの方法がある
機体登録申請は、オンラインまたは書類提出にて行いますが、スマートフォンでも手軽にできるオンライン申請がおすすめです(書類提出の場合も電子メールによる本人確認が必要です)。
登録にかかる費用は以下の通り。
書類申請 |
2,400円 |
---|---|
免許証やパスポートによるオンライン申請 |
1,450円 |
マイナンバーカードかgBizID(法人・個人事業主向け共通認証システム)による申請 |
900円 |
それぞれ同時に申請した際の2機目以降は、2,000円/機、1,050円/機、890円/機となります。
入金方法は、クレジットカード、インターネットバンキング、ATMの3通り。
機体登録申請の流れ
登録手順については国交省の「無人航空機登録ポータルサイト」の動画でわかりやすく解説されています。
機体登録申請の際は、本人確認書類と登録をするドローンの機種・製造番号が必要になるので準備してから始めましょう。
大まかな流れをまとめると、以下の通りになります。
登録に要する期間は、手数料納付の通知までに1~5開庁日(代理申請は本人確認書類が到着してから1~5開庁日が目安)かかります。 また、手数料納付後に登録記号発行までに1~5開庁日を要します。
機体登録申請はこちら。
リモートIDとは?
上記の機体登録申請の流れにおいて最後のステップに「リモートID機器への登録」という項目がありますが、リモートIDとは、自動車でいうナンバープレートのような役割のものです。
上空を飛行するドローンの場合、自動車とは異なり直接IDを確認することができないため、リモートID機器を搭載し無線で情報を発信。その情報を取得することで機体所有者を識別することが可能になります。
各ドローンメーカーではリモートIDを内蔵した機体を順次発売する予定ですが(一般的なドローンではすでに発売されているものもあります)、現状(2022年8月)、農業ドローンにおいては民間企業で製造されているリモートIDを別途購入しドローンに搭載する対応が必要となります。
大きさや価格はさまざまですが、現在価格が公開されているものでは4万円台のものが多いようです。
リモートIDの価格や登録方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ドローンのリモートIDとは?搭載義務/免除の条件や価格・登録方法
ドローン農薬散布に必要な申請②:国土交通省への飛行許可承認手続き
ドローンによる農薬散布については、人又は家屋が密集している地域の上空を飛行させる場合があることや、物件の投下等に該当するため、航空法に基づき事前に国土交通省へ許可・承認の申請を行うことが必要です。
前述の通り、農業用ドローンを新規購入する場合、購入する代理店で飛行申請を行ってくれるケースもあるので、購入の際に申請の流れや費用なども含め確認してみるといいでしょう。
申請方法は、オンラインサービスによる申請と書類での申請(郵送または持参)の2つの方法がありますが、国土交通省ではオンラインサービス「ドローン情報基盤システム(DIPS)」での申請を勧めています。
【登録するタイミング】:個別申請の場合は散布日程が決まったら、包括申請の場合は最初の散布に間に合うタイミングで申請します※。
【登録者】:本人もしくは所有者から依頼を受けた代理人
【いつまでに登録が必要か】:飛行開始予定日の少なくとも10開庁日前まで
※申請に不備があった場合さらに時間を要する場合もあるため、余裕をもって3~4週間前には申請したほうが安心です。
※ドローンの飛行申請には、都度申請する「個別申請」と、申請者が決められた期間内に繰り返し飛行ができる「包括申請」があります。
飛行申請を行う前に操縦者要件を満たすことが必要
国土交通省への飛行申請を行うためには、「操縦者に関する要件」を満たすことが必要となります。具体的な要件は、大きく3点に分けられます。
- 飛行経験(10時間以上の飛行経歴・5回以上の投下経験)
- ドローンに関する法律や機能に関する知識
- 操縦技術
農薬散布用のドローンスクールで講習を受けることで、これらの要件をすべて満たすことができます。
農薬散布用のドローンスクールのカリキュラムや講習費用等については、こちらの記事で詳しくまとめています。
農薬散布(農業)用ドローンスクールとは?講習内容や選び方をインタビュー
☑飛行経験
飛行経歴で必要な要件は以下の通りです。
- 10時間以上の飛行経歴を有すること。
- 5回以上の投下経験
【10時間以上の飛行経歴とは?】
プロポの操作に慣れるため、基本的な操作が容易にできるようになるまで、10時間以上の操縦練習を実施することが必要とされています。
- 操縦練習は十分な経験を有する者の監督の下に行う
- 訓練場所は許可等が不要な場所又は訓練のために許可等を受けた場所で行う
とされているため、実質的にはスクールに通うのが一番簡単な方法だと思われます。
【5回以上の投下経験とは?】
農薬散布は「物件投下」にあたるため、飛行中に投下する訓練が必要になります。
投下経験は時間ではなく回数で、5回以上の経験が必要。空中散布など飛行中に機体重量が変化する状況下においても安定した操縦が行えるよう、訓練のために許可を受けた場所または屋内で練習を行います。
(空中散布の訓練は実際の農薬ではなく水などを使用)
このような物件投下の経験については現実的に難しいので、ドローンスクールで講習を受けるのが確実でしょう。
☑知識
「航空法関係法令に関する知識を有すること」と「安全飛行に関する知識を有すること」が必要となります。
そのためには、航空法などドローンの飛行に関係する法律を十分理解することが必須。また、機体の安全機能についても十分理解しておくことが必要です。
このような知識はスクールに通うことで効率的に学習することができますが、国土交通省のHPやさまざまなドローン関連のサイト、書籍などを利用して独学で学ぶことも可能です。
☑操縦技術
安全確認の能力や機体の操縦能力が必要となります。具体的には、
- 風速・風向等の気象確認能力
- 上昇
- 一定位置・高度を維持したホバリング
- ホバリング状態から機首の方向を90°回転
- 前後移動
- 水平方向の飛行
- 下降
などです。
このような操縦技術は、プロの操縦士から直接ドローンの操縦技術について学ぶことができるスクールで学ぶのが最も効率的でしょう。
農薬散布ドローンは「包括申請」するのがおすすめ
ドローンの飛行申請には「個別申請」と「包括申請」の二つの方法がありますが、ドローンで農薬散布を行う場合は「包括申請」がおすすめです。
【個別申請】
- 飛行を行う日時や経路を決めて申請の手続きをする必要がある。
- 天候の影響などにより申請を出した日に農薬散布ができなければ、改めて申請の手続きをしなければならない。
- 代理申請を依頼する場合、その都度費用がかかる。
「包括申請」
- 決められた期間内に繰り返し飛行ができる。
- 複数の圃場で散布をする必要がある場合も包括して申請することができる。
- 断続的に使用するのであれば最長1年間の申請が可能。
包括申請については、こちらの記事で詳しくまとめています。
ドローンは包括申請がおすすめ!その理由や申請条件、注意点も解説
オンライン(ドローン情報基盤システム【DIPS】)による飛行申請の流れ
操縦者要件を満たすことができたら、いよいよ飛行申請手続きに入ります。
こちらでは、推奨されているオンラインによる飛行申請について説明していきたいと思います。
(※オフラインでの申請方法は記事の最後に記載しております。)
申請に必要な事前準備
オンラインで申請する場合、以下の事前準備が必要です。
☑動作環境に適合したパソコンの準備
☑メールアドレスの準備
☑安全な通信を行うための証明書の取得
☑添付資料の準備
【動作環境に適合したパソコンを準備】
ドローン情報基盤システムを使用するために必要な環境は以下の通りです。
ブラウザ Internet Explorer 11.0
CPU 2.50Ghz以上
メモリ 2.00GB以上
【メールアドレスの準備】
ドローン情報基盤システム(DIPS)にログインするための申請者 ID を発行するために、メールアドレスが必要となります。
また、information@dips.mlit.go.jpからのメールが受信できるような設定にしておきます。
【安全な通信を行うための証明書の取得】
安全な通信を行うための証明書を取得し、ブラウザに設定する必要があります。
これは、申請者が接続しているシステムがドローン情報基盤システムに間違いないことを確認し、ドローン情報基盤システムとの間の通信を暗号化するために必要となるものです。
以下のリンクの手順に従い、アプリケーション認証局2の自己署名証明書をインストールします。
https://www.gpki.go.jp/apca2/index.html
【添付資料の準備】
飛行申請に必要な書類の多くはDIPSで作成できますが、以下の書類は別途添付用の電子ファイルを準備する必要があります。必要な添付資料は以下の通り。
国土交通省のホームページに掲載されているドローンは、申請時の資料を一部省略することが認められています。
オンラインでの飛行申請の流れ
オンラインによる飛行申請はこちらから、詳しい手順については「飛行許可承認申請の手引き」で確認することができます。
それでは、オンラインによる飛行申請の大まかな流れをご紹介します。
【機能認定を受けている場合は技能認証の情報を入力】
☑機体情報では、メーカーや機体名称(機種)の他に、製造番号を記載する箇所があるので、あらかじめ確認しておきましょう。DJI製ドローンの場合は14ケタの英数字で、バッテリースロット内などに記載されています。
☑操縦者登録では住所や氏名などの個人情報の他に、講習団体による技能認証の情報、これまでの飛行の実績について入力する箇所があります。先述の通り、総飛行時間は最低でも10時間以上、物件投下の場合は最低でも5回以上の経験が必要です。
【申請書に関する農薬散布特有のポイント】
申請書は入力する項目が多くありますが、ここではその中でも「農薬散布ドローンを利用したい方」が入力する上で注意すべきポイントについて解説していきます。
☑飛行許可が必要な理由について選択する箇所では、以下のように入力します。
「危険物の輸送」「物件投下」にチェックを入れ、飛行理由に「農薬散布のため」を選択します。
(さらに散布するエリアにおいて人、建物、車などから30m以上の距離を確保出来ない場合、「人又は家屋の密集している地域の上空」にチェックを入れ、「飛行場所がDID地区に該当する可能性があるため。」という内容を入力します。)
☑危険物輸送の追加基準
危険物の輸送に適した装備が備えられていることが必要となります。危険物輸送に適した装備として以下の条件を満たす必要があります。
- 危険物を入れた容器は不用意に脱落する恐れがないこと
- 危険物に対する耐性を有していること。
上記を満たしていることを「テキスト」と「写真」で証明します。
具体例…「タンクは落下しないように四カ所のネジ、ナットの計8カ所で固定し落下を防いでいる。 ポリエチレン製タンクを使用している。」
※記載した内容がわかるような写真を添付します。上記の例でいうと、固定箇所までしっかり写ったタンクの写真。
☑物件投下の追加基準
不用意に物件等を投下する機構でないことが必要となります。そのため以下の条件を満たす必要があります。
- スイッチ等により物件を投下する機能を有していること
- 不用意に物件を投下しない構造を有していること
上記を満たしていることを「テキスト」と「写真」で証明します。
具体例…「送信機に、量を調整できるスイッチと散布装置ON/OFFの切り替えスイッチを備え、機体にボタ落ち防止ノズルを搭載し不必要な投下は行わない様な構造になっている。」
※記載した内容がわかるような写真を添付します。上記の例で言うと、切り替えスイッチのあるプロポの写真と、ノズルのアップの写真。
もし国土交通省からの修正依頼等があった場合は、「申請書一覧」→「照会編集」→「補正内容確認」から修正します。
ドローン農薬散布に必要な申請③:ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録
飛行情報共有機能(FISS)とは、ドローンなどの無人航空機同士と旅客機などの航空機との間で安全な飛行を維持するために、国土交通省航空局に事前に「いつ、どこで、なにを飛ばします」という情報を共有するためのシステムで、令和元年7月より登録が義務化されています。
そのため、農薬散布を行うたびにその都度登録が必要となります。
【登録するタイミング】:ドローンを飛ばす前に都度登録
【登録者】:本人
【いつまでに登録が必要か】:ドローンを飛ばすまで(飛行直前でも問題ありませんが、サイトが重く時間がかかる場合があるので時間に余裕をもって登録することをおすすめします。)
ドローン情報基盤システム(FISS)で確認できる3つのこと
ドローン情報基盤システム(FISS)は、飛行計画を登録する以外に、ドローンを飛ばす上で知っておきたい事項を確認することができます。
ドローン情報基盤システム(FISS)を利用することで確認できることは以下の3つ。
- 同じ空域を飛行する航空機・無人航空機の飛行情報
- 航空法以外の法律(無人航空機等飛行禁止法等)で定められた飛行禁止エリア
- サービス上に登録されている地方公共団体が個別の法令で定めた飛行禁止エリア
ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録の流れ
FISSへの登録の大まかな流れは以下の通りです。
飛行計画で登録する必要事項は以下の5つ。
- 飛行ルート
- 飛行する高度
- 飛行する日にち
- 飛行する時間
- 操縦者名と機体情報
※スマートフォンでも登録できる比較的簡単な作業ですが、現状サイトが重く、特にマップが表示されるまでに時間がかかる場合があるので、飛行直前ではなく時間に余裕をもって登録することをおすすめします。
ドローン情報基盤システム(FISS)のアカウント開設はこちら。
農薬散布ドローンの申請・手続きに関するQ&A
Q.ドローンを飛ばすのに必要な免許はある?
A.飛行許可申請に必須となる資格や免許はありませんが、実質的にはいずれかの民間団体の講習を受けることが必要になる場合が多いです。
ドローンには自動車のような国の免許制度や飛行許可申請に必須となる特定団体の資格などはありません。
ただし、散布作業を行う上で必要な飛行許可の承認にあたり、技能・飛行経歴が求められます。安全にドローンを運用するには、一定以上の知識とノウハウが必要であることから、民間のスクール等が実施する講習を受講することが必要です。
また、農林水産航空協会が定める性能試験に合格した農水協認定機や、DHI・クボタの農業用ドローンを購入するためには技能認定が必要で、この認定を受けるためには機体によって定められた認定教習所に通わなければなりません。
農業用ドローンの機体による技能認定(免許/資格の取得)についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
農薬散布用ドローンの資格(免許)の全知識。費用や必要有無などを解説
Q.法人や集落営農において、資格や免許を有する者が組織内にいれば(資格所有者の指導を受ければ)、従業員でも操縦可能?
A.オペレーター資格を持っている人でなければ農薬散布ドローンを操縦することはできません。
一般的に、民間団体等が付与するオペレーター資格は資格保有者の操縦のみを対象としており、指導を行うためには別の資格(インストラクター資格)などが必要です。
このため、オペレーター資格を持つ者が組織内で研修や指導を行っても、受講者は飛行許可を取得できるわけではありません。
ドローンの操縦を行う場合は民間団体等が実施する講習の受講が必要です。
Q.自力で申請をする自信がない場合はどうしたらいい?
A.代理申請を行ってくれる代理店から機体を購入すれば、一部の申請を任せることが可能です。
国土交通省への飛行許可申請については、代理店などによる申請が認められています。主要メーカーを扱う代理店では代理申請を行ってくれるケースも多いので、購入店を決める際に確認してみることをおすすめします。
機体登録についても代理申請が認められていますが、個人情報の取扱いの面から代理申請を行わないと判断する代理店もあるようなので、こちらについても確認してみましょう。
FISSへの飛行計画登録は自身での都度登録が必要ですが、オペレーター資格を得るための講習でノウハウを教えてくれるところもあります。
Q.自治体によって必要な申請はある?
A.自治体によっては散布計画の提出や報告書の提出などが定められてる場合があるので、確認が必要です。
上記の3つの登録や申請はすべての方に共通して義務化されているものですが、この他にも自治体ごとに散布計画の提出や報告書の提出、地域や近隣の施設や住宅(特に養蜂・養蚕家や学校など)への周知などをルールを定めている地域もあります。
農薬散布ドローンの導入にあたっては、自治体のルールについて必ず飛行場所の市町村役場担当窓口へ必ず確認するようにしましょう。
自治体のHPでも確認できますが、不明な場合は電話などで問い合わせすることをおすすめします。
Q.事故発生時の連絡先は?
A.農薬に関する事故の場合は都道府県の農薬指導部局、衝突事故や機体紛失などに関する事故の場合は関係各所への連絡を優先しつつ地方航空局に連絡します。
①ドリフトなどの農薬事故
連絡先: 都道府県の農薬指導部局
②人の死傷、第三者の物件の損傷、機体紛失、航空機との衝突もしくは接近事案
<人の死傷の場合>
警察、消防(救助が必要、火災発生等の場合)
<第三者の物件の損傷の場合>
所有者・管理者(電線・電柱に対する損傷の場合、NTT、電力、鉄道会社等)
上記の連絡先に優先的に連絡しつつ、 地方航空局に連絡します。
参考:ドローン農薬散布に必要な申請②飛行許可申請をオフライン(書類)で行う場合の申請手続きの流れ
国土交通省への飛行許可承認手続きについては原則オンラインで行うことになっていますが、書類による申請方法についても簡単にご紹介します。
ステップ① 申請書の書式をダウンロードする。
https://www.mlit.go.jp/common/001220062.docx
※申請書式と同様の記載事項及び様式であれば、独自に作成したものでも申請可能。
飛行申請書として必要な書類
① (様式1) 無人航空機の飛行に関する許可・承認申請書
② (様式2) 無人航空機の機能・性能に関する基準適合確認書
③ (様式3) 無人航空機を飛行させる者に関する飛行経歴・知識・能力確認書
④ (別添資料1) 飛行経路の地図
⑤ (別添資料2) 無人航空機及び操縦装置の使用が分かる設計図又は多方面の写真
⑥ (別添資料3) 無人航空機の運用限界及び無人航空機を飛行させる方法が記載された取扱説明書等の該当部分の写し
⑦ (別添資料4)最大離陸重量25kg以上の無人航空機の機能・性能に関する基準適合確認書
⑧ (別添資料5) 無人航空機の追加基準への適合性
⑨ (別添資料6) 無人航空機を飛行させる者一覧
⑩ (別添資料7) 無人航空機を飛行させる者の追加基準への適合性を示した資料
⑪ (別添資料8) 飛行マニュアル
■赤の資料…資格無人航空機の講習団体及び管理団体のうち、「管理する講習団体の技能認証に含む飛行形態」において「危険物の輸送」「物件投下」の項目にチェックが入った団体の講習修了者であれば省略可能
※技能証明書等の写しの提出が必要
■緑の資料…資料の一部を省略することができる無人航空機に該当している場合省略可能
※「『資料の一部を省略することができる無人航空機』に該当するため省略」と記載する。
※⑦については、資料の一部を省略することができる無人航空機のうち、「確認した飛行形態の区分」にAの表示があるものが省略対象。
■オレンジの資料…「航空局標準マニュアル」※を利用する場合は省略可能。
※農業用ドローンによる農薬散布用の標準マニュアルはこちら。
標準マニュアルを使用する場合は必ず内容を確認し、理解した上で使用する必要があります。標準マニュアル内で禁止されている飛行を行いたい場合は、そうした飛行を安全に行うためのマニュアル(独自マニュアル)を独自に作成・添付しなくてはなりません。
ステップ②必要事項を記入する。
こちらでは、主要な書類(どのような場合でも省略できないもの)のポイントについて解説していきます。
【様式1】
様式1でのポイント
- 飛行に際して安全性と正当な理由があるということをきちんと記載すること。
【様式2】
様式2でのポイント
- 改造しているかしていないかの判断がポイントです。掲載機であっても非純正の部品を取り付けている場合は改造になるので注意が必要。
【様式3】
様式3については、無人航空機の講習団体及び管理団体における講習修了者は省略することが可能です。
【別添資料1】
飛行経路の詳細図については、地理院地図から飛行場所を検索し、画像を切り取ってペイントツールなどで印をつけます。
【別添資料5】
別添資料4の「無人航空機の追加基準への適合性」では、オンラインの申請と同じように、危険物の輸送に適した装備が備えられていることと不用意に物件等を投下する機構でないことを、テキストと写真で証明します。
さらに、散布するエリアにおいて人、建物、車などから30m以上の距離を確保出来ない場合は、補助者を配置して注意喚起を行うなどの対策を講じる旨を記載します。
【別添資料6】
団体などの認定を受けている場合は、別添資料6の「無人航空機を飛行させる者一覧」の備考に記載します。
ステップ③申請書が完成したら飛行場所を管轄している航空局へメールで送付する。
- 東京航空局 保安部 運用課 無人航空機審査担当(飛行場所が新潟県、長野県、静岡県以東の場合)
メールアドレス:cab-emujin-daihyo@mlit.go.jp - 大阪航空局 保安部 運用課 無人航空機審査担当(飛行場所が富山県、岐阜県、愛知県以西の場合)
メールアドレス:cab-wmujin-daihyo@mlit.go.jp
修正があった場合の手間を考え、郵送をする前に担当者にメールで申請書(PDF)を送って確認してもらうことをおすすめします。
訂正箇所や確認事項がある場合はメールで連絡があります。内容に不備がない場合は、申請書原本の提出依頼のメールが来るので、その内容に従って郵送します。
ステップ④許可承認書が郵送で届く。
まとめ
ドローンで農薬散布する場合に必要な申請手続きの流れや申請前に満たすべき操縦者要件、手続きに必要な事前準備などについて幅広く理解していただけたかと思います。
では最後にもう一度要点を確認しておきましょう。
- ドローンでの農薬散布に必要な申請手続きは主に以下の3つ。
①ドローン登録システムへの機体登録(基本的に本人が行う。一部代理申請サービスを設けている代理店・行政書士事務所もあり)
②国土交通省への飛行許可承認手続き(申請代行サービスを設けている代理店・スクール・行政書士事務所あり)
③ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録(都度本人が行う)
※この他にも自治体ごとに散布計画の提出や報告書の提出、地域や近隣の施設や住宅への周知などのルールを定めている地域もあります。飛行場所の市町村役場担当窓口で確認しましょう。
- 機体選定〜3種類の申請を行うまでの流れは下記の通り。
機体の選定
認定機を選んだ場合は、購入前に機体に応じて定められた教習所やスクールに通い、技能認定を受ける必要があります。非認定機の場合は技能認定の必要はありません※。
⇓
機体購入
下記2つの申請を実施
①機体登録の実施 ※基本的に本人が実施
②飛行許可申請の実施 ※本人または申請代行サービスを設けている代理店が実施
個別申請の場合は散布日程が決まったら、包括申請の場合は最初の散布に間に合うタイミングで申請します。
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②飛行許可申請完了
※最短10日程度。 申請内容によっては期間は長くなる可能性もあるので、大体の目安として飛行予定日の1ヵ月前までに申請するようにします。
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飛行当日
③飛行計画登録の実施
※サイトが重く時間がかかる場合があるので、時間に余裕をもって登録することをおすすめします。
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農薬散布の実施
- ①ドローン登録システムへの機体登録は100グラム以上のドローンの所有者全員に義務付けられており、未登録の機体をフライトさせると「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されます。
- 現状(2022年8月)、農業ドローンにおいては民間企業で製造されているリモートIDを別途購入しドローンに搭載する対応が必要です。
- ②国土交通省への飛行許可承認手続きは、農薬散布ドローンの場合必須。
【登録するタイミング】:個別申請の場合は散布日程が決まったら、包括申請の場合は最初の散布に間に合うタイミングで申請します※。
【登録者】:本人もしくは所有者から依頼を受けた代理人
【いつまでに登録が必要か】:飛行開始予定日の少なくとも10開庁日前まで
※申請に不備があった場合さらに時間を要する場合もあるため、余裕をもって3~4週間前には申請したほうが安心です。
- 農薬散布ドローンは包括申請がおすすめ。
- 国土交通省への飛行申請を行うためには、以下の操縦者に関する要件を満たすことが必要。
☑飛行経験(10時間以上の飛行経歴・5回以上の投下経験)
☑ドローンに関する法律や機能に関する知識
☑操縦技術
農業用ドローン特化のスクールで講習を受けることで、これらの要件をすべて満たすことができます。
- ③ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録は、飛行の都度本人が行います。
ドローンで農薬散布を行う場合、3つの申請手続きが必要になります。機体登録は購入時に一度だけですが、飛行許可申請は包括申請でも年に一度は必要となり、ドローン情報基盤システム(FISS)への飛行計画登録は飛行の都度行わなければなりません。
また、自治体によっては散布計画の提出や報告書の提出などが定められてる場合があるので、飛行場所の市町村役場担当窓口で必ず確認しましょう。
初めて申請手続きをする方にとって、特に難しいと感じるのは国土交通省への飛行許可申請でしょう。主要メーカーを扱う代理店では代理申請を行ってくれるケースも多いので、購入店を決める際に確認してみることをおすすめします。
本記事で得られた申請手続きに関する知識を元に、あなたの圃場においても農薬散布ドローンがスムーズに導入されることを願っています。