農業用ドローンを導入したいと考えている方の中には、
「農業用ドローンを導入するにあたりどんな資格が必要かわからない」
「どうやって資格を取得したらいいか知りたい」
という方もいるのではないでしょうか?
実は農業用ドローンの操縦自体には運転免許のような資格は必要ありません。
ただ、農林水産航空協会が定める性能試験に合格した農水協認定機や、DHI・クボタの農業用ドローンを購入するためには技能認定が必要で、この認定を受けるためには機体によって定められた認定教習所に通わなければなりません。
つまり、資格が必要かどうかは、どの機体を購入するかによって決まるということです。
そこでこの記事では、
- 農業用ドローンで技能認定が必要なケース
- 認定機とそれ以外のドローンの違い
- 農業用ドローンの選び方
- 技能認定を受ける方法
などについてお伝えし、農業用ドローンを導入するにあたっての資格に関する情報や取得方法についてわかりやすく解説していきたいと思います。
この記事を読めば、農業用ドローン導入に必要な資格や取得方法についての正確な知識が得られ、あなたの圃場においても農業用ドローンをスムーズに導入することができるでしょう。
※ドローンによる農薬散布のメリットデメリットや導入までの流れの全体像は、こちらの記事にまとめています。
ドローンの農薬散布とは?メリットデメリットや始め方・導入の注意点
※農業用ドローンの選び方や導入費用はこちらの記事にまとめています
目次
農薬散布用ドローンは資格(免許)取得が必要なケースがある
農業用ドローンは、操縦に関しての自動車免許のような資格は必要ありませんが、選ぶ機体によって技能認定を受けなければ購入できない場合があります。
技能認定後でなければ購入できないのは、以下の2つの場合です。
- 農林水産航空協会の認定機を使用する場合
- DJI、クボタの農業用ドローンを使用する場合
これ以外の農業用ドローンを使用する際には、認定資格は不要です。
ただし、どの場合においても、ドローンによる農薬散布は国土交通大臣の承認が必要となる飛行形態「危険物輸送」「物件投下」に該当するため、事前に承認申請が必要です。
承認申請に関しては、後ほど詳しく解説します。
農水協(農林水産航空協会)認定機とは
国土交通省が定める管理団体のひとつである農林水産航空協会は、農林水産分野におけるドローン利用の発展を促すため情報の収集・提供、調査研究、新技術の開発などを行うことを目的に発足した一般社団法人です。
この農水協がドローンの機体性能を試験し、合格したものを農水協認定機といいますが、農水協認定機を購入するためには、農水協の認定教習所に通って資格を取らなければならないことになっています。
現在農水協の認定を受けている機体は以下の19種類です。
※左側がメーカー、右側が型番
機種ごとの性能についてはこちらから確認できます。→マルチローター及び散布装置の性能一覧
DJI・クボタ製農業用ドローンも技能認定が必要
農水協認定機以外に、DJI・クボタ製の農業用ドローン購入の際にも技能認定が必要です。
DJI・クボタ製の農業用ドローンの場合は、国土交通省の管理団体DJI JAPANが運営するドローンの産業パイロット教育・訓練機関であるUTCが発行する「農業ドローン技能認定証明証」が必要になります。
認定機と認定機以外のドローンの違い
それでは農水協やUTCの認定機とそれ以外のドローンでは具体的にどのような点が違うのでしょうか?
きちんと性能が保証されたものであれば、上記の違いを把握した上で認定機以外のドローンを選んでも全く問題はありません。
例えばマゼックスの飛助MGと飛助DXのように、性能が全く同じで、認定機か認定機でないかの違いだけで2機種出しているメーカーもあります。
参考までに、世間からの目として、認定機であることがある種の判断基準であるという場合もあります。
自身の圃場だけの利用ではなくお客さん向けのビジネスに使う場合や大きな会社で使用する場合、認定機の方が安心感があると言えるでしょう。
認定機を選ぶメリット
農水協やUTCの認定機を使用するメリットは、以下の4点です。
- 散布性能が保証されているので安心して使用できる
- 教習所に通うことでさまざまな知識が得られる
- 実技訓練を受けられるのですぐに農薬散布に取り掛かることができる
- 受けられる補助金や助成金の対象が多い
散布性能が保証されているので安心して使用できる
日本国内で農薬散布をするには、農薬取締法に基づいて作業を行う必要があります。
ドローンを使用する場合は飛行速度や散布幅、吐出量などが定められており、それを守らないと3年以下の懲役もしくは100万円以内の罰金が課せられます。
散布性能が保証された機体であれば農薬取締法違反の心配がなく、農薬が周辺の作物に飛散してしまうドリフト問題が生じることもありません。
教習所に通うことでさまざまな知識が得られる
認定機を使用するための教習所では、ドローンの操縦だけでなく、ドローンに関する法律などの知識や農薬に関する知識まで幅広く学習することができます。
また、疑問点なども事前に解決することができるので、スムーズに導入することが可能。
農薬散布用ドローンの教習所(ドローンスクール)については、こちらの記事でより詳しく解説しています。
農薬散布(農業)用ドローンスクールとは?講習内容や選び方をインタビュー
実技訓練を受けられるのですぐに農薬散布に取り掛かることができる
教習所では実技訓練もしっかり行うので、事前に練習をしなくても農薬散布作業に取り掛かることが可能。
機体や農薬のセッティングに困ることもないでしょう。
受けられる補助金や助成金の対象が多い
認定機の場合、認定機以外のものに比べて利用できる補助金や助成金の制度が多いというメリットがあります。
もちろん認定機以外のドローンでも対象となる制度もあるので、ドローン導入にあたって補助金や助成金制度を利用したいと考えている方は、事前に地域のJAや自治体に問い合わせてみるといいでしょう。
農薬散布用ドローンの助成金(補助金)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2022年最新】農業用ドローン向け補助金4種類。個人利用も可!
認定機以外のドローンも使用可能
認定機以外のドローンを使用してはいけないのかというとそうではなく、もちろん認定機以外のドローンを使って農薬散布などを行うことも可能です。
その場合は教習所に通う必要もなく資格も不要。
以下のような方は認定機以外のドローンの購入を検討してみるといいかもしれません。
- 散布までに時間がない
- すぐに購入したい
ただ、認定を受けていない機体は性能の保証がないため、薬害などのリスクを回避するためにも購入前に機体性能や散布性能をしっかり確認する必要があります。
また、農業用ドローンは一般のドローンに比べ大型で重量も重い上、『農薬を散布する』という目的で使用されるため、扱うためには新たな技術を習得するための練習時間が必要です。
認定機以外のドローンを選ぶ際には、農薬散布できるまでのサポート体制がしっかりとした販売店から購入しましょう。
農薬散布用ドローンの資格(免許)取得を行うには
農水協やUTCの認定機の技能認定を受けるには、農水協認定機であれば農林水産航空協会、DJI・クボタの農業用ドローンであればUTC農業ドローン協議会に認定された教習施設で行われる教習を受講することが必要になります。
ここで注意しなければならないのは、使用する機種ごとに技能認定が発行されるということです。
一つの技能認定を受ければ全ての機種が扱えるというわけではなく、一つの機種で取得した技能認定ではその一つの機種でしか農薬散布を行うことができません。
使用する機種ごとに教習施設が異なる
技能認定を取得するための講習についても、機種ごとに教習施設が異なるので注意が必要。
農水協認定機の教習施設の検索はこちらから確認できます。→産業用マルチローター教習施設検索
DJI・クボタ製農業用ドローンの教習施設はこちらから検索することができます。
農薬散布用ドローンの資格(免許)取得に関するQ&A(費用・期間など)
資格取得までの日数や費用は?
資格取得までにかかる日数は、無人ヘリコプター操縦経験者であれば2~4日、未経験者は最短で5日のカリキュラムが多いです。
費用に関しても認定施設や取得コースによって変りますが、おおよそ18万〜30万円程度みておくといいでしょう。
教習施設の選び方は?
認定教習施設は、農水協認定機であれば農林水産航空協会・DJI・クボタ製農業用ドローンであればUTC農業ドローン協議会が指定している施設であることが前提ですが、資格取得だけでなく機体の販売、教習、メンテナンスまでセットでサポートしてくれる施設を選ぶことをおすすめします。
価格だけで選んで取得費用を安く抑えることができても、アフターフォローが手薄では安心してドローンを導入することはできません。
購入したドローンを長く安全に活用するためにも、教習施設を選ぶ際は費用だけでなくサポート体制が整っているかどうかをポイントに選ぶようにしましょう。
認定を受けてから運用するまでの流れは?
教習を受けてから実際に運用するまでのおおまかな流れは以下の通りです。
各種申請には1か月半~2か月程度かかる場合があるので、余裕をもってスケジュールを組むことが必要。
農薬散布用(農業用)ドローンの機体選びのポイント
農業用ドローンは、自身の圃場・用途に合ったモデルを選ぶことが大切です。
農業用ドローンにおける日本での市場シェアは、DJIが圧倒的シェアを誇っています。
しかし、いくら人気が高いからといって、その機体がすべての圃場・作物・用途に合うとは限りません。
用途に合った農業用ドローンを選ぶ際には、以下の6つのポイントに注目しましょう。
- 最大飛行時間…飛行時間が長いほど作業の効率化が図れる
- タンク容量…容量が大きいと搭載量も増えるが飛行時間に影響する場合がある
- 散布性能…自身の圃場や目的にあった性能を選ぶ際の重要なポイント
- 離陸重量…最大離陸重量が25kgを超えると個人で所有するハードルが高くなる
- 自動飛行の有無…自動航行システムがあれば効率的な散布が可能
- バッテリーの種類…インテリジェントバッテリー搭載のものがおすすめ
農業用ドローンの機体選びについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しておりますので、ぜひご覧になってみてください。
農業用(農薬散布用)ドローンのおすすめメーカーは?価格や補助金、選び方もご紹介
代理店の説明会やデモフライトを積極的に利用しよう
機体選びが作業効率を大きく左右する農業用ドローンは、実際に農薬散布などのデモンストレーションを目の前で見てから決めるのが一番の方法です。
農業用ドローンは基本的に直販されておらず、購入する際は各社グループ販売店、農機販売店、JAなどを経由して購入することになります。
販売店によってはデモフライトや説明会を開催したり、デモフライトの要望を受け付けてくれるところがあるので、そのような機会は積極的に利用しましょう。
また、このような機会があれば運用にあたっての疑問点なども担当者に聞くことができるので、不安をなくしてから導入に踏み切ることができるというメリットもあります。
ドローンによる農薬散布は飛行の事前申請が必要
航空法では、ドローンによる農薬散布は国土交通大臣の承認が必要となる飛行形態「危険物輸送」「物件投下」に該当するため、事前の申請と承認が必要です。
ドローン操縦者には基準が設けられており、飛行に係る法律や飛行に係る知識、操作技能、飛行経歴などを満たさなければなりません。
具体的には、以下の条件を満たしている必要があります。
- 総飛行時間10時間以上の飛行経歴
- 空中散布については物件投下の経験回数5回以上
【総飛行時間10時間以上の飛行経歴】
プロポの操作に慣れるため、離着陸・ホバリング・前後左右方向の移動・水平面内での飛行といった操作が容易にできるようになるまで、10時間以上の操縦練習を実施することが必要とされています。
また、
- 操縦練習は十分な経験を有する者の監督の下に行う
- 訓練場所は許可等が不要な場所又は訓練のために許可等を受けた場所で行う
とされているため、実質的にはスクールに通うのが一番簡単な方法だと思われます。
なお、飛行経験として認められるのは200g以上のドローンでの飛行経験です。
【空中散布については物件投下の経験回数5回以上】
物件投下の経験は時間ではなく回数で、5回以上の経験が必要と規定されています。
空中散布など飛行中に機体重量が変化する状況下においても安定した操縦が行えるよう、訓練のために許可を受けた場所または屋内で練習を行います。(空中散布の訓練は実際の農薬ではなく水などを使用)
このような物件投下の経験については現実的に難しいので、ドローンスクールで講習を受けるのが確実でしょう。
(国土交通省「ドローンで農薬散布を行うために」)
申請書の作成要領はこちらから確認できます。
承認申請の申請書記載例はこちら。
ドローンを使った農薬散布における申請の全体像は、こちらの記事でより詳しく解説しています。
農薬散布ドローンで必要な申請は3つ!手続きの流れや手順を徹底解説
まとめ
農業用ドローンで資格が必要なケースや農業用ドローンの選び方、技能認定を受ける方法について紹介してきましたが、もう一度大まかな要点を確認しておきましょう。
- 農業用ドローン、選ぶ機体によって技能認定を受けなければ購入できないケースがある。認定後でなければ購入できないのは以下の2つの場合。
- 農林水産航空協会の認定機を使用する場合
- DJI、クボタの農業用ドローンを使用する場合
- どんなドローンを選ぶにしても、ドローンによる農薬散布は国土交通大臣の承認が必要となる飛行形態「危険物輸送」「物件投下」に該当するため、事前に承認申請が必要。
- 認定機と認定機以外のドローンの違いは以下の通り。
- 認定機を選ぶメリットは以下の4点
- 散布性能が保証されているので安心して使用できる
- 教習所に通うことでさまざまな知識が得られる
- 実技訓練を受けられるのですぐに農薬散布に取り掛かることができる
- 受けられる補助金や助成金の対象が多い
- 農水協やUTCの認定機の技能認定を受けるには、それぞれの機体ごとに設定された教習施設で行われる教習を受講することが必要。
- 技能認定は機種ごとに発行されるため、認定を受ければ全ての機種が扱えるというわけではない。
- 資格取得までにかかる日数は、無人ヘリコプター操縦経験者であれば2~4日、未経験者は最短で5日のカリキュラムが多い。費用はおおよそ18万〜30万円程度。
- 農業用ドローンを選ぶポイントは以下の6つ。
- 最大飛行時間
- タンク容量
- 散布性能
- 離陸重量
- 自動飛行の有無
- バッテリーの種類
- 機体選びには代理店のデモフライトや説明会を積極的に利用するのがおすすめ。
- ドローンによる農薬散布は飛行の事前申請が必要で、操縦者は以下の条件を満たしていることが必要。
☑総飛行時間10時間以上の飛行経歴
☑空中散布については物件投下の経験回数5回以上
農業用ドローンは一般のドローンに比べ大型で、重量も重く低空を飛行するため、様々なリスクを抱えて飛行します。
さらに、一般のドローンが「写真や映像を撮る」といった『データを取得して持ち帰る』という用途であるのに対し、農業用ドローンは「農薬を散布する」という『運んで行って落としてくる』という全く別の用途で使用されます。
このため、技能認定の要不要に関わらず、正しい知識と技術を習得してから導入することが必要不可欠です。
また、ドローンによる農薬散布には飛行の事前申請が必要であり、操縦者には10時間以上の飛行経歴や物件投下の経験が必要となることも忘れてはいけません。
本記事で得られた知識を元に、あなたの圃場・用途に合った農業用ドローンが入手でき、有効的に活用されることを願っています。