「ドローンに赤外線カメラをつけて点検作業したいけれど、後付けできる? 価格はどれくらい?」
「赤外線カメラを搭載したドローンは、どんなことに役立つ?」
この記事を読んでいるあなたは、そんな疑問を持っているのではないでしょうか。
一般的なドローンには、写真や動画を撮影するための普通のカメラが搭載されていますが、それ以外にも「赤外線カメラ」が搭載された機種があります。
また、普通のドローンに、赤外線カメラを後付けすることも可能です。
「赤外線カメラ」とは「温度を可視化するカメラ」なので、これを搭載したドローンは、建物の点検で目視では見えない内部の異常を検知したり、農作物の生育状況を管理したり、夜間の暗闇の中で生き物の姿を捉えたりと、さまざまな分野で活用されています。
その主な活用シーンには、以下のようなものがあります。
- 太陽光発電のソーラーパネルを点検する
- 農作物の生育状況を調査する
- インフラ設備を点検する
- 12条点検の外壁調査を行う
- イノシシなど野生動物を調査・監視する
- 遭難者を捜索・救助する
- 夜間の監視・警備、不審者の空撮ができる
そこでこの記事では、ドローンの赤外線カメラについてくわしく説明していきます。
◎ドローンの赤外線カメラとは?
◎赤外線カメラの仕組み
◎ドローン向け赤外線カメラの価格相場
◎ドローンに赤外線カメラを搭載するとできること
◎赤外線カメラ搭載ドローンを利用するメリット
◎ドローンに搭載できる赤外線カメラ4種と、赤外線カメラ搭載ドローン2種を紹介
◎赤外線カメラ搭載ドローンを利用する際の注意点
最後まで読めば、知りたかったことがわかるはずです。
この記事で、あなたが目的に適う赤外線カメラ付きドローンを見つけて活用できるよう願っています。
目次
ドローンの赤外線カメラとは
ドローンには、写真や動画の撮影ができるカメラが搭載されているのが一般的ですが、それ以外に「赤外線カメラ」を搭載することもできます。
この赤外線カメラとはどんなもので、何のためにドローンに搭載するのでしょうか?
ドローンの赤外線カメラとは?
「赤外線カメラ」とは、端的に言えば「温度を可視化するカメラ」です。
一般的なカメラは、光を感知して画像として写し出しますが、赤外線カメラは「赤外線」を感知します。
物体が放射している赤外線は温度によって異なるため、赤外線カメラで撮影すると、ものの温度が画像として写し出されるのです。
このカメラをドローンに搭載することで、通常のカメラではわからないことを可視化することができます。
たとえば、建物を写して目視では見えない内部の異常を検知したり、夜間の暗闇の中で生き物の体温を感知して、その姿を捉えたりすることが可能です。
そのため、産業用ドローンとして、点検や調査、探索を行うドローンには、この赤外線カメラが搭載されているというわけです。
【赤外線カメラで住宅の熱損失を検出、断熱性能を調べる様子】
赤外線カメラの仕組み
赤外線カメラの仕組みを、もう少しくわしく説明しておきましょう。
そもそも「赤外線」は、絶対零度以上の温度をもつすべての物体から放射されている電磁波の一種です。
人間の目には見えませんが、その放射量は、温度が高いほど多くなります。
そのため、カメラで赤外線を感知すれば、対象物の温度の差を可視化することができるわけです。
【赤外線カメラで体温の高い人を検出する(イメージ)】
ただ、赤外線の放出量は、物質の素材やその表面の状態などによっても異なります(これを「放射率」と言います)。
以下のように、人体の放射率は98%と大きいのに、金属は数%〜数十%と小さいのです。
そうなると、同じ温度のものを赤外線カメラで写しても、素材によって写り方が異なってしまうでしょう。
品名 |
放射率 |
アルミニウム |
4~9% |
アルミニウム酸化物 |
76% |
銅 |
5% |
銅酸化物 |
78% |
鉄 |
14~38% |
赤く錆びた鉄 |
69% |
黒色ラッカー |
96~98% |
コンクリート |
94% |
皮膚(人体) |
98% |
水 |
92~96% |
そのため、赤外線カメラでは、さまざまな画像処理技術を組み合わせることで、温度を可視化しています。
ドローン向け赤外線カメラの価格相場:数十万〜100万円以上
このような高度な技術が組み込まれている赤外線カメラですので、価格も決して安価ではありません。
今回、「ドローンに搭載できる赤外線カメラ4種」でカメラを4種紹介していますが、それらの価格は安いもので27万円(BIZWORKS「Yubaflex」)、高いものでは100万円を超えます(DJI「Zenmuse H20T」)。
中には「価格は要問い合わせ」で、取り付けるドローンやそれに伴うカスタマイズによって価格が変わるものもあり、「相場はいくらと言い切れない」のが正直なところです。
ただ、赤外線カメラはホビー用ではなく産業用なので、ある程度以上の高い性能が求められ、必然的に価格も数十万〜100万円以上になるということでしょう。
赤外線カメラ搭載ドローンはレンタルもできる
「ドローンで赤外線カメラを使いたいけれど、高価すぎて購入できない」という場合は、レンタルするといいでしょう。
ドローンを貸してくれるレンタル会社はいろいろあり、もちろん赤外線カメラつきの産業用ドローンを保有しているところも多いので、その中から条件に合ったものを探して借りるといいでしょう。
レンタルの場合、1泊2日で1万5,000円〜程度で借りることができます。
ドローンだけでなく、プロのドローンパイロットもあわせて派遣してくれるレンタル会社もありますので、「年に1〜数回しか使わない」という場合などは、ぜひ検討してみましょう。
ドローンのレンタルについては、別記事「ドローンレンタルとは?1日・1ヶ月の料金や安い会社を含む業者8選」でくわしく説明、レンタル会社も紹介していますので、そちらを参照してください。
ドローンに赤外線カメラを搭載するとできること
前章で、ドローンに赤外線カメラを搭載すると点検などができる、と言いましたが、具体的にはもっとさまざまな活用がなされています。
そこでこの章では、ドローンに赤外線カメラを搭載することで何ができるか、くわしく解説しましょう。
主な活用方法には以下のようなものがあります。
- 太陽光発電のソーラーパネルを点検する
- 農作物の生育状況を調査する
- インフラ設備を点検する
- 12条点検の外壁調査を行う
- イノシシなど野生動物を調査・監視する
- 遭難者を捜索・救助する
- 夜間の監視・警備、不審者の空撮ができる
順番に解説します。
太陽光発電のソーラーパネルを点検する
まず、太陽光発電のソーラーパネル点検を、赤外線カメラを搭載したドローンで行うケースが増えています。
太陽光発電の設備は、保守点検やメンテナンスが義務付けられています。
もし不具合や故障を放置していると、発電効率が悪くなったり、事故につながったりするリスクがあるためです。
特に、落ち葉や鳥のフンなどが付着すると、その部分が局所的に発熱して不具合を起こす「ホットスポット」という現象には注意しなければなりません。
そこで、赤外線カメラでパネルの発熱状態に異常な箇所がないかを点検する必要があります。
これまでは、人が赤外線カメラを持って点検していましたが、数千枚のソーラーパネルが設置された巨大な発電施設の点検には膨大な手間と時間がかかってしまいます。
また、住宅用の場合は、屋根に登って点検しなければなりません。
その点、ドローンに赤外線カメラを搭載して上空を飛ばせば、広大な発電施設も住宅の屋根の上も短時間で安全に点検することが可能です。
関連記事:【ドローンの太陽光パネル点検】メリットと方法・費用や報告書例も紹介!
プロに聞く!太陽光パネル点検へのドローン導入のキーポイントとは?
農作物の生育状況を調査する
近年は、農業にIoTなどの最先端技術を取り入れる「スマート農業」の取り組みもさかんになってきました。
その一環として、赤外線カメラを搭載したドローンも導入されています。
農地を上空から赤外線カメラで映すと、農作物の温度分布がわかります。
それにより、
- 作物の光合成の状態
- エリアごとの生育ムラ
- エリアごとの日照時間の違い
- 高温障害(=温度が高すぎるため、作物に水分不足などの障害が出る)の発生
などを知ることができるのです。
問題が生じている場所がわかれば、そこに水や肥料を与えるなどの対策を講じることができるので、農作業の効率化や品質の向上につながります。
また、虫害を早期に発見する試みも行われています。
作物によっては、虫に葉を食われることで温度が上昇するものがあり、それを赤外線カメラで感知することができたそうです。
この研究が進めば、早めに駆除対策をとることができるようになり、虫害を減らす効果が期待できるでしょう。
関連記事:農業用(農薬散布用)ドローンのおすすめメーカーは?価格や補助金、選び方もご紹介
農業用ドローンのレンタルはおすすめ?費用や代行サービスとの比較も
インフラ設備を点検する
道路、鉄道、橋、ダム、電線などのインフラ設備点検にも、赤外線カメラ搭載ドローンが活用されています。
通常のカメラを搭載したドローンも、点検作業では導入が進んでいますが、それだと外観を目視するのみです。
一方、赤外線カメラであれば、目で見ただけではわからない内部の不具合、たとえばコンクリートに生じたひび割れ、浮き、剥離などの破損も、温度の差として検知することができます。
インフラ設備には、高所や狭い場所など人が点検するには危険な部分もあります。
また、内部の状態は目で見えないため、これまでは叩いて音の変化で異変を察知するなどの点検方法をとっていました。
それらの問題は、赤外線カメラとドローンで解決することができるため、今後ますます点検分野での活用が進んでいくと予想されています。
関連記事:【ドローンの赤外線外壁点検(調査)】メリット・費用・注意点・始め方をインタビュー
12条点検の外壁調査を行う
また、同じ点検でも、建築基準法第12条に定められたいわゆる「12条点検」で、ドローンによる赤外線調査が注目されています。
「12条点検」とは、不特定多数の人が利用する建物について、所有者が定期的に調査をして国に報告する制度です。
この調査点検項目の中に、建物の外壁点検が義務付けられていて、従来はハンマーで叩いて調べたりしていました。
が、2022年、この調査方法に「無人航空機による赤外線調査」が含まれたのです。
これまでも、赤外線やドローンでの調査は認められていましたが、建築基準法の一環として正式に明文化されたことで、今後活用が進むと考えられています。
赤外線カメラを搭載したドローンで外壁を映すと、ひび割れやコンクリートの浮き上がり、タイルの剥落などがひと目でわかります。
人が直接壁面を叩いて調査するよりも、時間も手間もコストも節約できるのがメリットです。
ただし、この調査方法には「テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するもの」という条件がつけられています。
つまり、12条点検をするならどんな赤外線カメラでもいいわけではなく、従来のハンマーを使った方法と同じくらい正確に不具合を検知できるものでなければならないわけです。
この点検については、国土交通省が「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン」を公開しています。
実施する際には、このガイドラインに従って行うといいでしょう。
【12条点検についての条文など】
<建築基準法>
第十二条 第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物(以下この項及び第三項において「国等の建築物」という。)を除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築物(同号に掲げる建築物その他政令で定める建築物をいう。以下この条において同じ。)で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物を除く。)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者(次項及び次条第三項において「建築物調査員」という。)にその状況の調査(これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、これらの建築物の建築設備及び防火戸その他の政令で定める防火設備(以下「建築設備等」という。)についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
外壁の調査方法
(改正前)テストハンマーによる打診等により確認し、
↓
(改正後)テストハンマーによる打診等(無人航空機による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものを含む。以下この項において同じ)により確認し、
イノシシなど野生動物を調査・監視する
意外なところでは、イノシシやサル、クマなどの野生動物を調査、監視することにも利用されています。
近年、野性の動物が市街地に出没し、田畑を荒らしたり人に危害を加えたりするケースが目立ってきました。
そこで、赤外線カメラを搭載したドローンで普段から野生生物の行動を調査したり、田畑などに入り込まないよう監視したりするわけです。
赤外線カメラは、昼間はもちろん夜の暗い中でも動物の姿を体温で捉えることができます。
また、ドローンは上空を飛ぶため、人が踏み入れづらい地形の山なども上から撮影することが可能です。
そのため、この方法であれば、夜行性の動物の動きも見逃さず把握できるというわけです。
さらに、ドローンに爆竹やサイレンを取り付けて、生物を発見した際に鳴らせば、その場所から追い払ったり山の中へ誘導したりすることもでき、害獣避けにも役立っています。
遭難者を捜索・救助する
災害や事故などの緊急事態においても、赤外線カメラを搭載したドローンが活躍します。
たとえば、雪山で遭難して雪に埋もれてしまった人や、地震で倒壊した建物に取り残された人などを、目視で発見するのは困難です。
状況によっては、ヘリコプターなども危険で近づけないかもしれません。
その点、ドローンであれば人が立ち入れない場所にも近づける可能性がありますし、赤外線カメラでがれきなどに埋もれた人の体温を検知することができるのです。
夜間でも、二次災害の恐れがある場所でも、迅速に捜索、救助ができる手段として、実際に自治体や山岳救助グループなどで利用されています。
夜間の監視・警備、不審者の空撮ができる
赤外線カメラの特徴である、「暗い場所でも対象を検知できる」ことを活かして、夜間の警備業務でも活躍が期待されています。
たとえば、
- ドローンにより、人が巡回するより広範囲を効率的に監視
- 夜間でも、赤外線カメラで不審者を発見、撮影
- 不審者が逃走した場合は、ドローンで追跡、撮影
- ドローンにスピーカーやサイレンを搭載して、不審者に警告
といったことが可能です。
近年、犯罪の凶悪化が懸念される中で、警備業務にともなう危険も高まっています。
赤外線カメラとドローンで警備すれば、人が危険な目に遭うことなく、広い範囲を24時間常時警備することができるでしょう。
ただ日本では、警備分野での赤外線カメラ搭載ドローンの活用はまだ始まったばかりです。
これから実証実験などを経て、実用化と普及が急がれています。
赤外線カメラ搭載ドローンを利用するメリット
このように、赤外線カメラを搭載したドローンは、さまざまな分野で活用されています。
が、その業務はこれまで人力で行ってきたものです。
それを赤外線カメラとドローンに置き換えることで、どんなメリットがあるでしょうか?
それは主に以下の6点です。
- 点検・調査のコストカットができる
- 点検・調査の時間を短縮できる
- 危険な作業を安全に行える
- 人が立ち入れない場所も点検・調査できる
- 対象物を傷つけずに点検・調査できる
- データを可視化できる
それぞれ説明します。
点検・調査のコストカットができる
まず第一に、これまで人力で行っていた点検や調査を、赤外線カメラ搭載ドローンで行うことで、コストカットが可能です。
特に、インフラや建物などを人が直接点検する際には、足場を組む必要があり、この費用がばかになりません。
足場を組む費用の相場は、1㎡あたり600〜1,200円程度と言われているので、一般的な戸建でも10万〜25万円、マンションのような大きな建物だと100万〜数百万円かかることもあります。
赤外線カメラ搭載ドローンであれば、この費用はまるまるカットできるわけです。
また、複数人で行っていた点検を、ドローン1台(操縦者1名)でできるなら、人件費も節約できるでしょう。
点検・調査の時間を短縮できる
第二に、コストだけでなく時間の短縮にもなります。
たとえば建物の12条点検で、外壁調査を人力でする場合、ハンマーで表面を叩いていくわけですから、大きな建物全体を点検し終えるまでには、半月〜1ヶ月程度の時間がかかってしまうでしょう。
一方、ドローンから赤外線カメラで撮影すれば、広い面を一瞬で点検することができるので、たいていは1日で終わります。
太陽光発電施設も同様です。
国内に多い出力約2MWの高圧連系の発電所の場合、人力で点検すると1〜2日間かかりますが、赤外線カメラ搭載ドローンであれば15〜20分程度でできると言われています。
危険な作業を安全に行える
また、ドローンは無人で遠隔操作するものですから、危険な作業でも人は安全な場所にいながら行うことができます。
高所での点検、被災地や事故現場での捜索、夜間の警備など、いずれも人が行う場合は危険がともないます。
それをドローンと赤外線カメラに任せることで、リスクを軽減させることができるわけです。
とはいえ、ドローンにも危険はあります。
悪天候では飛ばせませんし、無理に飛ばせば墜落するかもしれません。
また、人やモノに衝突する事故も起こり得ます。
そのためドローンで作業をする際には、スキルと経験豊富なパイロットが操縦に当たることが重要です。
人が立ち入れない場所も点検・調査できる
前項とも関係しますが、狭い場所や危険な場所など、人が立ち入れないところにも入っていけるのがドローンの強みです。
そのため、赤外線カメラを搭載したドローンは、人力では難しい点検や調査にも向いています。
たとえば、高層ビルやダム、橋梁などの点検はもちろん、狭い配管の中に入って点検することも可能です。
実際、水力発電に用いられる水を通す水圧鉄管の点検や、ダクトの汚れ診断なども行われています。
対象物を傷つけずに点検・調査できる
12条点検の打診などでは、ハンマーで叩いたり人が触れたりすることで、劣化した部分が損壊したり、タイルが剥落したりする恐れがありました。
が、赤外線カメラは「非接触」で点検が可能です。
対象物に触れることなく、離れた位置から温度で異常を検知します。
さらに、建物や設備を壊さなくても、内側のひび割れや水漏れなどを発見することもできます。
つまり、劣化が進んだ建物などでも、現状に悪影響を与えることなく点検・調査できるというメリットがあるのです。
データを可視化できる
さらに、調査結果を画像として可視化できるのも利点です。
人力での調査では、その記録をひと目でわかりやすくまとめるのが難しいものもあります。
たとえば12条点検の打診は、人がハンマーで外壁を叩いてその音で判断します。
そのため、数字や画像とは違って、客観的なデータとして共有しづらいのです。
その点赤外線カメラの映像であれば、異常箇所が画像にはっきりと残ります。
点検結果を説明したり、修理の必要性を検討したりする際に、客観的なデータとして共有することができるでしょう。
ドローンに搭載できる赤外線カメラ4種と、赤外線カメラ搭載ドローン3種を紹介
ここまで、赤外線カメラとそれを搭載するドローンについて、役割やメリットなどを説明してきました。
それを踏まえて、「自分も赤外線カメラを搭載したドローンを利用したい」という人もいるでしょう。
そこでこの章では、ドローンに搭載できる赤外線カメラの例を紹介しましょう。
また、最初から赤外線カメラが搭載されているドローンもありますので、それらも挙げておきます。
ドローンに搭載する赤外線カメラを選ぶ際は、必ず専門家に相談を
実際に商品を紹介する前に、まず知っておいて欲しいことがあります。
それは、「赤外線カメラ選びは、必ず専門家に相談すべき」ということです。
というのも、正直言ってシロウトがどれを導入するか、選ぶのは難しいからです。
まず第一に、カメラを後付けする場合は、すべてのドローンに搭載できるわけではありません。
「カメラだけ買ったけれど、手持ちのドローンに合わなかった」
「自分のドローンにどのカメラが搭載できるかわからない」
ということもあるでしょう。
また、赤外線カメラを用いたドローン点検・調査は最先端技術が活用されていて、日進月歩です。
自分が行いたい作業には、どんな機能を備えた赤外線カメラが必要なのか、スペック表だけから判断するのは難しいと思います。
そこで、ドローン用の赤外線カメラ(あるいは赤外線カメラ搭載ドローン)を購入、レンタルする前に、かならずくわしい人に相談しましょう。
製品を製造販売しているメーカーや、販売代理店、レンタル会社などで相談に乗ってくれます。
「何のために利用するのか」「予算はどれくらいか」など詳細を伝えて、「どのカメラ(付きドローン)がいいか」アドバイスを受けた上で、最適なものを選んでください。
ドローンに搭載できる赤外線カメラ4種
赤外線カメラ選びの心得がわかったところで、では実際に入手可能な製品を見ていきましょう。
まず、ドローンに後付けできる赤外線カメラを4種紹介します。
DJI「Zenmuse H20T」
出典:DJI公式サイト「ZENMUSE H20シリーズ」ページ
ドローンの代表メーカー「DJI」によるジンバルカメラ「Zenmuseシリーズ」の中でも、2020年に発売された最新製品が「Zenmuse H20T」です。
赤外線の放射から正確な大気温度を取得、視覚化する「放射分析サーマルカメラ」は、
- スポット測定:モニターをタップすることで、その場所の表面温度をリアルタイムで測定する
- エリア測定:モニターでエリアを選択することで、そのエリア内の最高温度、最低温度、平均温度がわかる
といった機能を備えています。
さらに、遠くからでも接近した映像を撮影できる、最大200倍ズームというパワフルなズームカメラ、対象物を広く画像に収められる広角カメラ、最大1200 mの範囲内で、離れた対象物までの距離を測定できる正確なレーザー距離計も搭載、さまざまな分野での点検、調査、測量などに活用できます。
価格 |
参考販売価格:107万8,000円(セキドオンラインストア) |
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重量 |
828±5 g |
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サイズ |
167×135×161 mm |
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対応する機体 |
Matrice 300 RTK など |
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サーマルカメラ |
レンズ |
DFOV(対角視野):40.6° |
デジタルズーム |
1倍、2倍、4倍、8倍 |
|
動画解像度 |
640×512 @ 30 Hz |
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画像解像度 |
640×512 |
|
温度分解能(NETD) |
≤50 mK @ f/1.0 |
FLIR「FLIR Vue Pro R」
出典:フリアーシステムズ公式サイト「FLIR Vue Pro R」ページ
「フリアーシステムズ」は、赤外線カメラの設計、製造、販売を手掛けるグローバル企業として知られています。
高性能・低価格の空撮用赤外線技術で他社をリードしている同社では、ドローンに搭載できる赤外線カメラを何種か製造販売していますが、中でも「FLIR Vue Pro R」は小型ながら業務用の高機能を備えた赤外線サーモグラフィカメラです。
価格は62万6,000円~で、ドローンによるソーラーパネル検査、インフラ設備や建物の点検・検査、野生動物の監視、天然資源の管理・保護、行方不明者の捜索・救助などに幅広く活用されています。
サーマル映像と14-bit静止画像は伝送ではなく、マイクロSDカードにフルデータレコーディングされるため、電波不調などによるデータ消失のリスクが軽減されるのがメリットです。
また、各メーカーのドローンに簡単に取り付けられるので、導入しやすいのも利点でしょう。
価格 |
62万6,000~113万2,000円 |
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重量 |
92~113.4g(構成による) |
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サイズ |
57.4 × 44.45 × 44.45 mm(レンズ含む) |
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対応する機体 |
世界の主要な機体の多くに取り付け可能 |
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サーマルカメラ |
レンズ |
13 mm; 25° × 19° ・NTSCアナログ出力用FOV:9 mm、34° × 26° |
ズーム |
アプリケーションまたはPWMを介して調整可 |
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HDMI出力 |
1280×720 @ 50hz、60hz |
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IRカメラの解像度 |
336 × 256 |
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センサー解像度 |
336 × 256 |
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放射測定精度 |
+/-5°Cまたは読み取り値の5% |
BIZWORKS「Yubaflex」
出典:BIZWORKS公式サイト「Yubaflex」ページ
「Yubaflex」は、日本企業「BIZWORKS株式会社」が長崎大学大学院や広島県立総合技術研究所の協力のもと開発した、植生指標(NDVI)画像生成用の近赤外カメラです。
一般のコンパクトデジカメを改良して近赤外・赤・緑の3バンドを同時撮影できるようにしたものなので、非常に小型軽量なのが特徴で、価格も27万円と他社製品に比べて手頃に設定されています。
「植生指標」とは、植物の量や活力を表す指標です。
赤外線カメラで空から植物を撮影することで、光合成の活性度合いを見える化して、異常があれば早期に検知、対応することができます。
「Yubaflex」は、別売りの取り付けパーツでDJIのMavic、Mavic2、Phantom4などに取り付けることが可能です。
また、BIZWORKSではYubaflex専用ドローン「Comugi」も販売していますので、あわせて利用するのもいいでしょう。
価格 |
27万円 |
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重量 |
198 g(バッテリー・メモリーカード含む) |
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サイズ |
幅 99 × 高さ 60 × 奥行き 27 mm |
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対応する機体 |
Mavic、Mavic2、Phantom4 など |
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サーマルカメラ |
光学ズーム |
5倍 |
解像度 |
3000×4000ピクセル/1,210万画素 |
MicaSense「RedEdge-P」
出典:MicaSense公式サイト「RedEdge-P Integration Guide」ページ
「RedEdge-P」は、アメリカの「MicaSense」社が提供するマルチスペクトラルカメラです。
コンパクトで軽量、さまざまなタイプの産業用ドローンに取り付けることができます。
青、緑、赤、赤のエッジ、近赤外線の5つのスペクトルバンドに対応、各160万画素の画像を取得でき、主に農業・林業・測量分野で、植物の数を数えたり種類を区別したり、栄養素の少ないエリアを識別して肥料の管理に役立てたり、植生指標(NDVI)画像を生成したりと多様に活用されています。
価格 |
要問い合わせ |
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重量 |
350 g(本体 + DLS2) |
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サイズ |
89 x 70 x 67 mm |
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対応する機体 |
DJI M200シリーズ、M300、Inspire2をはじめ、大型ドローンから小型ドローンまで幅広く取り付け可能 |
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サーマルカメラ |
視野角 |
50°HFOVx38°VFOV(MS) |
センサー解像度 |
1456 x 1088(MSバンドあたり1.6MP) |
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スペクトルバンドと波長 |
青(中央値475 nm、帯域幅32 nm) |
赤外線カメラ搭載ドローン3種
次に、あらかじめ赤外線カメラが搭載されているドローンの機種を紹介します。
DJI「Matrice 30T」
出典:DJI公式サイト「Matrice 30シリーズ」ページ
まずDJI機から、「Matrice 30T」を挙げておきましょう。
「Matrice 30T」は、コンパクトに折りたためて持ち運びやすい業務用ドローンです。
広角カメラ、ズームカメラにサーマルカメラも搭載、赤外線画像をはじめ、さまざまな画像やデータを取得することができます。
DJI独自のドローン管理プラットフォーム「FlightHub 2」を利用すれば、クラウドマッピング機能で素早く赤外線マップを作成したり、取得データを管理したりすることも可能です。
スマート農業、環境調査、生態系の保護など幅広い分野に活用することができるでしょう。
価格 |
参考価格:113万6,000円(セキドオンラインストア) |
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重量 |
3770 ± 10 g(バッテリー2個含む) |
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サイズ |
展開時:470×585×215 mm(プロペラは含まない) |
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最大水平速度 |
23 m/s |
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最大飛行時間 |
41分 |
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サーマルカメラ |
サーマル撮像素子 |
非冷却VOxマイクロボロメータ |
レンズ |
DFOV(対角視野):61° |
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温度分解能(NETD) |
≤30 mK@f/1.1 |
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赤外線温度測定の精度 |
±2°Cまたは±2%(大きいほうの値を使用) |
Autel Robotics「EVOⅡ dual 640T V3」
出典:Autel Robotics公式サイト「EVOⅡ dual 640T V3」ページ
アメリカのドローンメーカー・Autel Robotics(中国企業Autel社の子会社)も、「EVOⅡ dual 640T V3」という赤外線カメラ搭載ドローンを出しています。
16倍デジタルズームを備えた640 x 512の高解像度熱画像カメラを搭載しているため、遠くの対象も鮮明に観測できるのが特徴です。
また、「EVOⅡ dual 640T V3」専用に開発された赤外線温度測定分析ツール「IRPC ツール」を無料で利用することができるので、撮影した画像を素早く分析、レポートを生成することもできます。
ソーラーパネル点検、インフラ設備点検、遭難者の捜索・救助など、幅広く活用されている機種です。
重量 |
1,209 g(プロペラ、バッテリー含む) |
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サイズ |
折りたたみ時: 230 x 130 x 108 mm |
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最大飛行速度 |
20m/秒 |
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最大飛行時間 |
38分(無風時) |
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サーマルカメラ |
センサー |
非冷却VOxマイクロボロメーター |
レンズ |
FOV H33°V26° |
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ズーム |
1~16倍 |
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ビデオ解像度 |
640×512@25fps |
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カメラ解像度 |
赤外線モード: 640*512 |
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可視光カメラ |
センサー |
1/1.28インチ(0.8インチ)CMOS; 有効5,000万画素 |
レンズ |
FOV: 85° |
|
ズーム |
1~16倍(最大4倍ロスレスズーム) |
|
写真の最大サイズ |
8192*6144(4:3) |
|
ビデオ解像度 |
3840x2160P60/P50/P48/P30/P25/P24 |
ACSL「SOTEN(蒼天)」+オプションカメラ
出典:ACSL公式サイト「SOTEN(蒼天)」ページ
国産ドローンでは、代表的なメーカーのひとつ「株式会社ASCL」の小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」に、オプションとして「赤外線カメラ+可視カメラ」を搭載することができます。
赤外線カメラは81,920画素、動画撮影画質は 60p、温度分解能は60mKまで対応しています。
標準カメラから赤外線カメラへの切り替えはワンタッチで可能なので、通常の空撮と赤外線カメラでの空撮との両方を行いたいときなども、臨機応変に対応できるでしょう。
「SOTEN(蒼天)」の大きな特徴は、そのセキュリティ性の高さです。
機密性の高いデータを扱う場合には、ぜひ選択肢に入れて検討してください。
価格 |
オープン価格 |
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重量 |
1,720g(標準カメラ及びバッテリー含む) |
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サイズ |
全長:アーム展開時 637mm×560mm (プロペラ含む) |
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最大飛行速度 |
15 m/s(無風時) |
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最大飛行時間 |
標準カメラ搭載時、風速8m/s条件下:25分 |
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赤外線カメラ |
有効画素数 |
可視カメラ:約1,200万画素 |
動画撮影画質 |
可視カメラ : FullHD / 60p |
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温度分解能(NETD) |
<60mK |
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動画撮影時間 |
撮影可能時間:60分 |
赤外線カメラ搭載ドローンを利用する際の注意点
さて、ここまで読んで、「自分も赤外線カメラを搭載したドローンを利用したい」と考える人も多いでしょう。
そんな人のために、最後に説明しておきたいのが、利用の際の注意点です。
以下の4点に留意してください。
- 法的な規制がある場合は、事前に許可申請をする
- 対象物と適切な距離を保つ
- 気温や日照の状態によっては正確な点検ができない恐れがある
- 目視点検はできるが作業はできない
法的な規制がある場合は、事前に許可申請をする
ご存知のように、ドローンを飛ばす際には、飛ばす場所や飛ばし方によっては法的な規制があります。
規制されている飛行を行いたい場合は、事前に国土交通省などに許可申請をしなければなりません。
たとえば、赤外線カメラが必要なシーンとしては、「夜間の飛行」「目視外での飛行」「人または物件から30m未満での飛行」などは規制の対象です。
これらを無許可で行うことは違法行為であり、50万円以下の罰金を科せられる恐れがありますので、かならず許可申請を行ってください。
どのような場合に申請が必要かについては、別記事「【フローチャート付】ドローンの飛行許可が必要な全24ケースを徹底解説」にくわしく解説していますので、ドローンを飛ばす前にはよく読んで理解しておきましょう。
対象物と適切な距離を保つ
赤外線カメラは、対象物に近づけば近づくほど高画質で撮影できます。
つまり、点検作業などを行う際には、できるだけ接近したほうが小さな異常も発見しやすくなるわけです。
が、その反面、接近しすぎるとその画像がどこを撮影したものかがわからなくなってしまいます。
特に、大きな建物の外壁や、ソーラーパネルが数百〜数千枚並んだ発電施設などでは、接写した部分が全体の中のどの位置を映したものか、判別するのは難しいでしょう。
撮影した画像がどの部分かを判別できる範囲で、可能な限り近づける距離というのは、撮影対象や状況によって異なります。
そのため、対象物とドローンとの適切な距離を探り、それを保って点検・調査するよう注意してください。
気温や日照の状態によっては正確な点検ができない恐れがある
赤外線カメラでビルやインフラ設備などの点検をする場合、注意しなければいけないのは「気温」と「日照の状態」です。
というのも、赤外線カメラによる点検は、建物の外壁や内部にヒビや隙間などがあった場合、その部分とまわりの部分の温度の違いを可視化することで異常を検知する仕組みになっています。
そこでもし、気温が高すぎたり日光が当たりすぎたりすると、全体が同じように温まってしまって異常を検知できない恐れがあるのです。
反対に、気温が低すぎても温度差が生じず、正確なデータが得られません。
そのため、気温や日の当たり具合などを考慮した上で、点検対象物が適度な温度になって差を検知しやすいタイミングで点検を行います。
このタイミングは、素人では見極めは難しいでしょう。
そこで、点検作業は経験豊富な専門業者に依頼する必要があるというわけです。
目視点検はできるが作業はできない
赤外線カメラ搭載ドローンは、目視での点検に関してはかなり高い精度で行うことができます。
が、12条点検の「外壁をテストハンマーで打診する」といった「作業」はできません。
そのため、すべての点検を人力からドローンに置き換えられないケースも生じます。
非接触ではなく、実際に触れて点検する必要がある場合などは、人力とドローンとを組み合わせて効率的に進める必要があるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
ドローンと赤外線カメラについて、よく理解できたかと思います。
では最後にもう一度、記事のポイントをおさえておきましょう。
◎ドローンの赤外線カメラとは、「温度を可視化して、建物の点検や農作物の管理などさまざまな産業に活用される」もの
◎ドローン向け赤外線カメラの価格相場は数十万〜100万円以上
◎ドローンに赤外線カメラを搭載するとできることは、
- 太陽光発電のソーラーパネル点検
- 農作物の生育状況調査
- インフラ設備点検
- 12条点検の外壁調査
- イノシシなど野生動物の調査・監視
- 遭難者の捜索・救助
- 夜間の監視・警備、不審者の空撮
◎赤外線カメラ搭載ドローンを利用するメリットは、
- 点検・調査のコストカットができる
- 点検・調査の時間を短縮できる
- 危険な作業を安全に行える
- 人が立ち入れない場所も点検・調査できる
- 対象物を傷つけずに点検・調査できる
- データを可視化できる
◎赤外線カメラ搭載ドローンを利用する際の注意点は、
- 法的な規制がある場合は、事前に許可申請をする
- 対象物と適切な距離を保つ
- 天候を考慮する
- 目視点検はできるが作業はできない
- 電波の影響を受ける恐れがある
これらを踏まえて、あなたがドローンと赤外線カメラをうまく活用できるよう願っています。